イルミネーションが見えない私へのプレゼントは、オルゴールでした
私は目が見えない。
去年の交通事故で顔に傷を受け、一命は取り留めたものの、両目の視力を完全に失った。
私は自分を可哀想だと思った。不運だと思った。
まだやりたいことがあった。
そんなことを考えても、開かなくなった目からは涙も出なかった。
「今日も来たよ。調子はどう?」
彼は幼稚園からの幼なじみで、目が見えない私にいつも気を遣ってくれる、心優しい人だ。
大学生になった今になっても絶えず、毎日家まで来て私に話をしてくれる。
「もうすぐクリスマスか。1年は早いなあ。今年の冬は暖かそうだね」
私には彼の表情が見えないけれど、穏やかな目で語る温厚な彼を想像すると、自然と心が安らいだ。
迎えたクリスマス。
今思えば今年は、学生であった頃と比べれば、本当にあっという間だったように感じる。
それも、生きる意欲を失ってきているからなのかもしれない。
目の前に広がる暗い灰色は依然として、私に無条件に味気なさを見せてくる。
「お邪魔しまーす。今日はメリークリスマスだね!」
彼がいつものトーンで家に訪ねて来た。
彼が来てくれると、無彩色に染まった暗い思考に鮮やかな色水が注がれたかのように、自然とポジティブになれる。
「今日はさ、渡したいものがあって来たんだ。じゃあ、聴いて欲しい」
そう言って彼は何かを机に置いた。
聞こえてきたのは、雪がしんしんと降るような、柔らかい音だった。
オルゴールだ。
「小さい頃からイルミネーションを見たかったって言ってたよね」
覚えていたんだ。
小学生の頃に、いつか二人で見に行きたい、と話していたあの夜を。
オルゴールの音はまさに、イルミネーションのようだった。
青や緑といった眩い光がそのまま音になったような、点々とした音色が、あの頃の聖夜を思い出させる。
「いつかは、君も一緒に見れるようなイルミネーションを用意するよ。僕も、一緒に見たいんだ。だから……」
「僕と結婚して欲しい」
予想もしていなかった。
暫く言葉が出なかった。
彼の優しさが、波が押し寄せるようにじわっと心に滲む。
「ずっとそばに居るから、ずっとそばに居て欲しい」
優しく包み込むような彼の温かい言葉は、私の見えなくなった目から涙を流させた。
嬉し泣きはできるんだな、私。
彼は私の頬を優しく撫でて涙を拭った。
そして、私の手をそっと、添えるように握った。
彼の温もりが体全体に沁みるように伝わる。
幸せで溢れたクリスマスの夜に、私たちを繋いだオルゴールは静かに響き続けていた。
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