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なろうラジオ大賞7

イルミネーションが見えない私へのプレゼントは、オルゴールでした

作者: 透明スケ

 私は目が見えない。


 去年の交通事故で顔に傷を受け、一命は取り留めたものの、両目の視力を完全に失った。


 私は自分を可哀想だと思った。不運だと思った。

 まだやりたいことがあった。


 そんなことを考えても、()かなくなった目からは涙も出なかった。



「今日も来たよ。調子はどう?」


 彼は幼稚園からの幼なじみで、目が見えない私にいつも気を遣ってくれる、心優しい人だ。

 大学生になった今になっても絶えず、毎日家まで来て私に話をしてくれる。


「もうすぐクリスマスか。1年は早いなあ。今年の冬は暖かそうだね」


 私には彼の表情が見えないけれど、穏やかな目で語る温厚な彼を想像すると、自然と心が(やす)らいだ。



 迎えたクリスマス。


 今思えば今年は、学生であった頃と比べれば、本当にあっという間だったように感じる。

 それも、生きる意欲を失ってきているからなのかもしれない。

 目の前に広がる暗い灰色は依然として、私に無条件に味気なさを見せてくる。


「お邪魔しまーす。今日はメリークリスマスだね!」


 彼がいつものトーンで家に訪ねて来た。

 彼が来てくれると、無彩色(むさいしょく)に染まった暗い思考に鮮やかな色水(いろみず)が注がれたかのように、自然とポジティブになれる。


「今日はさ、渡したいものがあって来たんだ。じゃあ、聴いて欲しい」


 そう言って彼は何かを机に置いた。


 聞こえてきたのは、雪がしんしんと降るような、柔らかい音だった。


 オルゴールだ。


「小さい頃からイルミネーションを見たかったって言ってたよね」


 覚えていたんだ。

 小学生の頃に、いつか二人で見に行きたい、と話していたあの夜を。


 オルゴールの音はまさに、イルミネーションのようだった。


 青や緑といった(まばゆ)い光がそのまま音になったような、点々とした音色が、あの頃の聖夜(せいや)を思い出させる。


「いつかは、君も一緒に見れるようなイルミネーションを用意するよ。僕も、一緒に見たいんだ。だから……」



「僕と結婚して欲しい」



 予想もしていなかった。

 (しばら)く言葉が出なかった。

 彼の優しさが、波が押し寄せるようにじわっと心に(にじ)む。


「ずっとそばに居るから、ずっとそばに居て欲しい」


 優しく包み込むような彼の温かい言葉は、私の見えなくなった目から涙を流させた。


 嬉し泣きはできるんだな、私。


 彼は私の頬を優しく撫でて涙を拭った。

 そして、私の手をそっと、添えるように握った。

 彼の(ぬく)もりが体全体に()みるように伝わる。


 幸せで溢れたクリスマスの夜に、私たちを繋いだオルゴールは静かに響き続けていた。

お読みいただきありがとうございます!!


良かったら、☆やブクマ、感想などよろしくお願いします!

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