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ミニマム・ドローン:僕とアリ部隊の秘密世界

作者: Tom Eny

ミニマム・ドローン:僕とアリ部隊の秘密世界


予期せぬ遭遇


公園の片隅で、ハルキは指先に乗るほどの白い超小型ドローンに目を奪われた。四つの極小プロペラを持つその機体は、光を吸い込むような鈍い輝きを放ち、地球の技術を超えた何かを感じさせた。


実はこのドローン、はるか宇宙から地球調査のために送られた異星文明の偵察機だった。そのボディの光沢は、どんな光も効率よく電力に変換する超高効率ソーラー電池。彼らは地球の生命体や環境を極小レベルで探るため、流行のデザインに擬態したような偵察機を開発していたのだ。その日、ドローンは公園上空で突如不規則な軌道を描き始めた。それは、地下に秘密基地を築く**「公園アリ部隊」が、高度な探知能力とアリ酸を利用した特殊な電磁パルス攻撃で、この異星偵察機を撃墜した瞬間だった。ハルキがそれに気づくはずもなく、地面に落ちたばかりのドローンを偶然拾い上げてしまった**のだ。


ドローンはハルキに拾われたことで、地球人への存在露見を察知。異星文明のプロトコルに従い、接触した生物を無力化(=極小化)する緊急措置を発動した。まばゆい光が放たれ、ハルキは信じられない光景に直面する。見上げていた木々はとてつもなく高くそびえ、足元の草花は巨大なジャングルに。そして、自分自身の体が、アリほどのサイズに縮んでしまったことに気づいたのだ。


絶望の中、ハルキはポケットのスマートフォンに一縷の希望を見出した。普段から小型ドローンを操縦していたハルキが、いつものアプリを起動すると、目の前の宇宙ドローンがわずかに反応したのだ。なぜ異星のテクノロジーが地球のアプリで動くのか? その謎はすぐに解けた。空中を飛び交う無数のWi-Fi電波が、ドローンの本来の制御システムに深刻な妨害を引き起こし、脆弱なバックドアを生んでいたのだ。偶然にも、ハルキのスマホアプリが発する信号がそのバックドアに合致し、ハルキのアプリが異星ドローンよりも強力な制御信号を発することになったのだ。


結果として、ドローンはハルキの意のままに動く乗り物となった。ハルキは勇気を振り絞り、白いボディのわずかな窪みや着陸用のスキッドにしがみついた。極小プロペラが作り出す微かな風を感じながら、スマホを操作し、ドローンをゆっくりと上昇させる。アリの目線から見上げていた巨大な公園が、今や彼の足元に広がる光景に変わった。風を切り、草木の山々を越え、水たまりの海を渡る。この異星の偵察ドローンは、ハルキにとって唯一無二の空飛ぶ乗り物となったのだ。


巨人の世界でのサバイバル


ハルキがまず目指したのは、自分の家だった。だが、その道のりは想像を絶する冒険となる。


公園を出てすぐ、ハルキは最初の「あるある」に直面した。前日の雨でできた巨大な水たまりだ。普段ならなんでもない水たまりが、今や煌めく広大な湖に見える。ドローンにぶら下がり、スマホで操縦すると、機体は水面ぎりぎりを滑空した。しかし、小さな水滴が雨のようにフロントガラス(センサー部分)に叩きつけられ、視界を遮るだけでなく、ドローンにしがみつくハルキの体にまで容赦なく降りかかり、機体がわずかに重くなる。まるで嵐の中を飛ぶ小さな飛行機のようだった。ハルキはドローンの高性能カメラで水面に立つ波紋から風向きを読み取り、慎重に航路を定めた。


さらに進むと、風に舞い上がった巨大な落ち葉が彼の行く手を阻んだ。それはまるで、空を漂う巨大な帆船。衝突すればドローンはひとたまりもない。ハルキはとっさにドローンを急上昇させ、落ち葉の真上を飛び越えた。その時、プロペラが巻き起こす微細な風圧が、落ち葉をわずかに揺らしたのを感じ、彼は背筋をゾッとさせた。


公園を抜け、人通りのある歩道に差し掛かると、足元の地響きにハルキは肝を冷やした。遠くの人間の話し声が、今や鼓膜を破るような雷鳴となって響き渡る。特に、足音が近づいてくると、その振動はまるで大地震だ。ドローンにしがみついたまま低空で飛ばし、瞬時に足の影を読み取り、細い亀裂や側溝の隙間を縫って回避する。まるで、巨人の間をすり抜けるスリリングなチェイスだ。足音が近づくたびに、ドローンが巻き起こす微かなプロペラ音が、かき消されるように感じられた。


そして、不意に現れたアリの行進だ。ドローンが彼らの縄張りを横切ろうとすると、何匹ものアリがドローンに群がり、小さな顎で機体を噛みつき始めた。ハルキにとっては、まるで戦闘機に群がる敵機のようだった。ハルキはスマホを巧みに操り、ドローンを左右に激しく振って急上昇、急降下を繰り返し、しつこく追いすがるアリたちを振り払った。普段は気にも留めなかったアリたちが、今や彼の命を狙う手ごわい敵なのだ。


なんとか自宅の庭にたどり着いたハルキだったが、安心する間もなかった。リビングの開いた窓から侵入した途端、そこにいたのは愛猫のミケだ。ハルキとドローンを見つけたミケは、瞳を細めて低く身構えた。まるで巨大なライオンが獲物を狙うように、ミケは忍び寄る。ドローンにしがみついたままスマホを操作し、ミケの鋭い爪や素早い動きをかわしながら、ハルキは家具の陰やカーテンの隙間へ。時には、ミケが振り回した尻尾の風圧でドローンが大きく揺らぎ、危うく振り落とされそうになる一幕もあった。普段可愛がっていたミケが、今や最も恐ろしい存在に変わっていたのだ。


家族がリビングに入ってきた時には、さらにスリリングな状況に陥る。母親が落としたスナック菓子のひとかけらが、アリサイズのハルキにとっては巨大な隕石のように着弾し、その衝撃波でドローンが弾き飛ばされそうになる。その後の平和な食卓が、ハルキにとっては**「食べ物のカスが宝の山に」**変わる場所となるだろうが、それに群がるアリたちとの争奪戦も勃発するだろう。


そして、決定的な危機が訪れる。母親が突然、掃除機をかけ始めたのだ。その轟音と吸引力は、ハルキにとって巨大な竜巻そのもの! ドローンが吸い込まれないよう、ハルキはスマホの画面に必死に指を走らせ、最大出力で上昇し、換気扇の通気口や、棚の奥のわずかな隙間へと緊急退避する。その吸引力の強さに、ドローンが軋むような音を立て、ハルキは生きた心地がしなかった。


縁の下の秘密部隊


家族の目を盗んで、なんとか自分の部屋の近くまでたどり着いたハルキは、ドローンを隠すため、普段なら絶対に入り込まないような場所を探していた。ふと、窓から庭を見下ろした時、彼の目に飛び込んできたのは、自宅の縁側の下に開いた小さな穴から、わずかに光が漏れているのを目撃した。それは、かつて彼がアリの巣を見つけては棒でつついたりしていた、あの場所だった。


ハルキはドローンを操縦し、縁側の下のアリの巣の入り口へと向かった。警戒しながら入り口に近づくと、驚くべき光景が彼の目に飛び込んできた。アリたちが頻繁に出入りする通路の奥、わずかに広くなった空間に、なんとハルキと同じアリサイズの人間が、もう一台の異星ドローンらしきものを傍らに置いていたのだ。その人物――名をアキヒコとします――は、ハルキのドローンと同じ白いボディに極小プロペラを持つドローンを持っていたが、ハルキのものよりもやや古びて見える、あるいは少し形状が異なっているようにも見えた。


ハルキのドローンのプロペラ音に気づき、アキヒコはハッとしたように顔を上げ、驚きと警戒の入り混じった目でハルキを見つめた。アキヒコは、数年前に偶然異星ドローンに触れて小さくなってしまい、以来、このアリの巣を拠点に生き延びてきた科学者だった。しかし、彼の本当の姿は、地球の平和を脅かす微小な異星生命体から世界を守る、秘密の「地球防衛アリ部隊」の一員だったのだ。


「まさか、君も同じ目に遭うとはな…そして、そのドローン!まさか、Wi-Fiで!?」アキヒコの声は、微細ながらもはっきりとした響きを持っていた。アキヒコは驚きと同時に、ハルキの中に確かな才能を見出した。アリ部隊は、以前からこの地域に住むハルキという少年が、並外れたドローン操縦の才能を持っていることを偵察ドローンで把握していたのだ。彼らは、将来的に協力を仰ぐため、ハルキの家の縁の下を主要な基地の一つとして選んでいた。まさか、異星ドローンを撃墜した直後に、彼がそのドローンを拾い、縮小化されるとは予想外だったが、これはまさに**「絶好の機会」**だとアキヒコは直感した。


「ここは、我々『地球防衛アリ部隊』の秘密基地だ。およそ50年前からこの縁の下に拠点を築き、地球に潜む**微小な地球外生命体(EXO-MICROBE)と戦ってきた。こいつらは、地中の水脈や植物の根を通じて侵入し、生態系を内部から蝕もうとしている。最近、世界中で、深海や地中深くで未確認の微細な生命反応が検知されているというニュースが報じられているのを知っているか? あれこそ、EXO-MICROBEが海や地中を通じて地球に侵入し、活動領域を広げようとしている証拠だ。我々は、地中から侵入してくるEXO-MICROBEの増殖を阻止し、最終的には地球から完全に排除することが任務なのだ。私はその研究開発部門の責任者だが、先日、任務中にトラブルに見舞われてね。君が持っているドローンも、実は我々の最新型偵察機だ。それがなぜ、君のスマホで動くのか…これはまさに、君が我々の任務に必要とされる『選ばれし者』**である証かもしれない!」


アキヒコは、小さくなった人間が生き抜くには、このアリの巣を拠点としながら、人間の世界から「借りて」くる知恵が必要だと力説した。特に、アリたちが甘いものを好むことを知っていたアキヒコは、女王アリとの交渉が不可欠だとハルキに告げる。 「我々の女王アリは、ただの統治者ではない。彼女こそが、アリ部隊の精神的な要であり、古より地球のバランスを守ってきた存在だ。彼女に敬意を払い、誠意を示すことが、我々がここでの活動を継続し、君が元に戻るための協力を得る唯一の道だ。彼女は甘いものを好む。それは、アリ部隊の活動に必要なエネルギー源でもあるが、同時に彼女への最大の敬意と感謝の印なのだ。」


その日の夜、家族が寝静まった頃、ハルキはアリの巣からこっそりドローンを飛ばした。リビングの窓から侵入し、広大なリビングルームを横断する。ミケがいないか警戒し、足音を立てないよう慎重に。目標は、台所のカウンターに置かれたシュガーポットだ。普段は何とも思わない高さのカウンターが、今は巨大な崖のようにそびえ立つ。ドローンを最大出力で上昇させ、カウンターの縁に着陸した。シュガーポットの蓋は、重くてビクともしない。ハルキはドローンのスキッドを使い、何度も蓋の隙間に差し込んでは持ち上げようと試みた。苦戦すること数分。ようやくわずかな隙間ができたところで、ハルキはドローンから降り、体をねじ込んでポットの中に滑り込んだ。真っ白な砂糖の山が、まるで雪山のように広がっている。ハルキはポケットに目一杯砂糖の粒を詰め込み、さらに、カウンターの隅に落ちていた古くなった消しゴムの欠片や、使い古された爪楊枝の先端部分を見つけた。ハルキにとってはゴミだが、アリ部隊の基地では**「資材」**になるかもしれないとアキヒコが言っていたのだ。それらも慎重に回収し、再びドローンに乗り込んでアリの巣へと戻った。


ハルキが持ち帰った砂糖に、アリたちは興奮した。そして、女王アリの部屋へと案内されたハルキは、その巨大な姿に息をのんだ。女王アリは満足げに触角を揺らし、ハルキの差し出した砂糖をゆっくりと受け取った。その瞬間、ハルキの耳に、まるで地球の根源から響くような、穏やかで深遠な声が直接届いたように感じられた。それはアリ部隊の女王との、言葉を超えた最初の「契約」だった。アリの巣の奥には、アリ部隊が使う小型の通信機や分析装置、そして彼らの活動に必要な特殊なエネルギー貯蔵庫が隠されており、ハルキは秘密基地の一端を垣間見たのだった。


アキヒコは、ハルキのドローンを詳しく観察し、その異星の技術に目を輝かせた。「このドローンが放った光が君を縮めたのなら、逆の周波数を持つ光を照射すれば、元に戻れる可能性がある。そして、君のスマホがこの最新型ドローンを操縦できる理由も探らなければ。この現象は、我々の地球防衛任務に大きな影響を与えるかもしれない…だが、この基地だけでは限界がある…」


発明と帰還、そして新たな力


そこでハルキは、自分が通う学校のドローン研究部に所属する先輩、ユウタのことを思い出す。ユウタ先輩は、市販のドローンを改造したり、時には全く新しいコンセプトのドローンを自作しては爆発させたりするほどの、筋金入りの発明オタクだ。彼の部屋は、ドローン部品と工具、そして謎の発明品で溢れかえっていたが、その奥には高度な分析装置も隠されていた。


ハルキとアキヒコは、ユウタ先輩の家までドローンで向かうことを決意する。夜間の移動や、先輩の家への潜入は、これまでの旅路と同じくらい危険だったが、彼らは必死だった。


なんとかユウタ先輩の部屋に忍び込み、ドローンを先輩がいつも使っている実験台の隅に隠す。翌朝、ユウタ先輩が目を覚ますと、机の上のドローンが、ハルキのスマホ操作によってわずかにホバリングしたり、微細なプロペラ音を立てたりしている。


「なんだこれ? 俺の新しい試作機か? いや、こんな精巧な小型パーツ、俺には作れないはずだが…」


最初は訝しがるユウタ先輩だったが、ハルキがスマホアプリで複雑なパターン(例えば、自分の名前をモールス信号で点滅させるなど)をドローンに実行させることで、先輩の顔つきがみるみる変わっていく。そして、ドローンのスキッドにしがみつくアリサイズのハルキとアキヒコを発見した瞬間、彼の目は興奮でギラギラと輝き始めた。


「な、なんだこれ!? 人間がアリサイズに!? そしてこのドローン! 異星のテクノロジーか!? しかもスマホで操縦できるだと!? クソッ! なんて面白いんだ! こんな大発見、滅多にないぞ!!」


ユウタ先輩は、ハルキたちの説明を信じるのに時間はかからなかった。彼の**「発明オタク」としての好奇心**が、目の前の信じられない現象を即座に「究極の研究対象」として認識したのだ。


「よし! まずは君たちの話を聞かせろ!」


そう言ってユウタ先輩は、いつも使っている奇妙な眼鏡を手に取った。それは、レンズ部分に小型カメラとプロジェクターが内蔵された、彼が自作した**「超精密作業用拡大ゴーグル」だった。ゴーグルを装着すると、ハルキとアキヒコの姿が、ユウタ先輩の視界いっぱいに拡大され、まるで目の前に等身大の人間がいるかのように鮮明に見える。そして、ゴーグルに搭載された極小のマイクとスピーカー**が、ハルキとアキヒコの微かな声を拾い上げ、ユウタ先輩の耳に直接届けるだけでなく、ユウタ先輩の声も、彼らが聞き取れる音量に変換して届ける。


「これで完璧だ! さあ、改めて話を聞こう。君たちを元に戻す方法、必ず見つけ出してやる! そして、そのアリの部隊のためにも、特別なツールを開発しようじゃないか!」


こうして、ユウタ先輩は、まるで宝の山を見つけたかのように、異星ドローンの解析に没頭し始めた。彼の発明オタクとしての熱意と、アキヒコの科学的知識、そしてハルキのドローン操縦スキルが、元の世界に戻るための「元に戻す光」を生成するという、困難なミッションに挑むことになる。ユウタ先輩がゴーグル越しに目を輝かせながら、アリサイズの二人と真剣に議論する姿は、まさにSFの世界そのものだった。


ユウタ先輩とアキヒコの研究は、日夜続けられた。異星ドローンの持つ超高効率ソーラー電池の仕組みから、縮小光線の周波数、そしてその逆作用を引き起こす「元に戻す光」の理論が、少しずつ解き明かされていく。様々な試行錯誤と、小さな失敗(たまに先輩の部屋のホコリが巨大化したり、アリが少しだけ大きくなったり…)を繰り返しながら、ついに光を生成する装置が完成した。それは、先輩がこれまで集めてきたジャンク品や改造ドローンの部品が組み合わさった、いかにもユウタ先輩らしい奇抜な見た目の装置だった。


緊張の中、ハルキとアキヒコは装置の前に立つ。ユウタ先輩がスイッチを入れると、装置からまばゆい光が放たれ、彼らの全身を包み込んだ。体がぐんぐんと膨らんでいく感覚、そして久々に感じる「自分のサイズ」の地面。光が収まった時、ハルキとアキヒコは、元の大きさに戻っていたのだ!


「やった…! 戻れたんだ!」ハルキは自分の両手を見つめ、感動に震えた。アキヒコもまた、数年ぶりの元のサイズに、深く安堵のため息をついた。ユウタ先輩は、興奮してデータを確認し、ガッツポーズをする。「成功だ!完璧だ!…あれ?」


ユウタ先輩が異星ドローンを調べると、ドローンは光を放った後、役目を終えたかのように沈黙し、静かに活動を停止していた。まるで、彼らを元に戻すことが最後の任務だったかのように。ドローンに残されたデータは、ユウタ先輩にとって生涯をかけた研究テーマとなるだろう。


だが、ユウタ先輩はただ元に戻すだけでなく、その異星の技術の応用にも成功していた。彼が作り上げた装置には、縮小光線と元に戻す光線を、自在に切り替えるスイッチが搭載されていたのだ。


「どうだ、ハルキ! このツマミをひねれば、また小さくなれるし、元に戻ることもできる! これで、あのドローンがなくても、いつでもアリたちに会いに行けるぞ!」


ユウタ先輩は、目を輝かせながら自慢げに装置を指差した。さらに彼は、アリ部隊のために、ハルキが持ち帰った消しゴムの欠片や爪楊枝の先端を改造して、**「ミニチュアクレーン」や「EXO-MICROBE捕捉用ネットランチャー」**といった新たな特殊装備を開発していた。ハルキは呆れながらも、その無限の可能性と先輩の想像力に胸が躍った。


秘密の共存


数日後、ハルキの日常は、何事もなかったかのように戻った。学校に行き、友達と遊び、そして公園でドローンを飛ばす。だが、一つだけ、決定的に変わったことがあった。宇宙の偵察隊が放ったあの光は、彼らを元のサイズに戻しただけでなく、彼らの五感にも微細な変化をもたらしていたのだ。


ある日の午後、ハルキが自宅の庭で草むしりをしていると、足元から微かな振動と、特定のパターンを持った「声」が聞こえてきた。それは、小さくなっていた時に、アリの行動を間近で観察し、彼らの微細な振動や匂い、そして独特のコミュニケーションパターンを学習した結果、アリたちの「声」が、彼に直接届くようになった、まさにその感覚だった。


「おい、ハルキ! そこのアブラムシ、まだ残ってるぞ!」


ハルキは思わず、腰に下げていた**ユウタ先輩特製の「携帯型ミニチュア観察ルーペ」**を取り出した。それは、先輩がハルキの新たな能力に気づき、観察用として特別に作ってくれた、わずかな振動や音を増幅する機能も持つ小型ルーペだった。ルーペ越しにアリの列を見ると、一匹のアリが前脚で地面を叩くような微細な動きで、確かにそう言っているように聞こえる。


「わかってるよ、ジョー! ほら、これはお礼だ!」


ハルキはそう言って、台所から親にばれないようこっそり持ち出した角砂糖の欠片を地面にそっと置いた。アリたちは一斉に砂糖の周りに集まり、興奮したように触角を動かし始める。ハルキの返事に、アリたちはわずかに動きを活発にさせ、満足しているように見えた。それは、彼が小さくなった冒険の、唯一無二の「お土産」であり、彼らとの「秘密の契約」の証だった。


「あら、ハルキ、また独り言? 変な子ねぇ」


台所から顔を出した母親が、庭でルーペを覗き込み、アリに話しかけるハルキを見て、呆れたように微笑んだ。ハルキはニヤリと笑い、アリたちに向かって小さく手を振った。彼の耳には、夏の庭のどこかで、アリたちの賑やかな声が、今も確かに聞こえている。


その日の夕食時、食卓でハルキがご飯を食べていると、母親がふと呟いた。「それにしても、最近、砂糖の減りが早いわねぇ。ハルキ、またこっそりつまんでるんじゃないでしょうね?」


ハルキは思わず、手に持っていた箸を落としそうになった。母親は首を傾げているが、まさか、その砂糖が小さなアリたちの「借りぐらし」と、地球を守る秘密部隊の活動を支えているとは思いもよらないだろう。ハルキは慌てて笑顔でごまかし、アリたちとの秘密を胸に抱きしめた。


彼の冒険は終わった。しかし、彼だけの、秘密の「小さな世界」は、今も彼の心の中に、そして縁側の下の秘密基地に、確かに存在しているのだ。そして、いつでも小さくなれる装置が、彼の部屋のどこかに隠されていることを知っているのは、彼とユウタ先輩、そして「地球防衛アリ部隊」の一員であるアキヒコだけだった。アキヒコは、ハルキの類稀なるドローン操縦の腕前が、いつか自分たちの任務を大きく左右すると確信していた。彼は、ハルキがその才能を活かし、EXO-MICROBEとの戦いにおいてアリ部隊の新たな希望となる日を静かに見守っていた。ハルキが縁の下を訪れるたび、女王アリの部屋からは、彼の存在を歓迎し、新たな指令を予感させるような微かな振動が伝わってくるのだった。

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