chapt 2 Eganan Strikes Back
こんにちはkzfactryです。今回は盆踊りをテーマに書いてみました。昨今なかなか見られなくなりましたが、盆踊りも後世に残したい文化の一つだと思っています。…開催するのは本当に大変でしょうが。今でも開催していただいている方々にはリスペクトしかありません。作品にすることで少しでもその後押しをできればなぁ、なんて考えています。
kzfactry
『よ…、は……』
ハウスマゴッタの家の中から変な声が?見てみるとマゴッタが片足だちの難しい格好であげた方の足をさらに曲げようとしている。コロン。あらら、転がっちゃった。タマゴの妖精であるマゴッタはそもそもあちこち丸いので、バランスとって片足だちとか苦手みたい。しかしめげずに楽しそうにまたトライする。…これはこの前ターキアでポンBarに見せてもらったターキアダンスの様だ。マゴッタは新しいことに挑戦するのが大好き。特に大好きなダンスでは苦労を苦労とも思わず楽しんで挑戦する。すっごくポジティブ。
『うぅぅ♡』
そばでWooちゃんも応援している。右に、左に体を揺すりながらマゴッタを覗き込み、マゴッタが転びそうになると触覚で支えようとしてくれる。……なかなか成功しないが。サーメNYANは相変わらずお尻を向けて寝ている。とっても平和なタマゴ達の光景。
ピピピ、ピンポピンポ ピピピ、ピンポピンポ♬
そんな時ハウスマゴッタのとっても特徴的なインターホンが鳴った(歌った?)。この家では全てのものが歌うの大好きみたい。素敵。
『はーい♡』
マゴッタがとてとてと言う感じで迎える。ハウスマゴッタの顔の部分が半分くらい上に向かってスライド。これが玄関にもなるようだ。……内緒だがハウスマゴッタにはまだまだ秘密が隠されている。玄関にいたのは…
シマエナガの妖精が三羽。寄り添ってる。可愛い〜〜〜♡……て?どこかで見たような。真ん中の五角形のバックルをはめたベルトをしているシマエナガの顔が急に赤くなってきて怒りマークがいくつも出でくる。ドキッ!またマゴッタのピンチか?すると横にいたカニのバックルのシーマが、
『なんまらオヤビン!おらだちこのタマゴ達に用事があんべ』
『やがまし、よげだ!…よかべ』
そう言うとエガナンは縦長のビニールに包まれた袋を指差す。ビニールには白いフリスビーのようなものが重ねられて縦長の塔のようになっていた。上の方で結んである。お菓子?
『キノケキノハシコ。まぐらえ』
?首を捻りながらもマゴッタはビニールを開ける。甘い良い匂いが…。上の方に白い砂糖シロップのようなものがコーティングされててとっても美味しそー♡マゴッタがそれをひとつとってアーンと口を開けた瞬間
ばくっっっ!!
いつの間にか横にいたWooちゃんがマゴッタの手からキノケキノハシコを奪う。と言うより捕食。相変わらずターゲットだけ綺麗に食べる。とっても器用。
もくもくもくもくっ
『う〜〜〜〜♡!』
Wooちゃんは触覚でハートマークを作りながら周り出す。…美味しかったのね。マゴッタはちょっと寂しそう。でもおかげでエガナン達の言葉が…
『食べたな?ターベーターナ〜〜〜』
そう言ってエガナンはマゴッタに詰め寄る。……マゴッタはまだ食べてないのに。
『じゃあ、立会人をしてもらおう!』
……なんか決まってしまったらしい。でも言っているエガナンも頬を赤くしている。ちょっと人間関係(妖精関係?)に不器用なのかもしれない。可愛いかも。カニのバックルのシーマが補足しだす。
『これからクニサンエンパイヤのヨーダンまで行って決闘するんすけど、立会人つーか、審判をやってもらえませんかね?』
なんかえらく物騒なことを言う。はわわ。マゴッタは超狼狽えている。決闘と聞いて任侠映画の日本刀による斬り合いを想像してしまったのか?怖い。しかしどうも話を聞いていくとちょっと様子が違うようだ。話を聞いているマゴッタの顔がキラキラと輝き出した。
『ダンスバトル!?面白そ〜〜♡!!』
エガナン達はクニサンエンパイヤにあるヨーダンに行き、ある劇団と戦いたいと言うのだ。
『くぅぅぅー!熱い!!』
マゴッタ大興奮。お互いダンスを披露して優劣を競うダンスバトルなんて初めて。そんな決闘に立ち会わせてもらえるなんて何て光栄。マゴッタのかりんとうのような目が今は炎に。……だがまあエガナン達の本音では、三羽だけで行くのは怖いからCHOタンさん繋がりで知り合いになったマゴッタ達に一緒に行ってもらいたかったようだ。
マゴッタは元気よく
『ハウスマゴッタ!フライトモード!!』
と言うと。あっという間にハウスマゴッタは気球を出して三枚のプロペラもセットした。マゴッタのテンションで変形も早くなるのか?凄い。
ぷるぷるぷるぷる
のんびりした音を出しながらハウスマゴッタが飛行を始める。CHOタンさんと違ってゆっくりとした飛行だ。それでもクッキー状の地形が見える高度まで上がるのはすぐ。とてもノンビリしていていい眺め。しかしクニサンエンパイアはタマサンフリーダムのすぐ隣。あっという間に着いてしまった。もう少しフライトを楽しみたかったところ。その中のヨーダンは海に近いところでなかなか眺めのいいところだ。何やら大きなものも見える。
『うわぁ♡』
ハウスマゴッタの目に当たる部分が透明のガラス状に変化して窓のようになっている。右側のその窓からマゴッタ、Wooちゃん、エガナンら三羽。左の方からキラーンと目を光らせたサーメNYAN達が覗きながらはしゃいでいた。エガナンらも楽しそう。良かった。
*
ハウスマゴッタが降り立ったのは緑に囲まれた洒落たステージのある広場。少し高くなっていて簡単な丸い屋根がついている。そこから放射状にギャラリー席が並んでいて千人くらい座れるかしら。お洒落。既にたくさんのギャラリーがひしめいている。これではエガナン達が怯むわけだ。マゴッタまで緊張してくる。ステージでは既にショーが始まっていた。ステージには三人の妖精。それぞれたこ焼き、お好み焼き、紅生姜の妖精さんらしい。漫才かな?…いや、どうもこれはマエセツとか言う伝統行事のようだ。ショーが始まる前にギャラリーを楽しませてその場の空気を温めるという事らしい。とってもいいシステム。“オヒルノオトモ“と言うトリオ漫才らしい。
『…ほいたらまー初めてきたクニサンエンパイヤぎょうさん人おるで』
まんまるボディーに斜めに吊り上がった斜線のような目。髪の毛はかつ節みたいにゆらゆら揺れながら立ってる。たこ焼きの妖精さんのようだ。それに特徴的な出っ歯!立派。
『そでんな、まるでシーンサイバシにいるようや』
向かって右側にいるこちらはお好み焼きの妖精さんかな?たこ焼きの妖精さんの言葉を受けてそう答えた。こちらは体が丸くて平たい。髪の毛は一緒でかつ節がゆらゆら立っている。
『な、な、な、なんでやねーん…』
向かって左に立っていた真っ赤な妖精さんがか細い声でやっと、と言う感じでツッコミを入れる。紅生姜の妖精の様だが、緊張からか顔の部分がさらに赤くなっている。可愛い。どうもシーンサイバシとかにはこんなに人は多くないでしょ、というギャップで笑わせるつもりのネタみたいだが(推測するしかないが)クニサンエンパイアのギャラリーはシーンサイバシのことをよく知らないらしい。それにたどたどしいツッコミなので見てるみんなは首を捻っている。この空気に危険を察知したのかたこ焼きの妖精が
『ほ、ほな、後の用意が整ったようでんな。これで辞めさせてもらうわ』
そう言って三人揃って頭を下げて礼をする。その後そそくさとステージを降りてしまった。あらら。会場は温まってないようだが…。ステージ裏で反省会がはじまった。
『SHOWベニ、ダメやんもっとしっかり突っ込まんと!』
『……でもウチ、おっきな声出してOKマンネンを叩くなんてでけへん…』
SHOWベニと呼ばれた紅生姜の妖精はちょっとチューリップの様に見える薄くスライスされたような体を丸めてちっちゃくなっている。女の子のようだ。気が弱いのかな。それにツッコミよりもどうもネタの方に根本的な問題があるようだが…。お好み焼きの妖精が助け舟を出す。
『TKデンネン、ベニちゃんも頑張ってま。もうちょっと長い目で見てくれや』
それを聞いたTKデンネンはかつ節の毛を逆立てて手足をバタバタさせながら
『そうやって甘やかすからいつまで経ってもベニはツッコミがでけへんねん!』
あらら、喧嘩になっちゃった。なかなか芸能の道も厳しいようである。その頃ステージ上では新しい演目が始まっていた。
『我々はズーメSuとサーティーンダンサーズでーーーす!♬』 タタタタターーー
そう言いながらステージの両側から綺麗に揃ってスズメの妖精達が現れた。声も動きも綺麗にシンクロしている。見ていて気持ちがいい。十三羽いる。全員黒の燕尾服で上半身を着飾っていてすっごく素敵。…しかしスズメの妖精さんなのに燕尾(ツバメの尾)服とは。そのスズメの妖精達がそれぞれの配置につくと、
『ラララ〜♬素敵なあの子にこの芋虫を届けてあげたい〜♬』
『この美味しそうで可愛らしい種と一緒に〜♬』
『君に振り向いてもらえるのなら〜♬電線のないこの都会のジャングルの中でも餌を探して回れる〜♬ラララ〜〜〜♬♬』
ミュージカルが始まった。スズメの妖精達は互いの役割をしっかりこなしながら歌い、ダンスする。それぞれの目を輝かせながら羽の先までピンと伸ばして。素敵。
『しゅ、しゅごい…!♡』
マゴッタは大感動。瞳をうるうるさせて食い入るように見ている。
『何て凄いんだ…圧倒的な歌唱力、流れるような動きからのダンス。計算し尽くされた配置。感動的なストーリー。全てが調和している!』
マゴッタベタ褒め。すっかりズーメSu達のミュージカルに魅了されてしまった。Wooちゃんもきゃっきゃ言いながら見てる。サーメNYANはベンチに横になっているが珍しく興味ありげに目をキラーンとさせてステージを見ている。他のギャラリーも大感動。会場は一気に盛り上がりを見せる。
『ど、どうしようオヤビン…やっぱり凄いです』
『ビビンじゃね、わ、わわわしらだって負けてね』
だいぶ力がないがそれでもエガナンは踏ん張っていた。シーマとマーシはすっかり縮み上がってるが、エガナンはまだファイティングポーズをとっている。さすがオヤビンと呼ばれるだけのことはある。やがて大喝采の中ズーメSu達のミュージカルが終わった。
*
『しゅごかった…♡』
マゴッタは大満足。まだ目がキラキラしてる。こんなに素敵なミュージカルを観たのは初めてだった。マゴッタもいつかは…などと思っていたが、そこでハッとした様に隣に目を向けたらいつの間にかエガナン達がいない。するとステージの方から陽気なお囃子が聞こえてきた。すごく楽しげな音楽。ステージを見ると…
……?両方の羽で包み込む様にして顔を隠した鳥の妖精が三羽。しかしその格好があまりにも奇抜。お腹の部分に一面大きな顔が書いてある。赤、黄、青とカラフルな色使いで猛烈にインパクトがある。その書いた顔に合わせる様にちっちゃくて可愛いハッピを着せてある。何とそのハッピには腕まで付けてある。なかなか凝ってる。そのハッピの首の部分に何処かで見たものが。真ん中の鳥の妖精は五角形のバックル。両脇の鳥の妖精にはカニとジャガイモ。それを見て初めてエガナン達三羽だとわかった。普段は折りたたんでいる足を擬人化のためか一生懸命伸ばしている。そうするととってもコミカルな人間がダンスをしている様に見える。演目のお題のところにはカイドウヘソダンスと書いてある。
しばしボー然としていたマゴッタだが見ているうちに目がキラキラし出す。エガナン達のダンスのコンセプトに気づいたようだ。マゴッタはことダンスに関してはすごく敏感でとってもポジティブ。実際ギャラリーも最初は戸惑っていたが、次第に湧き出した。……なぜか笑い声も聞こえるが。
『しゅ、しゅごい♡!一見シンプルに見えるけど三羽の揃ってのステップ、位置取り、鳥の妖精には難しいはずの足を伸ばした状態からこんなに安定してダンス出来るなんて!』
マゴッタの得意の感動解説(?)が始まった。……何となく完全には同意しかねるが。それでもマゴッタはキラキラした目で踊っているエガナン達を見続けてるし、Wooちゃんも楽しそう。それにサーメNYANまでもがお囃子に合わせて体を揺すっている。ダンス?普段ゴロゴロしているだけのサーメNYANだが短い手足でとってもラブリーなダンスを披露してくれている。気に入ったらしい。エガナン達のカイドウヘソダンスは大盛況のうちに終わった。マゴッタ感涙。
……しかし急にマゴッタの目が?マークから点の様になってしまった。明らかにトーンダウンしている。首を捻った後にスンッと言う感じで大人しくなってしまった。???
ステージ上にはやり終えた感のあるエガナンら三羽、それにズーメSuとサーティーンダンサーズも上がっている。いよいよマゴッタのジャッジの時間。
ダラダラダラダラ♬
ドラムロールが流れた後にマゴッタに注目が集まる。エガナンは顔を紅潮させて興奮気味。ズーメSuはニコニコしながら落ち着いて平常通り。
『発表します!今回のダンスバトルの結果は…、ズーメSuとサーティーンダンサーズの勝利です!!』
マゴッタが晴れやかな顔でキッパリと言う。ガーン!エガナンショック!!あわわとなっている。しかしすぐにエガナンの反撃が始まる。
『なんで、なんでなんでなんで!ワシらのどこが負けてるの!?』
すると、マゴッタは目を点にして
『カイドウヘソダンスでしょ?エガナンにはおへそが無いじゃん』
さも当然と言うふうに言い放つ。?エガナンは頭にクエスチョンマークを付けて自分のお腹の方を見下ろす……
『『『!!!』』』
エガナンに電撃が走る。今まで気にもしていなかったのか?その衝撃を受けた格好のまま、三羽とも白くなって固まってしまった。エガナンの完全敗北…なの?
……こうして熱いダンスバトルは終わりを迎えた。お互い全力を出し合った素晴らしい激闘であった。めでたしめでたし
……かに思えたが、
ズズズーン!ドドドーン!!ドドントズン!!!
急に凄い地震が襲ってきた。物凄い地響きと震度7はありそうな猛烈な揺れ。ギャラリーはワーワー騒いでいる。マゴッタ達はスーパー大変。
『はわわわわ!』
『うぅう〜〜〜!』
『にゃぁ〜〜〜ん♡』
…約一名楽しんでいる様な気がするが。三人はまるで調理中のポップコーンのようにあちこちに弾かれて、跳ね返りまくっていた。
そんな中、ズーメSuはすごく落ち着いて
『ああ、そういえば今日はマツノトレル日か…』
そうつぶやいた。気がついたマゴッタが、えっ?と言う感じでズーメSuを見ると、ズーメSuは南の方を指差す。するとそこには…
見上げるような大きな塔の妖精がダンスしてる。ダンスしてる?いや、確かにダンスだ。思わず二度見してしまう様な光景。四本ある足をバタバタさせてたどたどしいが頑張ってダンスにしようとしている。上の方にある顔がとっても苦しそうだがすごく頑張ってダンスしている、と言う感じ。
『トウエドさんがマツノトレル日はオマツさんが元気がなくなっちゃうって心配していてねぇ、せめて元気を出してもらおうと毎年マツノトレル日には昔からこうやってダンスして励ましてるんだ。……けど最近ソラノキさんって言う新参者からタップダンスを教わってね、一生懸命ダンスしてくれるんだけど何せあの巨体だからものすごい地震が起きちゃうんだ。本人すごく一生懸命だからなかなか言いづらくてね……』
タップダンス!また新しいダンス?マゴッタの心がざわめいたがトウエドさんのダンスはあまりに不器用でダンスの形になってない。マゴッタはそんな人を応援するのが好き。四本の足でドッタンバッタン一生懸命ダンスしている。……しかし待てよ?ギャラリーは地震が続いているので大騒ぎの真っ最中。どうしようどうしよう。Wooちゃんも揺れる地面にトランポリンに乗っているかの様に弾かれている。慣れてきたのかちょっと楽しそう。サーメNYANはいつの間にか姿が見えない。相変わらずマイペース。マゴッタコマッタ。一生懸命考える。
『う〜〜〜ん、!♡!』
マゴッタが思いついたのはオマツさんに会って話を聞くこと。そうだよね、オマツさんを元気づけるためにトウエドさんは踊っているんだもの。マゴッタナイス。
『オマツさんはどこにいるの?』
『東に向かって走ればすぐにいるよ』
ズーメSuさんが丁寧に教えてくれる。とってもいい人。マゴッタダッシュ!。Wooちゃんもとててててという擬音を出しながらマゴッタについていく。物凄い揺れのせいでちょいちょい二人とも転がっている。…転がっている時の方がスピードが速そうだが。
ん?気のせいか走っている途中で左の視界の端にサーメNYANが見えたような。何かお店の前で買い物しようとしている様にも見えるが…マゴッタは気づかない。
*
走るとすぐ松の妖精さんが見えてきた。トウエドさんから少し離れたせいか震度が5くらいにまで落ちている。それでも十分すごいが。
松の妖精であるオマツさんはとっても目立つ妖精さんだった。なんと言っても一番先に目につくのはすっごい髪型。緑色のアフロ?松の妖精さんだけあって上の方はツンツン立ってる。しかしそのアフロの上からもう一段ちょっとちっちゃいアフロが。二段アフロ?かっこいい。松の妖精さんだけあって顔がガングロ。おばあちゃんなのかな?シワが結構ある。服はすんごい和服。時代劇の大奥で見る様な感じの和服だ。両腕に杖をついている。今はトウエドさんのタップダンス?が続いているのでヨタヨタしながら両腕の杖でバランスを取っている。
『ヨ、、、ホ。。。』
意外に楽しそうにバランスを取っている。なかなかタフなお婆ちゃんのようだ。…そう言えばマゴッタはすんなり走ってきたな。やはり普段からダンスで鍛えているからか?
『お婆ちゃーん!大丈夫ーー!?』
オマツ婆ちゃんは地面の揺れに右によろよろ、左にふらふらしてる。両方で持った杖とグリーンアフロの頭でバランスを取って。とっても器用。
『ごめんねーせっかく来てもらったのに今忙しくてねぇ』
オマツ婆ちゃんはこんな大変な状況の中マゴッタに気を遣ってくれている。やはり優しいお婆ちゃんのようだ。
『ままま、毎年ししし…マツノト、ト、ト、レル…』
オマツ婆ちゃんは揺れによろよろしながらもマゴッタ達に説明しだす。マツノトレル日というのは飾ってある国中の松をしまってしまう日のことらしい。毎年のこととは言えやっぱり寂しい気持ちになってしまう。それを気にかけてくれたトウエドさんが毎年ダンスをしてくれていたそうだ。前はオオエドダンスというクニサンエンパイアに昔から伝わるダンスを踊ってくれていたのだが、新しく北の方に来たソラノキさんと言う妖精にタップダンスを教わったらしい。ソラノキさんはタップダンスではなくまた違う海外のダンスをするらしい。オオエドダンスの頃はみんなで和気あいあいと踊れて楽しかったが、今はこの有様でとっても大変らしい。
『で、で、もねぇ、一生懸命にダンスしててて、く、くれるとこを見てると言いづらくてね…』
オマツ婆ちゃんは揺れにチョット慣れて来たのか聴き取りやすくなって来た。優しいオマツ婆ちゃんはやはり困っているようだ。これはマゴッタの出番だ。
『オマツお婆ちゃん、僕に任せて!♡』
マゴッタは元気に返事すると、さっき来た道を走って戻る。いつの間にかサーメNYANも一緒にいた。進出鬼没。ミステリアスなのね。手に袋に入ったお土産?を持っている。いつの間に?
*
ステージの広場に戻るとハウスマゴッタが気を利かせて(家なのにすごい)フライトモードで地面から少し浮いていた。おかげで揺れなし。お利口さん。マゴッタの顔そっくりのゲートが上からパカっと開いてちっちゃいステージのようになっていた。そこにまだ白く固まっているエガナンたち三羽と、ちゃっかりズーメSuとサーティーンダンサーズも避難して来ている。さすがのハウスマゴッタもぎゅうぎゅう詰。そこへ走ってきたマゴッタが駆け上がる。WooちゃんとサーメNYANも。まるで伝説のツウキンデンシャのような超過密状態に。WooちゃんとサーメNYANそれにズーメSuたちにも押されながらマゴッタが叫ぶ。
『ハウスマゴッタ、ト、トウエドさんの顔のそばまで飛んで!』
『オーケー』
ハウスマゴッタはそう返事すると流石に重そうにえっちらおっちら浮かんでいく。
プルルルル
三枚のプロペラも一生懸命回してなんとかトウエドさんの顔の近くまで上昇する。トウエドさんはものすごい巨体。赤いボディーに大きな足が四本。顔は横に四角い。それに凄く長いとんがり帽子をかぶっている。ずっと踊り続けていたので流石にお疲れの様子。しかしその表情は真剣そのもの。…集中すると周りが見えなくなるタイプなのかも。
『オマツさん今年は喜んでくれるかなぁ』
そう言いながらトウエドさんは疲れて重くなった足を一生懸命持ち上げてタップダンス?をする。何年か前にソラノキさんから教えてもらったダンスだ。ソラノキさんは華麗なステップでそれを披露し、さらに見たこともないスカートをひらひらさせるダンスまで見せてくれた。トウエドさんはカルチャーショックを受けた。今まで自分がやっていたダンスは昔からずっと一緒で、のんびりゆっくりしたオオエドダンス。それに比べてタップダンスは未知の刺激的なダンスだった。
(カッコいい…)
トウエドさんは心底そう思った。…流石にスカートをひらひらさせるダンスは無理なので、タップダンスを一生懸命やることにした。
だいぶ昔になるが、トウエドさんが生まれたばかりの頃クニサンエンパイヤはまだまだ何にも無くて生まれたばかりのトウエドさんはポツーンとひとり寂しい思いをしていた。風だけやたらビュービュー当たる。ショボーンとしていたところに声をかけてくれたのはオマツさんだった。
『あれま、ずいぶんおっきな坊やだね、ご近所さんだしこれからよろしくね』
ニコニコしながら話しかけてくれ、クニサンエンパイヤのことも色々教えてくれた。それにハイカラなお婆ちゃんで踊りが大好き。エドダンスを教えてくれ、そのあと新しくでたオオエドダンスもすぐに覚えて教えてくれた。無器用な自分でもエドダンスとオオエドダンスならなんとか踊ることができ、オマツ婆ちゃんと周りの妖精達も集まってそれはそれは楽しいダンスパーティになった。トウエドさんは明るくてパワフルなオマツ婆ちゃんが大好きだった。
そのオマツさんもマツノトレル日はホントしょんぼりしちゃうから…、元気付けてあげたい。オマツ婆ちゃんはハイカラだしのんびりしていて変わり映えのしないオオエドダンスよりタップダンスの方が…。トウエドさんは必死でタップダンスを覚え、マツノトレル日に披露する様になった。
*
トウエドさんの顔の近くまで来たけどマゴッタは迷っていた。トウエドさんの表情は凄く真剣。みんなが地震で困ってるからやめてくれとは流石に言いづらい。オマツ婆ちゃんの気持ちがよくわかる。
(でもみんな困ってるしなぁ…)
などとマゴッタにしては珍しく煮え切らない感じでゴニョゴニョしてたら、いつの間にかサーメNYANが横に来て袋の中から何かを取り出してマゴッタに渡した。…ちっちゃい車輪?茶色くて薄くスライスされてる。何かのチップスの様だ。丸いチップスの中に小さな丸が綺麗に並んでてまるで車輪の様に見える。サーメNYANはそのチップスを自分でも手に取って可愛らしい丸まったWの様な口で
ぽりぽりぽり
するとサーメNYANの猫目がキラッと光って頭のドリルが回り出した。
『うーまにゃん♡』
そう喜んでぴょんと跳ねると頭のドリルがキラキラしながら周り出す。頭のポツポツの一つが一際強く輝くと…弓と矢が頭上に現れた。武器という感じの恐ろしい物ではなくて、可愛らしい丸っこい弓と、矢尻もまんまるでキャンディーみたいな矢だ。サーメNYANはその弓と矢を得意げに持つ。
『すごーい!カッコいい♡サーメNYAN』
…弓と矢を何に使うんだろう?ではない、マゴッタには弓と矢は取り敢えずカッコいいのだ。とっても欲しい♡
『よーし!僕も』
ぽりぽりぽり、マゴッタが顔の輪郭の部分で器用にチップスを食べる。すると、
『カラーーーーーー!!×××!』
マゴッタが身体中集中線に包まれながら顔の輪郭全体から火を吹く。ファイヤーサークルのようだ。妖精だけあってとっても器用。サーメNYANの持っていた袋には(カラシレコン)と書いてある。…どうもとってもカラい大人のおつまみのようだ。さすがサーメNYANの好み。しかしマゴッタは甘くて子供の好きなようなもの以外は食べられない。マゴッタはバッタリ倒れてしまった。大丈夫か?マゴッタ?
すると、
ピシッ
という音がしてマゴッタの体に線が入り出す。まるで緯度と経度のように縦横に線、と言うより裂け目の様なものがマゴッタの全身に入っていく。それとともに体が茶色くなってきた。やがて
ボンッ
と音がすると体が弾けた。大丈夫か?マゴッタ。ちょっとした煙がマゴッタから立ち上り、その煙が薄まってくると……コゲ茶色で全身から靴べらが伸びているような体が現れた。……どこかで見たような、そう、松ぼっくりにそっくり。松ぼっくりの傘が開いた形に変身してしまった。腕や足まで松ぼっくりの開いた傘のようになっている。顔は下半分だけになってしまい、逆に目は黒くまんまるになった。キラキラ輝いて黒真珠のよう。とっても純真…て感じ。
Mボックリン
マゴッタは変身すると名前まで変わり、人格(妖精格?)まで変わってしまうのだ。さすがマゴッタ。…いや、今はMボックリンか。ちょうどその頃ハウスマゴッタがトウエドさんの目の前まで来た。トウエドさんはまだ無我夢中という感じで踊っている。マゴッタたちに気づかない。すると、よちよちと言う感じでたどたどしくMボックリンが起きる。
キュルン
としている純真な瞳でトウエドさんを見ると…
『トウエドおじちゃーん!オオエドダンス見たい!見たい!見たい!見たい!』 ポン!
すごい勢いで連呼し出した。しかも猛烈な音量。松ぼっくりのようなボディに音を大きくする様な仕組みがあるらしい。サイレンのような勢いでわんわん叫ぶ。純真と言うよりまるっきり子供。大人が一番困るやつだ。余りの音量にズーメSuとサーティーンダンサーズのメンバーがハウスマゴッタのステージから吹き飛ばされてしまった。もっとも鳥の妖精さんなので落っこちることなくハウスマゴッタの周りを飛んでいる。こんな非常事態でもみんな等間隔で綺麗に輪になって飛んでいる。流石のプロ意識。
ポンッ
……時たまポンと言う変な音がする。??
流石に目の前で大音量だからトウエドさんの動きが止まった。
『あれ〜〜?どうしたの?ボクはオマツさんの孫かな?』ポン!
『オオエドダンス見たい見たい見たい!』ポン!
Mボックリンはトウエドさんの言うことに聞く耳持たない。それどころか体をバタバタさせてむずがっている。…子供というより赤ちゃんに近くなっている。それにしてもこのポンという変な音は…。よく見るとサーメNYANがさっき出したオモチャのような矢でトウエドさんを射かけている。ポンというのは矢尻がトウエドさんに当たった音。不思議な事に当たった瞬間矢は柔らかい光を出しながら消えてしまう。どうもこの矢尻には硬い心を解きほぐす作用があるらしい。……ほんの僅かみたいだが。何回かサーメNYANに矢で撃たれマゴッタの大音量のお願い?を聞いたトウエドさんは動きを止めた。
『オオエドダンス?古くて面白くないよ。タップダンスの方がいいよね?』ポン!
トウエドさんは困った顔でMボックリンに答える。
『うううん、オオエドダンスが見たい。オマツ婆ちゃんもオオエドダンスの方がいいって』
ポン!! ガイーーーーン!!!
今度のサーメNYANの矢はクリティカルヒットしたようだ。トウエドさんの目から鱗が落ちている。ポロポロポロ。いつの間にかトウエドさんの頭の上にズーメSuとサーティーンダンサーズが綺麗に並んでいた。
『そうです〜〜♬トウエドさんにはオオエドダンスがとっても似合う〜〜〜♬』
『オマツさんもトウエドさんのオオエドダンスがとっても好き〜〜♬』
『『私たちも一緒に踊りた〜〜〜い♬』』
ズーメSuとサーティーンダンサーズの即興ミュージカルがトウエドさんに最後のひと押しをする。トウエドさんは目をパチクリとさせた後、少しずつ笑顔になってきた。
『トウエドさんや、わしゃやっぱりオオエドダンスがいいね』
いつの間にかオマツ婆さんもトウエドさんの足元に来ている。ニコニコしながらトウエドさんを見上げて言った。タップダンスが止まって揺れがなくなったのでオマツ婆ちゃんの足取りも軽い。みんなが盛り上がってきたところでミュージックスタート。
ちゃんちゃんちゃちゃらっちゃ♬
ちゃんちゃちゃんちゃちゃちゃちゃ、ちゃんちゃちゃんちゃちゃちゃちゃ♬
お囃子が流れ出すとズーメSuとサーティーンダンサーズの歌も始まる。
『エドの踊りは下町踊り、さあさみんなで輪になって♬』
『右にくるくる、左にくるくる、さあさみんなで輪になって♬』
ズーメSu達の歌にあわせてトウエドさんがダンスを始める。大きな体にはとっても不釣り合いのアンテナのような細い腕が足と顔の間にあり、それを音楽に合わせて上手に振る。体もダンスというよりすり足で動く感じで、これなら地震は起きない。…ほっとする。元々はオオエドダンスを長年踊っていただけあって、リズムに合わせてのステップと手の動きがとっても上手。達人レベルだ。いつの間にかトウエドさんの目の前の広場には輪になってオオエドダンスが行われている。歌いながら踊るズーメSuとサーティーンダンサーズ。キレッキレの動きで楽しそうにダンスするオマツ婆ちゃん。
『これよこれ♡やっぱりオオエドダンスは最高だね♡!』
杖をとって豪華な和服のままダンスするオマツ婆ちゃんはとっても素敵。背筋も指先も緑色のアフロの毛先までピンと伸びてる。素晴らしい。その後にズーメSuとサーティーンダンサーズ、それにWooちゃんとサーメNYAN。最後にMボックリンまでよちよち続いて、ダンスしている。歩みはよちよちしているが、ダンスはしっかりしている。マゴッタのタマシイは受け継がれているのか?みんなでオオエドダンスをしている光景はこれ以上にないというくらい、平和で素敵な光景だった。
*
『はっ!』
ようやくエガナンは気がついた。ショックを受けた後ずっとハウスマゴッタの開いた扉の上で置物になっていたらしい。シーマとマーシも気がつく。何かえらくショックな出来事があったような気がするが、エガナンの記憶ははっきりしなかった。ぷるぷるっと顔を振って周りを見ると、目の前で知らないダンスが始まっていた。それをしばし見ていたシーマが慌てた顔でエガナンに言う。
『はわわ、びっくらこいだ、オヤビン。あいつらずんぶじょんずにおどるべさ。がおる〜』
『はんかくさいこと言ってんでね、ほんずなす。なーもきゃねで。なだぢワシが奴らのっつめがしたる!』
…何か威勢のいいことを言っているようだが、エガナンの膝が震えてる。エガナンもオオエドダンスにかなり魅了されてしまったようだ。果たして再度エガナンの逆襲はあるのか?
*
読んでいただけました?最後の盆踊りのシーンはイメージしている曲があるのですが、権利関係の難しい歌詞の引用は素人の私にはハードルが高くて怪しげな歌詞を捏造する(……)こととなってしまいました。あの曲をイメージしているのかな?などとのんびり楽しんでいただければ嬉しいです。
kzfactry