episode1.思い出の妖怪 9
堀村さんと呼ばれた男性は、
「ええ、そうです。初めまして夏彦さん」
と言って夏彦さんと握手をしました。
「ええと、そちらの方は……」
堀村さんと目が合ってしまい、私はいつになく挙動不審になってしまいました。
初対面の人となんてそれこそ目も合わせられないのに……!
「ああ、彼女は新入社員の水野と言います。今月から入社しましてね。勉強のために同席してもらっています」
おろおろと戸惑っている私を見てすかさず夏彦さんがフォローを入れてくれました。
ああ、神様……!
「ああ、そうだったんですね」
堀村さんはそう言ってやさしい顔つきで私に右手を差し出しました。
「あ、えと、よろしくお願いします…」
私はいつものようにどもってしまいました。
いい加減になれないといけないな、とは思ってはいるのですが……全く慣れません。
「では、こちらにお座りください」
夏彦さんにそう言われ、堀村さんは静かに椅子に座りました。
椅子に座る動作だけでも絵になるなぁ、と私はどうでもいいことを思います。
夏彦さんは営業スマイルとも言うべき笑顔で、堀村さんに話しかけています。
初めて私と会った時と同じ、目の笑っていない笑顔です。
もしかしたら目の奥は死んでいるのかもしれません。
堀村さんが「早速なんだけど…」と話を切り出しました。
「単刀直入に言うんですけどねぇ、私は河童に会いたくてねぇ」
私は一瞬、聞き間違いかと思い2度見してしまいました。
河童……とはカッパ……つまりあのカッパですよね?
あの、妖怪的な意味での河童……ですよね?
チラッと夏彦さんを見ると相変わらずの笑顔です。
「ほう!なるほど河童ですか!お任せください!」
そもそも、河童って実在してるんでしょうか?
私自身は、見たことも聞いたことも無いので分からないのですが……。
私の頭にハテナマークがいくつも浮かんでいる間に、夏彦さんと堀村さんはどんどん話を進めています。
「ちなみに、何故河童に会いたいんです?」
夏彦さんが聞くと堀村さんは俯きがちに言いました。
「実は……私、子供の頃に河童に会ったことがあるんです」
え、うそ、会ったことあるの!?
私は心の中でそう突っ込みを入れて、堀村さんを3度見しました。
そんな私に構わず、
「ちょっと長くなるんですが…」
と堀村さんは前置きをして話し始めました。