episode1.思い出の妖怪 7
私が一人で勝手にブルーな気持ちになっているのに対して、夏彦さんはもう既に涙を拭いてさっきのようなにこやかな笑顔に戻っていました。
「だ、大丈夫ですか…?」
と私が聞くと、
「大丈夫、目にゴミが入っただけだから」
と夏彦さん。
なんだ、ゴミが入っただけか、とは素直に思えず私が黙っていると夏彦さんは私に言いました。
「んでさ里真ちゃん、さっき言いかけたことだけどさ、里真ちゃんって幽霊とか、そういうの見たことある?」
……この質問、面接に関係あるのでしょうか。
そう思いはしましたが一応これも正直に答えます。
「いいえ、見たことも聞いたことも無いですけど、居たらいいなとは思ってます」
夏彦さんはそれを聞いて「そうか……」と言って宙を見つめます。
その後、「よし、採用!」と言って席を立ちました。
え、というか履歴書もまだ見てないのに……。
「え、あの、え」
とおどおどしている私に、
「そうだ、給料の話をしよう」
と言って夏彦さんはテーブルの脇にあったメモ用紙とペンを取ってサラサラと何かを書き始めました。
「パソコンはある程度使えるね?なら週5で8時間勤務でこれくらいで」
と紙に書いて見せてくれた月の給料は、前の会社の1.5倍くらいでした。
こんなにもらって良いんですか…?
「で、いつから来れる?」
と夏彦さんは言いました。
まあ、条件も良いし小さな会社みたいだし、従業員も少なそうだし、これなら人と接するのが苦手な私でも続けられるかもしれません。
「いつでも、一応、はい、働けます」
こうして私は流れに流されるまま、夏彦特殊人材派遣センターへ就職したのでした。
「でも、あの、実際この会社って何をする会社なんです?」
私がさっきから気になっていたことを夏彦さんは、
「あれ?それもバーさんから聞いてないの?」
と首を傾げました。
「えっと…人材派遣会社としか…」
それを聞いて夏彦さんは笑います。
「あはは。まあ、表向きはそうだね。でも、そうだなぁ、口で説明するより、実際に見てもらったほうが早いと思うよ。ちょうど明日依頼が入ってるからさ。あ、明日って予定空いてる?」
え、明日……?
これまた急だなぁ、と私は思いました。
こういうふうに優しくて明るいようでいてかなり強引なところは、梢枝さんに似てます。
梢枝さんも夏彦さんも名字を知らないので、もしかしたらこの二人は親子なんじゃないでしょうか。
でも、どうせ明日もやることはないので、明日から働くことになっても、それはそれでいいかなと私は思いました。