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魔女との遭遇そして助言と助力と

村の外に出て、馬に乗ると北に向かう。老婆の家は村からさほど離れていないと聞いていたこともあって、パールは馬を歩かせることにした。


「…あのばあさん、魔女だったのか。」

道すがら、パールから簡単に事の次第を説明されたくりあが呟く。

そう言われればそんな感じがするかもなあ、と、昨日の老婆の姿を思い浮かべる。

「まあ、そんなところだ。文句はもう無いだろう?」

「え? ああ、まあ… ちょっとはばあさんの話に信憑性が出るっつうか。」

「お前はおとなしくしていな。失言が多いと、機嫌を損ねかねないからね。」

「…あー… まあ、それもごもっともで。」

そんな話をしている間に、二人の視界に一軒のこぢんまりとしたログハウスが入ってきた。

「どうやら着いたようだね。…ああ、あの木に馬を繋いでおこう。」

辺りを見回して、家の近くの一本の木を指してパールが言う。


二人は馬から降りると、パールの選んだ木に馬を繋ぎ、老婆の家らしきログハウスのドアをノックする。

「お入り。」

中からそう一言だけ声がしたので二人は、

「遠慮なく入らせてもらうよ。」

との、パールの言葉の後にドアを開けて中に入った。


  昨日の老婆が暖炉の前で、薬であろう何かを調合しているところだった。

「昨日はどうも。約束通り、話を聞きに来たよばあさん。」

「…そこへお座り。今、茶でも入れてこよう。」

テーブルと椅子を指して、老婆が言う。二人は素直に言われた通りにした。


「何がそんなに珍しいんだい?」

部屋の中をきょろきょろと見回すくりあに、パールが一言。

「いや… なんかフツーの家だなあ、と思って。魔女の家に見えないから。」

「お前、それは偏見じゃないのかい? 魔女と呼ばれていようが、人間には変わりないんだよ、彼女たちも。」

無知ゆえの発言であることは分かってはいるが、パールはくりあの言葉に肩を落とす。

「そんなこと言ったって、あんたの知り合いの魔女は洞窟に住んでるじゃないか。俺はてっきり、魔女はみんな洞窟みたいな所に住んでんのかと…」

唯一知っている魔女を思い浮かべながら、くりあは腕組みをする。


「…。あれは研究のためにあそこに泊まり込んでいるのさ。あいつの家は別にあるんだよ。そしてやっぱり普通の家さ。」

軽く溜め息を吐いて、パールが言った。こういうのが偏見の元になるのかねえ、と呟いて。

「へぇ? そうだったのかぁ…」

何やら納得したらしく、くりあは一人頷く。その時、

「どうかしたのかい?」

入れたばかりのお茶を二人に出しながら、老婆が声をかけた。


「ああ、ありがとう。アタシの知り合いの魔女は研究のために洞窟に籠りっきりでねえ。そいつ以外に魔女にあったことが無いもんだから、ばあさんが普通の家に住んでるのが不思議に思えたらしくてねえ。」

「そうかい。…まあ、あたしゃ魔女のなりそこね、みたいなものだからねぇ。」

「魔女のなりそこね…?」

老婆の言葉に、くりあが聞き返したが、それを遮るようにパールが話しかける。

「それはいいんだよ、くりあ。ところでばあさん、早速で悪いとは思うんだけどね。」

「ああ、ガラスの塔だね。針葉樹の王国の地図は持っているのかい? 持っていないなら、後からでも手に入れな。…あの王国の西の森に一ヶ所だけ開けた場所がある。泉の湧くその場所に、月の光を受けた時にだけガラスの塔が姿を見せる。」

「月の光の中だけ? …やっぱり噂通りなのか。何だか、月下美人みたいな塔だなあ。」

と、くりあは単純に老婆の話に感心していたが、

「ちょっと待っとくれ。ばあさん、あんたは昼間に月下美人を見るように言ったじゃないか。月の光を受けないと塔が姿を見せないなら、それは不可能なんじゃないかい?」

パールはそう老婆に訊いた。肝心なことだ。


 夜にしか姿を見せない塔の天辺に、昼間辿り着かなくてはならない。夜に塔に近付けば月の魔物に襲われるからだ。どうにも矛盾しているように聞こえてならない。

「姿が見えるのは月夜の晩だけだが、なにも無くなるわけじゃないさ。昼間もそこにある。…それに、あの塔には入り口がないから、夜に行っても中には入れないよ。まあ、それ以前に近付いただけで月の魔物の標的にされるだろうねぇ。」

「えっ? じゃあ結局どうもできないわけ?」

老婆の話を聞いたくりあが、声を上げる。

「諦めるかい? あたしゃその方がいいんだけどね。」

じいっ、と、老婆が見据える。


やれやれ試されてるのかね。たパールは肩を竦めたが、気を取り直して老婆に、

「誰もそんなことは言ってないだろ。ばあさん、一体どうやってあんたは昼に月下美人を見たんだい?」

「…決まっているだろう。飛んで、さ。」

にやり、と、老婆が笑ってみせた。飛んで塔の天辺まで、とは、魔女らしい手段だ。


「そうくるのかい。…ばあさん。昨日、協力してもいい、って言ってくれたよねえ?」

今度は、パールがじっと老婆を見詰めている。

「覚えていたかい。それならその条件を忘れたとは言わせないよ。」

静かに、老婆が言う。真っ直ぐに老婆を見据えてパールが答える。

「ああ、それは大丈夫さ。昨日も言っただろう? アタシには月下美人を手折るつもりは毛頭無いのさ。ただ… 一度その花を見てみたいだけさね。」

「…そうかい。それならこれを持ってお行き。」

パールの答に納得できたのだろう。そう言って老婆はパールに二つの小瓶を差し出した。

古ぼけた封印のなされた、小さな、けれど見事な細工のされた小瓶だ。


「これは… 魔道具? 精霊を封印してあるタイプだね。」

小瓶を装飾する宝玉を見て、パールが。

「…魔道具の区別はきちんと出来るようだね。」

「ああ… 一応は。それで、これでどうしろって?」

「風の精霊が封印されているから、それで塔の天辺まで飛んで、塔の中にお入り。そして残りの一つで飛び降りといで。月下美人は見るだけだよ。手折れば、多分、月の魔物に殺される。…いいや、絶対に殺される?どこへ行っても月下美人の場所だけは分かるんだよ、あの魔物は。空を自由に飛べる魔物が相手なら逃げ切れまいて。夜になったら殺されちまうよ。」

渡した魔道具の使い道を教えながら、注意を促す。


「ばあさんが無事だったのは、月下美人に触れなかったからなのかい?」

「ああ… そうさね。だからあの魔物は見逃してくれたんだろうよ。」

「なあ、ばあさん。どうして俺たちに協力してくれるんだ?」

と、くりあが老婆に尋ねる。月下美人を手折られたくないのなら、端から協力などしなければいい。塔に入り口が無いのなら、どう足掻いたところで月下美人まで辿り着けないのだから。

「…あんた達はそんなに悪い人間には見えないからねえ。もしかしたら… と言う希望が少しだけ。今どうなっているか分からないから、ガラスの塔の月下美人を確認して欲しい。その後どうするかはあんた達に任せるよ。」

「??? え? なにがどうって? 意味分かんねえんですけど。」

「ここまできて、詳しく話しては貰えないのかい?」

「どうなっているか分からないと言ったろう? 心無い魔女に月下美人を手折られていたら… 意味が無いしねえ。」

そう言う老婆の口調は力無い。不安と迷いに揺れているようだ。


「分かったよ、ばあさん。ちゃんと確認して、そしてどうするかを決めたら、報告しに来るから。それでいいだろう?」

その動揺を感じたパールが、力強く言い切る。

「ああ… お願いするよ。どうか月下美人を、…頼んだよ。」

そう祈るように老婆が、パール達に頼み込む。

「…。任せておくれ。じゃあアタシ達はこれで。この魔道具はありがたく使わせてもらうよ。くりあ、行くよ。」

老婆から貰った小瓶を握り、パールが立ち上がる。慌ててくりあが後を追う。

「えっ? ああ… じゃあな、ばあさん。」

「気を付けてお行き。」


老婆に見送られて、二人は針葉樹の王国へと馬を駆った。

「結局、何が何なのか俺には分かんなかったんだけど。」

ぽつりとくりあが。

「そうだねえ… アタシにもハッキリとは。だけど、月下美人には何かあるんだね。まあ、魔道具は準備していなかったし… 少しは寄り道した意味もあるかねえ。」

「ホントちょっとだけ。まあ、長い時間いた訳じゃないし、いっか。」


目指すは王国の西の森。ガラスの塔攻略の足掛かりは得られた。後は… この目で月下美人の秘密を見るだけだ。と。

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