表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/22

ガラスの塔攻略と白の魔族の脅威①

 扉を開けて、中に入る。人間の作ったものじゃないんじゃから、気を抜いてくれるなよパール。そう、ルビィの言葉を受けての事だ。


「うわっ!?」

一歩足を踏み入れるが早いか、くりあが叫んだ。辺り一面の闇。入ってきた筈の入り口も、次の階に続くであろう階段も出口も見当たらない。壁も、床も。自分が立っているのか、横になっているのかも、分からない。なのに、お互いの姿だけははっきりと、闇の中に浮かんでいる。


「あっはっは。これは凄いねえ。確かに、人間じゃあ、こんなフロアは作れない。」

闇に浮かび、一人愉快だと笑うパールに、

「暢気に笑っている場合じゃないぞ、パール。この闇の中では、時間の感覚さえ狂ってしまうじゃろう。下手をすると、影の魔物の腹の中と同じ事になりかねないからの。」

「ええっ!? そりゃマズイんじゃないの? クイーン・パール、笑ってないで何とかしないといかんでしょ?」

と、ルビィとくりあがそれぞれ言うと、

「それもそうだね。とはいえ人間の作った罠ならアタシも何とかできるんだけどねえ… 夜の国の女王の力で作った罠なんだろう? こうなったらアタシは罠を楽しむしかないんじゃないかと。」

と、二人の言葉に頷きながらも、パールは一人楽しそうに辺りの様子を窺っている。


「…あんたって人は…」

「分かった分かった。パールもボウヤもこっちに来るんじゃ。仕方ないのぅ、私が何とかするしかなかろう。」

溜息を一つ。それからルビィが二人に向かってそう言った。


「あああ… なんか、物凄くルビィ・アイが頼れるお姉様って感じがする…」

くりあは目を輝かせて、ルビィを見詰める。…なんか気持ちが悪いのぅ、と、ルビィが呟いた。そんな様子を見て、パールがくりあに視線を送りながら、

「じゃあ、アタシはなんなんだい?」

と低い声で訊く。

「…え? えー… と…? そりゃ、ま、頼れる… 姐、御…?」

しどろもどろに答えるくりあに、パールは物凄い威圧感で迫る。

「なんだよぅ、その目は! だってしょうがないだろ!!」

と、口答えしながらも、後退さるくりあだった。そんな二人に業を煮やしたルビィが怒鳴りつける。

「いいから早くするんじゃ、お笑いコンビが!」

なんか一まとめにされちゃってるんですけど? と、くりあは呟いて、パールと共にルビィの元に向かう。歩いているのか、泳いでいるのか。とても不思議な感覚に襲われる。


「いいかね、私から離れるんじゃないよ。」

と、ルビィが言い聞かす。パールが彼女の体に腕を回し、もう片方でくりあを掴むと、

「ああ、分かったよ。」

と答えた。それを聞いたルビィは、魔術で次のフロアを探し始める。


「見つけた。そのままちゃんと捕まってるんじゃ。」

そう言ってルビィが飛翔の魔術を使い、闇の向こう側を目指して飛ぶ。それは僅かの間、と思われた。高速で飛んで、急に減速し、止まる。ルビィ? とパールに声をかけられ、

「着いたようじゃ。ドアがあるのぅ。ただ、次のフロアに足を着くまでは、私から離れんようにするんじゃよ。」

と、答え、闇の向こうに手を伸ばす。ガチャリ、と、音がして、光が溢れた。

「うわ、眩し…」

と、思わず声を上げるくりあ。


 光に目が慣れるのを待って、一歩ずつ、そのフロアに足を踏み入れる。見れば、螺旋状の階段がひたすら上に向かって伸びている。

「暫くは階段を上れって? 単調だねえ… 罠でもあれば楽しいんだけど。」

つまらなそうに、パールが呟いた。今はそれどころじゃなかろう、と、呆れ顔のルビィを隣にして。

「あれ? 外が見えるよ?」

道理で眩しいはずだよね、そう言いながら、くりあが壁際に駆け寄る。陶器で出来ていた筈の壁、内側からはガラスのように外の様子が伺えた。


「…ああ、大変だね。ルビィの言ったとおりだ。アタシの感覚じゃ、あの暗闇の中には、せいぜい十分程度しか居なかったと思っていのに… もう、日があんなに高い…」

と、空と、地に移る影を見やり、パールが言った。そして眉を顰め続ける。


「もう、昼近いな…」

「えっ? ちょっと、どうするの? 地上より幾らか上に来てるみたいだけど、月下美人の居る場所って…」

螺旋階段の先を見やり、不安げに言うくりあの言葉は徐々に小さくなっていく。


「遥か彼方じゃな。まあ、この先罠なんぞなくても、魔術無しで半日で登れる高さとは思えんのぅ。」

外の景色から残りの距離を割り出したルビィは、頭が痛いのぅ、と溜息と共に吐き出した。

「と、言う事は、無駄話も罠を楽しむのもこれからはナシって事かね…」

そう言って肩を落とすパールに

「何をつまんなそうに…」

と、くりあは呆れ顔で言う。

「しょうがない、行くか。」

そう言って、早々に気持ちを切り替えたパールが駆け出した。その後について行く二人。


 暫くの間、罠にも遭わず無事に、ただひたすら階段を上り続ける事が出来た。

「…なんか、おかしくないかい? ルビィ。どうも、上に登っている気がしない。外の景色が変わっていないよ、さっきから。」

そう。階段を駆け上がった始めのうちは、歩が進む度に地上が遠退いていた。だけどある時を境に、景色が動かない。

「…。試したい事があるんじゃが。」

そう言ってルビィが立ち止まった。


「なんだい?」

「ボウヤだけ、先に進んで欲しいんじゃがのう?」

「あ? 俺だけ? なんで?」

「いいから早くするんじゃ。」

と、ルビィに蹴りだされ、くりあは渋々階段を駆け上がる。人使いが荒いのは、クイーン・パールと一緒だよなあ… と、ぼやきながら。


「ルビィ、こんな事をして一体何の意味が… って、くりあ?」

「あれ? クイーン・パール、ルビィ・アイ、なんでここにいんの?」

くりあだけを先に進ませた理由を聞こうとした時、背後からの足音に気付いたパールが振り返る。そこには、先に進んだ筈のくりあの姿があった。


「やはりのぅ。どうやら、何時の間にかループさせられていたようじゃのぅ。」

と、さらっとルビィが。俺、一週分走り損? と言ったくりあを置いて、

「どうしようかの? パール。」

ふいっとパールに視線を移すルビィ。

「んん… どこかの遺跡で似たような罠に遭った事があるよ。確か… その時は何処かに、そうだ。壁の中に感覚を狂わせ幻覚を見せる香が仕込まれていたんだ。ずっと同じ場所で足踏みをさせられていたってオチさ。」

肩を竦ませパールがルビィの問いに答えた。


「でもさ、今回は一周したみたいなんだけど? それに、あん時みたいに香の香りはしてないよな?」

くりあが首を傾げ、パールに確認するように言う。二人の話から結論が出たらしく、

「と、言う事は、何処かで空間が歪んでいるという事じゃな。今度は走らずにゆっくり歩いて行こうかのぅ。少しでも空間が揺らいでいないか、注意しながらじゃよ。」

と、ルビィが二人に指示する。


 止めた足を再び動かす。今度は、空間に異変がないかを探しながら、の移動だ。

「…ルビィ、これは何だと思う?」

外側の壁に不思議な紋様を見付けたパールが声をかけた。よく見ると、うっすらと青い色の紋様が浮かんでいる。空の青に溶け込むように。


「なんか、壁が透明だから浮かんでるみたいだな~。あっ、こっちにもある。…ただの模様じゃないの? 壁画みたいな。」

そう言って、無防備に紋様に触れるくりあ。

「ボウヤ、勝手な行動は…っ、」


その瞬間音も無く塔が足元から崩れ始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ