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北の魔女が真相を明らかにする迄

あっという間に、ガラスの塔のある泉の湧く場所まで着いた。

「やっぱり魔術を使うと違うねえ。」

パールが伸びをして言った。一体どれだけの時間を短縮できたことか。ま、旅を楽しむには不向きな力だけどね、と付け加えていたが。


「…っはあっはあっはあっ… …なっ、なあ…」

「なんだい、シッカリおしよ。だらしないねぇ。」

「…ほっとけっての。だから、俺が言いたいのは、思いっきりこの国の法に触れてんじゃないのかな、って事だよ。許可証どころか話もつけてないじゃんか。」

許可証も無く、ガラスの塔を目前としている事に、くりあの心で少しの不安と罪悪感が首を擡げていた。


「バレなければ問題なかろう。」

「ばあさん…」

「死ななきゃいいんだよ、死人出さないために出入り禁止にしてるんだからね。」

「アンタも、ホントに、なんて言うかさ…」

ツッコミ切れないよ、この二人… と、くりあは肩を落とした。


「このまま上へ飛べば良いんじゃろ?」

ガラスの塔があるだろう上空を見上げて、ルビィが聞いた。

「ああ、頼むよ。」

「まっ、またかよぅおぉおおおおぉぉぉおぉおおおおっっっっ。」

くりあの悲鳴を振り撒きながら、あっという間に、花畑へ。


目には映らぬガラスの塔に降り立つ。

「…すごいのぅ。月に咲く花を、こんな所で拝めるとは。」

最上階で咲き乱れる花を目にし、ルビィが感嘆の声をあげた。

「…っは、はあ、はあ… え? この珍しい花、月の花なんだ。」

「ああ、そうじゃ。ところで月下美人はどこかのぅ?」

くりあに答えながらルビィは周囲を見回す。


ドナタ


「あぁ、あそこだよルビィ。見ててごらんよ、ほら、人に成る。」

パールの指差す方向には、月下美人の蕾が在る。


アナタハ… アア ソウダワ

ワタシヲ タスケテクレルト

ヤクソクシテクレタ カタネ


「覚えていてくれたのかい? 約束通り、アンタを助けられそうな魔女を連れてきたよ。」


ホントウニ アリガトウ

モウズット ナニモ カワラナイト

アキラメテイタノニ…

コレデ ワタシハ アノヒトニアエルノネ


そう、儚げな微笑みを月下美人は見せた。

「さて。少し状態を見せて貰おうとするかのぅ。」

ルビィは月下美人に近付き暫く眺め、そして優しく手で触れた。

「…月の、魔物に会う必要が… あるやもしれんのう。」

ぽつり、と、ルビィが呟いた。


ソレハ トテモキケンナコト

アナタモ コロサレテシマウ


ルビィの言葉を聞いた月下美人が眉を顰める。

「なんで月の魔物に会う必要があるんだよぅ。」

「…呪いとは少し違う、感じがするでのぅ。何やら悲しげな気配が感じられるんじゃよ。…月の魔物には、何か秘密があるかもしれんの。」

「命懸けだねえ。」

一人くすくすと、愉快そうにパールが笑う。

「つうか、ナニ笑ってんデスカ。アンタわ。」

「楽しいだろ? 誰一人生きて返さない月の魔物…」

キラリ、とパールの瞳に炎が燃える。それは、自分の力を試したくて仕方の無い、怖いものなど無い挑戦者の目だ。

「こっ、この人わ…」

分かっていた事だ。分かっていたけど、それでも言葉を無くすくりあ。

「決まりじゃのぅ。月下美人よ、ここで時間を潰させて貰うからの。」

ルビィがそう決定する。

「勝手に決めんといて。」

月の魔物には遭いたくないくりあが、縋るように訴えかけるが、全く効果が無かった。


アナタガタハ イノチガ オシクナイノデスカ


月下美人が、パールとルビィのやり取りを聞いて、そう尋ねた。

「いや、俺は思いっきり命が惜しいです。」

びしっと挙手をしたくりあがきっぱりと言い切る。それを聞いたパールが、

「じゃあここから飛び降りな。」

と、さらっと一言。

アタシとルビィはここに残るから、月の魔物に遭いたくないならそれしか手段はないよ、と続ける。

「それも死ぬから! なんで平気そうなんだよ、アンタ方は。」

半泣き状態のくりあが言う。それを聞いて、

「勝算があるから、かねえ。ルビィ?」

「勝算… まあ、そうとも言えなくはない、かのぅ。」

と、パールとルビィが顔を見合わせる。

「勝算て…」

「夜になってからのお楽しみじゃのう。」

フードに隠れて見えないが、その声色からルビィは笑っているように感じられた。


アナタガタハ マモノノ オソロシサヲシラナイ


不安げに、心配そうに、月下美人が話しかける。

「ああ、知らないねえ。知っているのは、ルビィの見立てに間違いが無いということ。それだけさ。あんたを助けられる。そうしてアタシ達も無事でいられる。それには間違いないだろう?」

「そうじゃのう。怪我くらいはするかもしれんがの、命までは亡くすまい。」


ホントウニ ダイジョウブナノデスカ


「心配おしでないよ。」


デモ ワタシハ モウダレカガ

イノチヲウシナウノヲ ミタクナイノデス


「…死ぬなんて馬鹿な真似をするほど零落おちぶれちゃいないから安心していい。」

月下美人の不安を振り払うように力強く言い切るパール。


エエ… ドウカ イノチダケハ ダイジニシテクダサイ


「心配されちゃってるし…」

「さて、夜が更けるまで仮眠でもとっておこうかね。」

一人、不安を拭いきれないくりあを他所に、そう言ってパールは伸びをする。

「聞いちゃいねえし。つうか、よくこんな時に寝れるよな…」

「…ボウヤ、今のうちに寝ておいた方が良いぞ。月の魔物との戦闘中に睡魔に襲われたら、それこそ命は無いじゃろうからな。」

「…寝ます。無理矢理!」

月が昇るまでの間、三人は仮眠をとって月の魔物との戦闘に備えることにした。月下美人が不安そうにその姿を見守っている。


刻一刻と時は流れ、闇色のカーテンが辺りを包んだ。静寂が空を裂くように染み渡り、心細さが闇と手をとり、嘆くように星が瞬き、そうして月があやしく輝いた。

月明かりの中、ガラスの塔がその姿を現す。高く高く、どこまでも透明な姿を。

そして、今日は満月だ。夜の魔力に魅入られた、なんて素敵な音の死んだ世界。月下美人が最も美しく花開く一夜。


一人目覚めていたルビィは、その儚く悲しげな姿を見て、心を痛めた。

…ある、一つの仮説が過ったのだ。

「なんと哀れなことか。」

綻び始めた蕾を見詰め、憐れみの篭った声でルビィは呟いた。


月が、瞬いた。刹那に気配が揺らいだ。

「…来る!」

パールは飛び起き、月の彼方を睨む。奇妙な気配だ、と、ルビィが呟いた。


ツキノマモノ…


月下美人が、絶望にも似た声で、震えた。


オォオオオォオオオオオオ

月の魔物の咆哮が、静寂を薙ぎ払い、夜空を裂いた。


「う、うわっ、」

パールに叩き起こされていたくりあは、月の魔物の咆哮のあまりの重さに一瞬、身の毛のよだつ思いをした。

一陣の風を感じた。闇と同じ色の羽を持つ、月の魔物がそこにいた。血のように赤い双眸が、パール達を捉え、放さない。


「月の魔物よ、話が有る。」

動じる気配も無くルビィが一歩、前へ出る。


オォオゥオオォオオオオオ

訳せば、問答無用と言ったところか。羽ばたきひとつで、パール達ははね飛ばされた。


「…っっっっ!」

ガラスの壁に叩きつけられ、悲鳴にも成らない。

「…っ、まるで嫉妬に狂った人間みたいだな。」

「…かはっ、は、げほ、ああもう。

…って、余裕スね、クイーン・パール。」

「力で来るなら、ねじ伏せる!」

素早く体勢を立て直したパールは、手に入れて間もない得物を手に取り、月の魔物に飛び掛かる。


「なんか、燃えてるし…」

「おい、パール、ちょっと待つんじゃ、って、聞いてないかのぅ。」

「あー、ダメです。ああなったら暫くは。」

しゃーないな、そう呟いて、くりあもまた戦闘に参加する。くりあ的には、月の魔物との交戦も恐怖だが、援護に入らなかった場合… のパールの方が、もっと恐ろしかった。


「やれやれ、仕方の無い連中じゃのう。」

力及ばす、また吹き飛ばされてきた二人を一瞥して、ルビィが。

「援護おしよ、ルビィ。」

「全く、人の話は聞くものなんじゃがのぅ。 …ちっ。」

月の魔物が吼える。衝撃波のようなものが、三人に襲いかかる。ルビィが防御の為の障壁を張るも、すんでのところで力及ばす、三人はまた、壁に叩きつけられる。


「…っ。己… こちらが穏便に話し合いで済ませようとしたのに…」

先程と打って変わって、ドスの利いた声がフードの中から漏れた。


「あ、キレた。」

「あの、クイーン・パール… キレた、って…?」

なにやらイヤな予感がしてならない。クイーン・パールの友人をやってる位なんだから、何が起こっても不思議じゃない。くりあはここが月にも届くほどの塔の最上階なのが恨めしかった。


「喜べくりあ。本気のルビィが見れるぞ。」

楽しそうにパールが言う。

「ええ? 嬉しくナイ! そんなのっ。」

何もこんな場所で。巻き込まれ、必至じゃん! 逃げ場も無い… 無駄な足掻きと知りつつ、くりあは少しずつ後退りしていた。


「問答無用で攻撃を仕掛けるたぁ、いい度胸をしているじゃあないか。」

立ち上がり、硬く身を固めていたローブを自ら剥ぎ取る。


「え? えええっ!」

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