ポンコツな少年 ①
どれくらい走ってるんだろうか?
少なくともかれこれ1時間くらい全力疾走している感じがした。
普通ならそのくらいの時間を走っていれば疲れたり、体力が切れてスピードが遅くなったりするはずなのに全く疲れていない自分の体が不思議だった。
私そんなに体力あるほうじゃなかったよね? いつもなら息も絶え絶えで動くことすら出来なくなるくらい疲れるはずなのに全くもって疲れていないのが現状だ。
いや、全く疲れていないって言うのは語弊があるな。多少は疲れている多少は……。
不思議に思って走りながらも自分の全体をチェックしていると急に閃くものがあった。
これはもしかして俗に言う異世界特典というものなのでは?!
異世界に来た影響で体力とかがカンストしているとか?!
某アニメとかでは異世界転移した先でスキルって言うとスキル画面とか出てきたりしていた。
そして、今私も異世界転移の真っ只中にいる!!
この状況から鑑みるに私にも出せるかもしれない……そしてきっとスキル画面が出た際には体力の所に∞マークがあるはず!
絶対あるでしょ。この異常なまでの体力から察するにチート能力が備わっているとみた。
そう確信した私は一度深呼吸をすると高らかに宣言した。
「スキル!」
………なーんも起きないんだけど。スキル画面表示されないし。スキル画面表示されないってことは体力がカンストしているかどうかも分からずじまい。
………もしや、この世界にスキルというものは存在しない?
ちょっとウキウキしながら声に出したのに予想に反してうんともすんとも言わない現状にガッカリして肩を落とした。
そんなふうに少し自分の世界にトリップしていた私は不意に前方からヤバいやつを見るような目で見られているのに気づいた。めっちゃ気まずい。他に人がいるの完全に忘れてたわ。
気まずさのせいかお互いに何も言わずにしばしば、無言で見つめあった。
私はその気まずさを打破すべく意を決して口を開いた。
「ごめん。あんたの存在を完全に忘れてて、自分の世界にトリップしてたわ」
「……なんだよそれ。というか目の前にいるのに存在を忘れるとか酷くないか? それに急に意味不明なことを大声で言うからめっちゃビビったし」
「ほんとすまん。出来れば忘れてくれ」
「お前、変なやつだなー」
「お前にだけは言われたくない」
「たくっ。お前のせいでどこまで話したか忘れたじゃねぇか」
「ん?何の話?」
何の話をしてたっけ?
自分の世界に意識が飛んでいたせいで何の話をしてたのか忘れちゃってたのでそう聞いたら少年は呆れたような目でこっちを見たながらそれでもかというように思いっきり重いため息を吐いた。
なんか私に当てつけるような感じの深いため息だった。
なんかちょっと腹立つんですけど。
「この森から瘴気が漏れ出て王都にまで被害が出たって話してただろ」
「あぁ!そういえばそんな話してたね」
私がポンっと手を叩きながら思い出したように頷くと「話を進めるぞ」と言ってきた。
「数ヶ月前までなんの問題もなくこの森だけに留まっていた瘴気が急に膨れ上がってきて漏れ出てきたってことは何かしらの問題がこの森に発生したってことだろ?」
「確かにね。急になんの問題もなく異常が起こるとは考えにくいからね」
「だろ?だから何が原因で瘴気が膨れ上がったのか調べるために俺がこの森の調査に乗りでたわけだ」
なるほどね。確かに原因もわからずにそのまま放置してたら大変なことになるもんね。
現に、王都の方に影響が出ているみたいだし。
体の許容量を超えて瘴気を取り込めば屍人っていう魔物になっちゃうって話だし。
早急に対処しなきゃまずいだろうね。
「なにか進展はあったの?」
「いや、まだ何もわかんないんだよな。一刻も早く何とかしないとほんとにまずいんだけど」
「そうだよね。王都にまで瘴気が漏れ出てるってことは瘴気を大量に吸い込んで屍人になる人が続出するかもしれないし」
「それもなんだけど……。瘴気が漏れ出たのが原因なのかここ数日でどんどん王都の真ん中にある御神木である聖木が枯れ始めてきたんだよ」
「………え? 聖木が枯れ?」
耳を疑うような言葉が聞こえて呆然と聞き返した。
枯れてきてる? 聖木が? ………これは急がないとまずいのでは? エレシアには最初にカトレアにある聖木の浄化を頼まれたけど、もし……もしも間に合わなくて浄化する前に聖木が枯れてしまったらどうなるんだろ?
「ねぇ、ひとつ聞いていい?」
「ん?なんだ?」
「聖木が枯れてしまったらどうなるの?」
「どうなるってそりゃ、間違いなく王都は滅びるだろうな。人1人残さずに瘴気に飲まれて」
「?! 」
マジか! やっぱりそうだよね?!
だって聖木が周りにある瘴気を浄化してくれるおかげで人が住めるようになっているんだから、聖木が枯れたらそりゃ瘴気の浄化が出来なくなって害しか残らないよね!
急いでカトレアに行かないと!!
「2日かけてもなんの進展もなかったから今日こそはなにか見つけるぞ!と意気込んで森に踏み込んだんだよな」
「ん? 急に何? 」
「お前がビックベアに追いかけられる原因になったことを話せって言ったんだろ」
「………あぁ、そういえばビックベアに追いかけられてるんだった」
完全に忘れていた。話の前置きが長すぎるし話が脱線しちゃっていたしで話し始めた原因をすっかり忘れてしまっていた。
ビックベアに追いかけられていたことも………。
「それで? 何があったの?」
「いつものように森を散策していたんだよ。怪しいものはないか、見逃しがないか、注意深く周りを見渡していたんだ。だが、ここでひとつとんでもない見落としに気づいたんだ」
ゴクリ。とんでもない見落としとは一体何なのだろうか。
固唾を飲んで静かに少年の後ろ姿を見つめた。
少年はゆっくり言葉を区切り、そして静かに口を開いてとんでもないことを口走ったのだった。
「周りにばかり注意していた俺は、足元の注意が疎かになっていたんだ」
「え?どういうこと?」
「つまりだな。……落ちたんだ」
「落ちた?」
「あぁ。足元を見ずに歩いていた俺は、落とし穴の存在に気づかずにまんまと落とされてしまったんだ!」
「………………………………は?」