瘴気吸引《ジュエル》と屍人《ネルガル》 ①
ジュエル……ジュエル………宝石?
いや、今の響からしてちょっと違うか?
なんのことを言われているのかさっぱり分からなくて少しの間呆然と目の前の少年をガン見しながら固まってしまった。
私が何も言わずに固まっていたせいか少年は何を勘違いしたのか一人でブツブツ言い出した。
「なんで何も喋らないんだ?もしかして言葉が通じていないのかな?それとも人の様に見えて人じゃない?人外だと精霊族とか、獣人とか?でも獣人だと耳とかシッポがあるはずだから違うか…精霊族は……もっと違うか…………精霊族は目も眩むような美形揃いって聞くからな見たことは無いけど」
なんだろ今ものすごく失礼なこと言われた気がするんだが?
この男遠回しに私の容姿を貶してる訳?
そんな感じで私がちょっと言葉に引っかかりを覚えて考え込んでいたら少年は「あ!」と急に大声を出しながら自身の手をパンっと叩くと名案だと言うふうに叫んだ。
「分かった!!この女性は……立ったまま死んで---」
バッチーーーーーン!!!!!!!!!
「いっでぇーーーー!!!」
私のハリセンが少年の頭にクリーンヒットした。
いきなり頭に衝撃が走った少年は何が何だか分からずに目を白黒させてこちらを見ていた。
……ハリセンをどこから取りだしたのかとかいう質問は受け付けてないからね?
とりあえず私は手に持っていたハリセンをしまうとすぅーっと目を細めて私が今出せる最大限の低い声で言い放った。
「死んでねぇわ」
「え……生きて……るのか?」
尚も私が立ったまま死んでいると思っているのか疑っている様子だったので無言でハリセンを構えるとそれを見た少年は目にも止まらぬ早さで頭を下げてきた。
「すみませんでした!!!」
「分かればよろしい」
その謝罪を受けて静かにハリセンを元の場所に戻した。
「はぁ……良かったぁぁ、生きてる人で……」
「まだ言うか」
「仕方ないだろ?こんな瘴気に塗れたところに瘴気吸引も持たないでポツンと立ってんだもん。人だと思って掴んだのにピクリとも動かないからてっきり魔物に掴みかかったのかと思って超焦ったんだからな?」
「なんで動かない=魔物という発想になるのよ?よく見て?こんなに可憐でか弱そうな美少女のどこをどう見たら魔物に見えんのよ」
「…………かれん?……………美少女?」
少年は私の姿を下から上までじっくりと見た後に鼻で笑いやがった。
………………もう1発殴ってやろうか……。
私が静かに闘志を燃やしていたら少年は何かを察知したようで思いっきり話を逸らした。
「まぁとにかく…だ。こんな瘴気に塗れた場所になんの装備もつけないで立っているから人じゃないかもしれないと思ったんだ」
瘴気に塗れてる…ねぇ?
言うほどそんなに酷い状態なの?
エレシアの話だと瘴気を体内に取り込んじゃうと多かれ少なかれ身体に異常をきたすみたいなことを言っていたけど特段異常は見当たらないんだよね。
「ん?どうかしたのか?」
「いや、さ?あんたの言うことがホントなら私1時間くらい?この場所にいたんだよ?だけど身体には何の異常もないんだけど?」
「は?1時間?……1時間もこんな場所に居たのかよ」
少年は信じられないとでも言いたげな目でこちらを見てきた。
いや、私だって居たくていた訳じゃなから。
どこに行けばいいのか分からなくて身動きが取れなかっただけだからね?
「というか、さっきからあんたが言ってるジュエル?ってなんなの?」
「はぁぁ?瘴気吸引を知らないって正気か?」
これまた盛大な溜息をつきながら呆れた目で見られた。
……ムカチン……なんか馬鹿にされているようで思いっきり腹が立つな。
「仕方ないでしょ。だって私この世界の住人じゃないもん。丁度1時間前にこの世界に来たんだからこの世界の常識みたいな感じで言われたって分かるわけないじゃない」
「はぁぁぁぁぁぁ?!」
そう言ったら今度は目を見開いて共学の表情で固まってしまった。
すごいな……この短時間で一人で百面相をしているよ。表情が豊かなんだなー。
その表情の豊かさを私にも分けて欲しいくらいだよ。
「この世界の住人じゃない?来たばっかり?え?てことはお前渡り人なのか?」
「渡り人?」
「渡り人っていうのはたまに異世界からこの世界に迷い込んできた人のことだよ」
「いや、私は迷い込んできた訳じゃなくて強制送還されたというか……ほぼ、拒否権なしに無理やり連れてこられたというか?」
「?誰に?」
「エレシアっていう人に?」
「は?もう1回言ってくれる?」
「何を?」
「……誰に連れてこられたんだ?」
「だからエレシアっていう人にだってば」
「はぁぁぁぁぁぁ?!?!?!」
もううるさい!!
こいつさっきから「はぁ」しか言ってないじゃん!
大声で叫ばまれて咄嗟に私は耳を塞いだ。
「おまおまお前!」
「うわぁ!なんだよ!」
急に叫んだかと思ったら今度は勢いよく私の肩をガシッと掴んできた。
めっちゃびっくりしたんだけど!
情緒不安定かこいつは!?
「会ったのか」
「はぁ?誰によ」
「お前世界樹の巫女様にあったのかよ!!」
「………そんなに驚くことなの?」
「当たり前だろ?!滅多にお目にかかれない高貴な方なんだぞ?」
「そ、そうなんだ………」
少年の勢いがすごくてそれしか出てこなかった。
「巫女様がお前をここに送り込んだということはお前は救国の聖女様なんだな?」
「たぶん。そんなことを言われてここに強制送還されたから…そうなのかな?」
「なっとく」
「 …何が?」
「聖女は元々とても強力な浄化の力を兼ね備えているんだ。だから、瘴気を体内に取り込んだとしても身体に異常が出る前に強力な浄化の力でほぼ無意識に消し去ってしまうから瘴気濃度が高いこんな場所にいてもお前はピンピンしてるんだろうな」
「……なるほど。つまりは私はとてもすごいってことだね」
私が、訳知り顔でそう頷くと少年は「お前はアホなの?」と言ってきた。
なんだと! こいつにだけは言われたくないんだけど。