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世界樹の巫女 ②

「安心して。こっちも大変なことを無償で頼んだりしないから」

「と言うと?」

「世界樹の浄化を成し遂げて世界を救ってくれた暁には、あなたの願いを何でも叶えると約束するわ」

「……なんでも?」

「えぇ、なんでもよ」

「ほんっっっっとうになんでも叶えてくれるのね?」


私が何度も何度も確認しているとエレシアはうんざりしたように「だからなんでも叶えると言ってるじゃない」と言ってきた。


な、なんでも……だと?

何でもってことは、あんなことやこんな願い事でもいいってこと?!


ついつい現金なことにまだ何もなしとげていないうちから願い事を考え始めていた私は、相当だらしなく顔が緩んでいたことだろう。


エレシアの冷めた目線に気づいて、我に返ると口元を拭った。

おっといけね、ヒロインに有るまじき顔になるとこだったぜ。


とりあえず、報酬云々の話は一旦置いとくとして……一旦置いとくだけだからね?

ちゃんと、私の労働に見合った対価を用意してもらわなければ!


私は気合いを入れるために自分の頬を両手でパシッとはたくと前を見すえた。


「それで、私はそのミズカルズへ行って最初に何をすればいいの?もう、ここまできたらうだうだ言ってても仕方ないしね!」


私がやる気になってそう問いかければ何故かエレシアは無表情の顔でこっちを見据えているだけだった。


な、なんか怒ってる?


「えっと………どうかした?」

「いや、別に?ただ、どうしてかしら?あなたのその言葉を素直に受け止められない私がいるんだけど」

「……人の好意は素直に受け取るべきよ。私は別に血も涙もない人間じゃないからね。私に力があるのに困ってる人を見捨てることなんて出来ないからね」


腕を組み、しきりに頷きながら私が話しているのを聞いてもなおエレシアの目線の冷たさは変わらなかった。


「……そう、あなたにも立派な善人な心があったということなのね。その考えはとても素晴らしいと思うわ」

「も、もちろん」


なんだろう?言葉の端々に棘を感じる気がするのは気の所為なんだろうか?


「では、世界のため……世界樹のために頑張って浄化の度に行ってくれるのね?」

「ええ、もちろん…………………報酬の為に!!!!」

「やっぱり邪な気持ちが紛れ込んでるじゃない!」


私が満面の笑みでそう言い放つとすかさずエレシアのツッコミが入った。


しまった!!

ついつい本音が漏れてしまった!


私は慌てて口を押さえたけれど時すでに遅し、口から出てしまった言葉は取り返しがつかないのでした。


「そんな邪念を抱きながらじゃ浄化なんてできないんだからね!」

「いや、ごめん。ついうっかり本音が…」

「本音ですって?」


私がまたしても口を滑らせると、凄まじいく迫力のある笑みを貰ってしまった。

美少女に有るまじき般若の如き顔である。

美少女が本気で怒るとものすごく怖いって言うのはほんとだったんだね。



❆❆❆❆❆❆❆❆❆



「報酬のことなんて言わなきゃ良かった!」


エレシアはそう吐き捨てながらぷいっと顔を背けた。


「いや、ほんとにごめんなさい。」

「世界樹の浄化には清く心かな想いが重要なのよ。そんな邪な心持ちでは浄化の旅は成功しないどころか、死ぬ恐れだってあるわ」

「………………」

「だからこそ清廉潔白な想いがとても重要なのよ?」

「肝に銘じます……」

「浄化に必要なものはただ1つ真に守りたいと思う強い心よ。わかった?」

「はい」


あの後、私は何故かエレシアにその場に正座をさせられ1時間にも及ぶ説教という名の浄化の心得を伝授してもらっていたのだった。


「わかったのなら、私から言うことはもう何も無いわ」

「はい師匠!」


私が勢いよく手を挙げてそう叫ぶとエレシアは迷惑そうに「誰が師匠よ」と呟いた。


エレシアは自身の体を見下ろすと「そろそろ時間のようねと」呟くと真剣な眼差しで私を見てきた。


その視線を真っ直ぐに受けると私は背筋をピシッと伸ばした。


「そろそろお別れのようね。私もできるだけサポートはするつもりだけどあなたを送ってすぐには何も出来ない。それは許してね」

「エレシア……体が」

「えぇ、もう私の姿も保てないほど弱っているのね」

「どういうこと?」

「私は世界樹の力を借りてこの姿を形成しているの。つまり世界樹の力が弱まれば私は姿を保てなくて消えてしまう」

「それほどまでに世界樹が弱まっているってこと?」

「その通りよ。だけど、今すぐ枯れるとかそう心配はいらないわ。まだもう少し世界樹は耐えられる。あなたをミズカルズへ送る力くらいは余裕であるから安心してね」

「送る力?」


私は言われた言葉を反芻するとバッとエレシアを見た。

私をそこに送るのには世界樹の力が必要なの?


エレシアは、そのくらいじゃ枯れないから大丈夫だと言うけれどほんとに大丈夫なのだろうか?

不安そうな顔でエレシアを見上げると大丈夫とでも言うように頷いて微笑んだ。


「それくらいじゃ世界樹は枯れないわ。だからまずあなたにはカトレアという国に行ってほしい。」

「カトレア?」

「カトレアは花の都と言われる大国よ。そして聖木が街の真ん中に鎮座しているわ。まずその木を浄化して欲しい」

「浄化? 世界樹じゃなくて?」

「世界樹を直接浄化することはできないわ。そんなことをすれば瘴気が強すぎであなたが瘴気に飲まれて死にかねない」

「!?」

「だから世界樹の浄化の前に5つの大国を巡って聖木を浄化しながら世界樹の元に向かって欲しい」


エレシアの話だと5つある聖木は瘴気を取り込んで浄化する力があるらしい。だけど世界樹が何らかの影響により力が弱まったことで聖木たちも浄化する能力が衰えてしまい、ついには溜め込んだ瘴気を浄化出来なくなって聖木は枯れかけてしまっているらしかった。

そしてその影響は人間達にも及んでいて、作物が育たなくなって食べるものが確保できなかったり謎の病に侵されて何人もの人がなくなってしまっているらしかった。

思ったよりも状況はあまり良くないようだった。

改めて私は気を引き締めた。やると決めたからには中途半端なことはしたくないし全力でやるつもりだ。


私にしか出来ないと言うなら尚更助けてあげたい。

できるかわかんないけど、弱気になって引き返すのは私らしくないし。


「浄化ってどうすればいいの?」

「難しくはないわ。聖木に近づいて手を触れるだけでいい。そして、さっき私が言ったように清らかな想いで浄化を願えばいい」

「……手を触れて………願うだけ………それだけでほんとに浄化なんてできるの?」

「大丈夫よ。あなたなら。自分の中にある力を信じて。」


エレシアは私の手を握って力強く頷くと、私の後ろの方を指さした。


「さぁ扉は繋がったわ。ミズカルズの地へ。」


そう言われて私は後ろを振り向いた。振り向くとそこには私をこの場所に連れてきたあの大きな扉が立っていた。

その扉はゆっくりとギギギっと音を立てて開いた。

扉の先は見えない。白く光り輝いていたから。だけど不思議と最初に見た時のような恐怖は感じなかった。


扉の方からは、微かに風が吹いているようで心地よい風が私の横をとおりすぎて行く。


………風?なんか嫌な予感……

その予感が的中するかのように、私の体が宙に浮かび上がった。


「へ?」

「すぐにミズガルズへと旅立てるように手助けをしてあげるわ」

「……えっと、エレシア?」

「それと、ひとつ忠告だけどなるべく魔物とは遭遇しないように気をつけて。あなたには瘴気を浄化するという力しかないから。」


エレシアはまるで私の声が聞こえてないかのように無視をして話続けた。


「魔物を倒す力なんてないから、今のあなたが魔物と遭遇したら瞬殺されるのがオチだからね」

「ちょ、ちょっと?」

「だからくれぐれも気をつけてね?」

「いや、だからさ私の話を聞いて---」


私が何かを言おうとした時、私の体が強い力で扉の方に引き寄せられているのに気づいた。


私は顔を引き攣らせながらエレシアの方を見るとエレシアは今までの中で1番いい笑顔で親指を立ててこう言ってきた。


「この世界と世界樹の命運はあなたに託したわ!!健闘を祈る!!!」


そのエレシアの宣言を最後に私の体は凄まじい風の力という引力によって扉の方に吸い込まれていくのであった。


「なんで最後までこうなるのよォぉぉぉぉ!!!!」


私の叫び声は、扉が閉まる音と共に吸い込まれて行ったのだった。



❆❆❆❆❆❆❆


冷雪が扉の中に吸い込まれるようにして消えると、扉は静かに閉まっていきそして暗闇の中へと消えていったのだった。



「どうか、お願いね冷雪………世界を………」


エレシアは祈るようにつぶやくとエレシアの体はついに光の粒となって消えていき世界樹の中にへと吸い込まれるように消えていったのだった。

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