水と油な2人の相性
「ちょっと、足の踏み場がないんだけど」
「君の目は節穴なの?ちゃんと歩けるスペースぐらいは確保してあるでしょ。よく見なよ」
「これのどこが歩けるスペースなのよ!下に散らばってるガラクタを避けながら歩くのめっちゃ疲れるんだけど!」
「ガラクタじゃないから!マジで君の目は節穴みたいだね!」
「なんですって!?」
ラウルと口論しながらもガラクタの山をかき分けて歩いていた私たちはとある一室へと足を踏み入れた。
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あの自己紹介の後ラウルの魔術によって木っ端微塵に粉砕された魔塔は物の見事に修復された。
初めて見る不思議な光景に私の目は釘付けだった。
ラウルが呪文を唱えた瞬間崩れていた瓦礫が宙に浮いたと思ったら在るべき場所に戻るかのように高速で動き出し、あっという間に魔塔が私の目の前で修復を完了した。
うん。ほんとに目の前でね。
私の鼻先スレスレに魔塔が立ち上がった。
一歩間違えたら私にあの大量の瓦礫がぶち当たり大怪我をしていただろう。
「よし!これで修復完了っと」
後ろを振り返ってラウルの方を見遣ると奴は物凄く清々しい顔でそう言い放った。
いやいや、完了じゃないよ?
いや確かに完了はしているけどもそれよりももっとこう…私になにか言うことがあるよね?
「なに?なんか言いたいことでもある訳?言いたいことがあるならハッキリ言ってくれない?そんなふうにみつめてるんじゃなくてさあ?」
さっきまでの清々しい顔が一転して、面倒くさい奴を見るような目でそう言い放ったラウル。
いやいやいやいやいやいや。
え?言わなくても分かるくない?
だって今の私の状況みてよ?
私の目の前にピッタリとそびえ立つ塔を見てそういう反応なわけ?
「……………これ見てなんとも思わない訳?」
「??これって?」
本当に分からないのかラウルはキョトンと首を傾げながらそう聞いてきた。
マジで殴りてぇー。
ラウルは少し考える素振りをしながらこちらを凝視してきた。
それはもう、穴が空くんじゃないかってくらい私を熱烈に見つめている。
普通の女の子なら勘違いをしてしまうんじゃないだろうか。
まあ、私は絶対に無いけど。
長い熟考が終わったのかラウルは何かに思い至ったのか手をポン!と叩いた。
「あ!もしかしてトイレに行きたい訳?」
「………………え?」
ラウルの辿り着いた答えは斜め上の方にいっていた。
予想外の答えに私がフリーズして何も答えないでいるとラウルは自分の答えが当たったと思ったのかそのまま話し続けた。
「だったら最初からそう言いなよ。だからそんなに入口の真ん前に立ってたの?」
「……………………」
「意外とあんたってせっかちなんだね。僕だったから良かったものを、他の人だったら死んでたよ?瓦礫に押しつぶされてさぁ?」
「………………………………」
「やめてよね?まかり間違ってあんたを殺しちゃったら僕が責任取らなくちゃいけなくなっちゃうから。そんなんでも一応あんたは聖女なんだからさぁ」
「…………………………………………」
「トイレなら入ってちょうど右側にあるから早く行ってくれば?……あ、もしかしてさっきから不機嫌だったのってトイレ我慢してたからとかなの?だったら早く言ってよね」
「いや!そんな訳なくない?!?!?!」
ようやくまともな思考回路が戻ってきた私はラウルの勘違いを正すべく思いっきり声を張上げて否定した。
「いやいやいやいや!なんで私がずっとトイレ我慢してたみたいな解釈なわけ!?てか!そもそもだけど乙女に対してその答えなくない?デリカシーが無さすぎるでしょ!」
「おとめ?………乙女なんてどこにいる訳?」
ラウルはわざとらしく首を傾げると周りを見渡すかのようにキョロキョロと見た。
「目の前にいるんですが!?」
「ふっ。あんたは乙女っていう感じじゃないじゃん寝ぼけてるの?」
「なんですって!?」
「うーん。あんたの場合どっちかって言うと暴れ馬って感じだよね?気性が荒い感じが特に似てる」
ラウルは半笑いでそう言捨てると、さらにバカにした感じで笑いだした。
ム、ムカつく------!!!!!!!
「まぁまぁ2人ともその位にしとけって。特にラウル。こんなんでも一応聖女様なんだ。おちょくるのはそこまでにしとけよ。聖女らしからぬ聖女でおちょくりたくなる気持ちはわからんでもないが」
私達が喧嘩しているのを見かねたのかルティルは私たちの間に割り込んで来た。
フォローにならないフォローを言いながら。
ラウルを窘めるのか私を貶すのかどっちかにしてくれない?
あと、それはそうと……
「あんたにだけは言われたくない」
「は?どういう意味だよ」
私はルティルの言葉をまるっと無視して、ラウルに向き合った。……が
「あれ?ラウルが居ないんだけど」
「ん?ほんとだ。あいつほんとにマイペースだな」
先程までラウルがいた場所を見るといつの間にか姿が見当たらなくなっていた。
いつもの事なのかルティルは特に気にした様子もなくラウルの姿を探して周りをキョロキョロ見渡し始めた。
この一瞬で一体どこに行ったのよ。
私は半ば呆れた感じで魔塔の入口の方に視線を向けるとその中からひょっこりとラウルが顔を出した。
「そんなとこにいつまでも突っ立って何してるの?入るのか入らないのかどっちかにしてくれる?邪魔だから」
「……………は?」
「なんだもう入ってたのかよ」
ルティルからは特に気にした感じもなく、イラッときた感じも見受けれずにラウルの言葉に素直に従って魔塔の中へと入っていった。
え?私だけ?
あの言い草に腹を立ててる私の器が小さいだけなの?
私はモヤモヤとした気持ちを抱えながら、私一人でこんなところに突っ立っていてもしょうがないと思い大人しく2人の後について行くのだった。
ただ、ラウルの後ろ姿を見ながら根本的に奴とは合わないなと思った。