謎の美女…………その正体は?
ズズーーーっ…………
あ、この紅茶美味しい。
……私は今、どこにいるでしょうか?
自室?違う違う。だってここは私の居た世界じゃないもの。
じゃあ、庭かしら?
さっきまでお城の前にいたものね。
その庭で紅茶を啜っているのかしら私は。
……………いや、そんなわけなくない?
お城の前で私一人で紅茶を啜ってたらただの頭おかしい人じゃない。
ちょっと理解できない現実に現実逃避しかけて脳内で1人ツッコミをしてしまった。
まあ、正解を言うとねものすごく豪華な一室にいてそして何故か高級そうなティーカップが目の前に置かれてて、そして何故かその中にこれまた高級そうな紅茶が注がれていて、それをを頂いております。
そして、紅茶を頂いている私の前には絶世の美女がニコニコと微笑んで座っていらっしゃる………。
いやこれどういう状況?
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あの後、城の玄関前であの男………もといルティル王子様と揉めていたところにこの女性の方が颯爽と現れてはいきなりルティル王子様の胸ぐらを掴んだやいなや見た目からは想像もできないようなドスの効いた声で怒り始めたのだ。
その様子にルティル王子様は顔を真っ青にしながら震えていたが、私は状況が分からずにポケーっとその様子を眺めていることしか出来なかった。
しばらくして女性の方は言いたいことを言い終えてスッキリしたのかルティル王子様の胸ぐらから手を話して周りを見渡した。
すると、パチッと私と視線が合わさると女性の人は初めて私の存在に気づいたのかまたルティル王子様に詰め寄った。
そしてその結果私がどこから来て、この世界ではどういう存在として扱われるのかを知った途端にいきなりギューッと抱きしめられた。
とても、柔らかかったです。
………色々と。
それに大きかったな……女性のお胸によって窒息死するかと思った。
ちょっと羨ましいなんて思って女性が離れた瞬間に無意識に自分の胸と比べってしまってちょっと悲しくなってしまった。
…………別に嫉妬なんてしてないからね?!
それからあれよあれよという間にその女性の方に城の中に連れていかれて、応接室という名の豪華な一室に通されてそこで高級な紅茶を頂いている今に至るという訳です。
まあ、この説明を私は一体誰に向けて言っているのか分からないけどそういうわけなのです。
そしてルティル王子様はと言うと着ていた服が泥だらけになっていた為着替えてくると言って席を外しているから今この空間には私とこの謎な美女だけなのだ。
めっちゃ気まずい。
ほんとにこの美女は誰なのだろうか?
ずっとニコニコとこちらを見てくるからすっごく落ち着かない。
ソワソワとしながら、ルティル王子様が着替えて戻ってくるのを今か今かと待っていたら唐突に話しかけられた。
「ねぇ……レユちゃん……だったかしら?」
「?!はい!!」
急に話しかけられてびっくりした私は思いっきり声を裏返しながら返事をした。
「ふふふ。そんなに怯えなくて大丈夫よ?取って食いはしないから」
「………すみません」
穴があったら入りたい……。
微笑まれているだけなのにあの瞳に見つめられているとこの上なく恥ずかしくなって来るのはなぜなのだろうか。
私は顔を赤くしながらソファーに深く腰かけてますます縮こまってしまった。
「ルティルがごめんなさいね?」
「え?」
「きっとあなたにとてつもなく迷惑をかけたと思うのよ」
「いえ、そんなことは…………ない……とは言いきれませんね」
なんかよくわかんないけどルティルの名誉のために咄嗟に否定してあげようと思ったが、否定できる要素がひとつもなかった。
思い返してみても迷惑しかかけられてないもんなー。
だけどあいつに助けられたのは事実だからちょっとだけ……ほんとにほんのちょっとだけなら感謝してやらないこともないかな。
「迷惑は確かにかけられましたけど、あいつのお陰で助かったのも事実なので感謝はしています」
私がポツリとそう呟けば、目の前の女性は一瞬だけ驚いたように目を見開いた。
そしてその後に花が咲いたようにふわりと微笑んだのだった。
「そう……そんなふうに言ってくれてありがとうね」
「いえ」
「ふふ。あなたが聖女様で良かったわ。あなたならきっとルティルとも上手くやっていけそうね?」
「??それは一体どういう一一一一」
私が、意味を訪ねようとした時おもむろに応接室の扉が開いた。
そこには、先程までの浮浪者みたいな格好から一変してキラキラとしたザ・王子様というような服装に着替えてきたルティル王子様が立っていた。
「……なんだよ?」
私が無言でじ--っと見ていたからかルティルは怪訝そうに眉を顰めながら聞いてきた。
「いや別に?ただ、そんな格好しているとちゃんと王子様に見えるんだなと」
「ほんと失礼なやつだな。どんな格好をしていても王子にしか見えないだろ?見ろよこの輝かんばかりの金髪を! この髪の色は王家特有の物なんだぞ?」
「いや知らんし。さっきまでのあんたはどこからどう見ても浮浪者にしか見えん。言葉使いも汚いし。王子の要素がひとつも見当たらんないから」
「浮浪者?!?!いくらなんでもそれは酷くないか?」
「ふふふふ」
「「??」」
私とルティルが不毛な言い合いをしていると笑い声が聴こえたのでそちらへ顔を向けると美女が口元を手で隠して肩を震わせて笑っていた。
美人な人って笑い方も上品なんだなー。
なんてことを思っていたらルティルから衝撃の発言が飛び出した。
「はぁ………いつまで笑っているつもりですか?母上」
「ごめんなさいね?ルティルがとっても楽しそうに会話しているのを久々に見たものだから」
「なんですかそれは」
「…………………」
「だいたい母上はなぜここにいるのですか?」
「あら、ここは私の家でもあるのよ?自分の家にいてはいけないのかしら?」
「……………………………」
「そんなことは言ってないでしょう。ただいつもは父上と一緒に仕事をしている時間では?」
「あの人とずっと一緒にいるのは疲れるのよ」
「……………………………………」
「そうですか…………。まあ、分からなくはないですね。あの性格ですから」
「でしょ?」
「で?さっきからお前はなんなんだよずっとこっち見て。言いたいことがあるなら言えよ」
私がずっと無言で2人の顔を見比べているとついに痺れを切らしたのかルティルがそう聞いてきた。
「………母上?」
私は不敬なのも承知で目の前の女性を指さしながら問いかけた。
それを見たルティルはため息をつきながら頭を抱えた。
「まさか、母上……自己紹介をしていないんですか?」
「だって何も聞かれなかったから」
「………………はぁ」
女性の方は全く悪びれる様子もなく、舌を出しながら肩をすくめるだけだった。
「ルティルが………王子様………そして、ルティルの母親………つまりは王妃様?」
私が呟くように結論にたどり着くと、女性の方はまるで正解だとでも言うように笑みを深めると居住まいを正した。
「私は、ルティルの母親でありこの国の王妃を務めているユレア・ソルティスです。よろしくね?」
「……………………マジですか」
驚きすぎた私はそれしか出てこなかった。
じゃあ、私は目の前の女性が王妃様だと気が付かずにお茶を飲んでいたのか…………。
本日二度目の衝撃的な事実に私の中から正常な思考を奪っていくのであった。