白亜城 フェ ド ネージュ
眩いほどの光が収束したのを感じて私はゆっくりと目を開けた。
目を開けてまっさきに飛び込んできたのは、煌びやかな外装だった。
一言で言うならものすっごく大きなお城だ。
その圧倒的な大きさのお城を初めて間近で見た私はポカンと口を開けて傍から見たらとても間抜けな表情で固まっていたと思う。
お城の外観は全体的に白いのに汚れ1つ目立たずに太陽の光を浴びてキラキラと輝いて見える。
そう、お城の外観はとても美しくて綺麗だと思う……思うのだがその素敵なお城の外観をぶち壊すような摩訶不思議な周りの建造物に私の視線は釘付けだった。
あれは一体何?というか何故こんな素敵なお城の中心部。言うなればお城の顔のような場所にあんなのが置いてあるの?
え?もしかしてこの世界ではこれが普通なの?
門から入ってすぐ視界に入ってくる場所にこんな意味不明なの置くのがこの世界の流儀とかなの??
冷雪が戸惑うのも無理はない。
何故ならば、冷雪の目の前には見たことがないような生物がとてつもない存在感を放ちながら聳え立っているのだから。
その生物の周りにはまあるく石で囲われていてその中には綺麗な水が張られている。
所謂噴水…というものだろうか。
パッと見は馬だ。それも真っ白な。ただ普通の馬とは違って頭にはものすごく立派な角が生えている。
そして、その背中には今にも羽ばたいていきそうなほどのとても大きな翼が生えていた。
………これは俗におとぎ話とかによく出てくるユニコーンとかそういうものなのかな?
大きく開いたユニコーンの口からは勢いよく水が噴き出していた。
そしてその水を通した先に写っていたのはとても大きな玄関だ。
だけどそれもただの玄関では無い。
玄関の扉の真ん中にはこれまた謎の剥製が飾られていた。
頭からは四方八方に角が突き出しており、悪魔みたいな容貌だ。
残念ながら全く見た事のない生物なので何かに例えることが不可能に近く、言葉では言い表せなかった。
ただひとつ言えることは、あそこにはものすっごく近寄りたくない。
そして、更にはその玄関の左右には真っ白な狐?の銅像が鎮座しているという謎な空間が出来上がっていた。
お城だけ見ればとても見蕩れるほどに美しいのにひとたび玄関の方に目をやれば幻滅間違い無しのすごく残念なお城となっている。
一体誰の趣味なのよこれは。
あの謎の生物たちが、全て台無しにしているんだけど。
呆れた感じにため息をついてふと空を見上げた。
お城の頂上には旗が立っていた。ユラユラと風に揺られているそこには白い薔薇をモチーフにした紋章が描かれていた。
私がその旗に視線を奪われていると、近くにいた少年が歓喜の声を上げた。
「やった…やっと帰ってこれたっ……!!」
「……帰ってこれた?」
え?もしかしなくても……ここってこの男の家なのか?
私が訝しむようにそう問いかければ男は一瞬キョトンとした顔で首を傾げた。
「あれ?言ってなかったっけ?」
「何が?」
見つめ合うこと数十秒。
2人して微動だにせずにお互いの顔をガン見していると男の方がおもむろに口を開いて「ごめん、言い忘れてたわ」と言った。
だから何が?
「そういえば色々あってまだ自己紹介してなかったな。しかも俺、お前の名前すら聞いてなかった」
「言われてみれば……確かに、あんたの名前知らないわ」
「俺の事をそんなぞんざいに扱うやつはお前ぐらいだよな」
「………?」
最後のやつは声が小さすぎて聞き取れなかった。
なんて言ったんだろ?
「まぁ、いいや。俺の名は…………」
男が名乗ろうとした瞬間、玄関の方からものすごい数の足音がドタドタとかけてくる音がした。
2人して玄関の方を振り向いた瞬間、予想よりもはるかに多い人がなだれ込んできた。
そして、その集団の一番前にいた男が目の前の男の名を呼んだのだった。
「ルティル王子!!!一体今までどこにいらしたのですか!?」
「へ?…………おうじ…………おうじ?」
一体誰のことを言っているのだろうか?
この場には私と……この男しかいないけれど………。
不思議に思った私は男の方を見上げながら指を指して問いかけた。
「おうじ?」
「王子だけど?」
男は私の問いかけに肯定するかのように頷いてからそう言った。
………………。
「王子!?!?!?」
あまりの衝撃発言で思わず絶叫してしまった。
その声の大きさにそこにいた全員がビクリと肩を揺らしながら私に注目していたけどそんなことを気にしてる余裕は私にはなかった。
だって王子って言ったよ?!
王子様って言ったらこうキラキラっとなんかよくわかんない花が周りに飛んでいたりとか?
爽やかな笑顔で優雅な佇まいで?
落ち着いた感じで物腰が柔らかそうな話し方をしているはずなのよ!
なのにこの男は私の王子様像が何一つ当てはまっていないのよ!?
「なんかお前……失礼なこと考えてないか?」
………やっぱりこんな低俗な言葉遣いをしているやつが王子様なわけ一一一
「絶対にない!!」
「え?何が?」
突然叫んだ私の言葉の意味が分からなかったのかルティル王子様は首を傾げながら私を見てくるのだった。