成功率わずか1%、魔法のコントロール不可能に付きどこに飛ぶかは運次第
「と、言うわけなんだ……」
「どういうわけなんだよ!!」
咄嗟に食い気味でツッコんでしまったけどこれは仕方がないと思うの。
今、私たちが置かれている状況の説明を求めたのに誰が昔話をしろと言った。
意味不明な昔話のせいで全くと言っていいほど何も分からなかった。
そんな話を聞かされた私の感想はだから何?としか思えない訳で。
魔法を使って逃げようとする発想はいいと思う。
だけど、その逃げる術であるはずの魔法によって死にかけるのは謎すぎる。
この男がさっき使った魔法は、転移魔法と言って術者が行ったことのある場所に転移することができるというものだった。
本来なら、逃げるのに最適な魔法と言えるはずの代物である。
それが何故か、失敗して死にかけるという謎な現象に見舞われたのである。
ほんっっとうにもうダメかと思った。
まだ心臓がドクドクと激しく脈打っていた。
安全地帯へと逃げ込んで速攻でこの男に詰め寄って襟首を思いっきり締め上げたよね。
あまりにも腹たったのでつい……。
そこで、男はこれには深い訳があると言い出して神妙な顔をして話し出した内容が巨大な木に向かって魔法を放ったはずなのに何故か厩舎を大破しまったということだった。
いや、意味がわからん。
答えにもなってないし。
詰まるところの話がこの男はとんでもないノーコンなのだろう。
それなのに自信満々に魔法を使うとかありえないんだけど!
下手したらこの男のせいで異世界に来て速攻で死にかける恐れがあるんだけど!
私は頭を抱えながら先程の出来事を思い返した。
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あの後、私たちは間一髪でビックベアの攻撃を避けることに成功した。
避けた後にどうやって逃げようか考えてる時に不意にこの男が私の手を握ってきた。
「…………この手は何?」
「次は上手くいく気がするんだ」
「……何が…とは聞かなくても何となく言いたいことはわかるわ。だけど、あえて全力でそれだけは拒否させてもらう」
そう言って手を振りほどこうとしたけど振りほどけなかった。
この男見た目によらずめっちゃ力強いんだけど!!
私が何とか手を解こうと悪戦苦闘していると、男はそんなのはお構い無しに魔力を練り上げて集中し始めた。
ちょちょちょ! 待て待て待て!
この男本気でやる気なの?!
今しがた盛大に失敗したばかりじゃないの!
それなのに、臆することなくもう一度発動させようとするとはこの男鋼メンタルなのか?
私が、呆れた感じで呆然と男を見つめていると準備が整ったらしい。
男は私の方を見て清々しい笑顔で微笑むと詠唱した。
「あ」
「空間転移!」
「ちょっとまってぇぇぇぇ!!」
私の制止も虚しく、私の視界は真っ白な空間に支配されて気がついた時には違う場所にいた。
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「で?ここは一体どこ?」
私は辺りを見回しながら男に尋ねた。
見回した限り洞窟……ではなさそうね。
なんたって私たちが今いる場所は周りが壁に囲まれていて、上を見ると結構高い位置に穴が空いていた。
洞窟と言うよりは落とし穴に近い感じかな。
そして、落とし穴よりかはなにかの巣穴って感じがするような気がするのよね。
そして、私はめちゃくちゃ嫌な感じがする。
「……うーん……なんか、ここ見覚えがある気が……」
「……見覚えも何もここには来たことがあるから転移できたんじゃないの?」
「それはそうなんだけど……こう……なんか、嫌な感じの見覚えというかなんというか……」
男はうんうん唸りながらあーでもないこーでもないとブツブツ呟いている。
「てか、ここ果物?の食べ残しがすごい散らばってるね」
私が、落ちている果物の欠片などを見ながらつぶやくと男が不意に「くだもの?」とつぶやいた。
そして、腕を組みながら数秒止まるとふいに「あ、思い出した!」と手を叩きながら言った。
「ここは俺が最初に来て落ちたビックベアの巣穴だ!」
バッチーーーーーン!!!!!
「いってぇぇぇぇぇ!!!」
私は思わず反射的に男の頭をハリセンで思いっきりぶっ叩いた。
男は突然来た衝撃に頭を抑えてしゃがみこみながら叫んだ。
「前も思ったんだけどさ、そのハリセンどっから取りだしたんだよ!!」
「…………おいポンコツ」
「俺のツッコミは無視か……てかポンコツ?って俺のことか?」
「あんた以外誰がいんのよこのポンコツ!」
「お前なぁ!ポンコツポンコツって失礼すぎじゃないか?!」
「ポンコツにポンコツって言って何が悪いのよ!一体何回失敗すれば気が済むのよ!あんたのせいで2回も死にかけてるんですけど?!」
「でも死にかけてるだけで実際には怪我ひとつしてないんだからセーフだろ!!!」
「セーフってなんだ!セーフって!!人の命にセーフも何も無くない?!?!」
「あのなぁ……何そんな甘えたこと抜かしてんだよ。この世は弱肉強食!食うか食われるかの世界なんだ!なのに死ぬのが怖くてこの世界で生き抜こうなんざ詰めが甘い!!しかもお前は聖女だろ?!聖女なんだから死の一つや二つごときでグダグダ言うなよな」
少年は私にそう言い放つと、その場にドカッと腰を下ろした。
なんつー……開き直り方なんだこいつは………。
普通は謝罪のひとつぐらいあっても良くない?
私はお前のせいで異世界来てそうそうに酷い目にあったというのに。
私の怒りのボルテージは最高潮に達した。
私はユラユラと少年の方に近づいて行った。
「………?」
少年の目の前で立ち止まると私は思いっきり手を振りかぶった。
そして、今までの比じゃないぐらいに渾身の怒りを込めた一撃を放った。
そう、その手にはここに来てからのお馴染みのハリセンを携えて……。
ドッカーーーーーーーーーン!!!!!!!!!
「?!?!」
ハリセンで少年の頭を思いっきり引っぱたたいた瞬間少年の体は後ろの方に吹き飛んで頭だけ土壁に埋まった状態になっていた。
私はと言うと、予想だにしていなかった衝撃と驚きで声にならない悲鳴を上げていた。
あれは……無事なのか?
まさか死んでたりしないよね?
恐る恐る土壁に顔だけ埋もれている少年に近づいていくと急に土壁がガラガラと崩れだした。
土壁が崩れたからか、少年はようやくそこから起き上がれたようだ。
「………………」
「………………」
私たちは数分見つめ合った。
思いっきり視線が交差した。
そして、少年の目は私に何かを訴えかけているようだ。
だけど私はそれを全力無視したい。
いや、あんな状態になってるのは思いっきり私に非があるんだけど……まさか、こんなことになるとは誰もおもわないよねー。
「おい………何か言うことは無いのか?」
「…………」
「おい……無視か?」
「…………………………」
私は気まずさに耐えきれずに少年からすーっと目を逸らしてしまった。
「無視するなよ!?」
私が無言で目を逸らしていると耐えきれなくなったのか少年は大声で叫び始めた。
「この血まみれの顔を見て何も感じないのかお前は!? 本気で死にかけたんだぞ!」
「…………これでお互い様だね」
照れ笑いを浮かべながらそう言うと、少年は一瞬ポカンとした後に不機嫌丸出しな声で「は?」と言ってきた。
「いや、だってさ?私だってあんたの下手な魔法に巻き込まれて死にかけたし?お互い様でしょ!」
「ふざけんな!バカかお前は!?お前は怪我ひとつしてないけど俺は頭から思いっきり流血してんだよ!!見ろ、この未だに流れ出てくる血を!ぜんっぜんとまないんだけど?!」
「そんなに怒る必要なくない?!私だってそんなふうになるなんて思わなかったんだから!!」
「怪力女!!!!」
「何よこのポンコツ男!!!!」
ぐぬぬぬぬぬ…………。
2人で意味不明な押し問答を続けていると、遠くの方でビックベアの雄叫びが聞こえてきた。
「「!?」」
それを聞いて2人は言い争いを止めると、スっとその場にしゃがみこんだ。
「こんなくだらないことしてる場合じゃないな」
「同感」
「一刻も早くここから脱出する方法を考えないと」
「確かにね。ここがビックベアの巣なら奴らが帰ってくるのも時間の問題だし………」
私が真剣にこの状況から脱出するすべを考えていると、目の前から視線を感じたので前を向くと何やら不穏な笑みを浮かべてこっちを見ているではないか。
その笑みを見ているとなんだかとてつもなく嫌な予感がしてくる。
「俺さ、思うんだけど」
「うん」
何やら真剣な表情で話し始めた。
とてつもなく聞きたくないけど聞かなきゃダメかな?
「この世にはな仏の顔も三度までという言葉がある。失敗しても3度目までなら問題がないと言う大変有難い神の教えだ」
「……………いや、それ絶対意味違うでしょ。それって確かどんなに温和な人であっても、無法なことをたびたびされるとしまいには怒ってしまうっていう意味じゃなかったっけ?」
いや、急に何言ってのこいつは。
意味不明すぎで冷静にツッコんじゃったんだけど。
いや、ほんとに何言ってんの?
そんなアホなこと言ってないで早急にここから出る方法考えろや。
「……………で、だ」
あ、こいつ今私のツッコミをスルーして聞かなかったことにするつもりだな。
「そしてもうひとつ、3度目の正直という言葉もある!」
…………また変なこと言い出したな。
その意味も絶対に何かが違うんでしょ。
「その意味は?」
私が渋々言葉の続きを促すためにそう問いかけると少年は「はあ、こんな意味も知らないのかよ?」としょうがないやつだなー感を出てきてそう言ってきた。
マジ、こいつ本気で殴っていいか?
「よく聞けよ?この意味はだな、3度失敗したら次は成功するという大変有難いを教えなんだ」
「……………それも絶対意味違うと思う。一度や二度は当てにならないが、三度目は確実であるという意味………って思ったけどこれの場合は微妙に合ってるのか?」
私の小さなツッコミもなんのその、少年は気にした素振りもなく嬉々として語り出した。
ものすごく嫌な感じです。
「そして俺は今、三回失敗している。ということは次こそは成功するということに違いないと思うんだ!」
「………でもさっき、99%失敗するって言ってなかった?」
喜んでるところ水差すようで申し訳ないんだけど、絶対に成功するとは思えないんだよね。
「……それはそれ、これはこれだ」
「いや、それはそれで置いとけるような問題じゃないからね?私たちの生死に関わってるんだからね?」
「大丈夫大丈夫!俺を信じろって」
「いや、あんだけ失敗しといてなんでそんなに自信満々なの?!あんたを信じれる要素どこにもないんだけど!?」
「問答無用!!3度目の正直!空間転移!!」
「いやぁぁぁぁぁ!!!!」
少年はほんとに問答無用で私の手をガシッと掴むと魔法を唱えた。
そして、私の絶叫と共に私の視界は真っ白に塗りつぶされたのであった。