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ポンコツ王子の追想

すぅーーはぁーーーー。


俺は集中力を高めるためにゆっくりと深呼吸を繰り返した。

今から放つ魔術は集中力が大事だ。

そのためにはまず心を落ち着ける必要がある。


五分くらい深呼吸を繰り返して、ゆっくりと閉じていた瞼を開いた。

そして、静かに前を見据える。

標的ターゲットは目の前に見える巨大な木。


炎舞の章(えんまのしょう)紅蓮の矢(フレイヤ)!!」


そこに目掛けて俺は思いっきり魔術を放った。


発動した魔術は火の鳥を模した巨大な矢となって猛スピードで目の前の巨大な木に飛んで行った。


「おぉ!! 今度こそ成功か!?」


俺は淡い期待に胸を躍らせて自分で放った魔術の行方を凝視していた。


だが、淡い期待は脆くも崩れ去ってしまった。

巨大な木に向かって行っていたと思っていた魔術が何故か急に方向転換をし始めたのだ。


「へ?」


(曲がった?! なんでだ?!俺は普通に真っ直ぐ飛んでくように魔術を放っただけなのに!!なのに何故曲がる!!何故いつもいつも俺の意思に反して勝手に動くんだよ俺の魔術………)


今度こそ上手くいくかと思ったのにまたしてもダメだった。

練習を重ねても一向に上達をしない自分の魔術の才能の無さにさすがに凹んでしまった。


俺は溜息をつきながら肩を落とすと力なく火の矢が飛んで行った方向を見遣った。


飛んで言った方向を見て俺は目を見開いて固まった。なぜならその先には………。


「あ」


気づいた時には手遅れで、飛んで行った火の矢は思いっきり見事に厩舎に激突したのだった。


ドッカーーーン!!!!!!!!!


盛大な音を響かせながら魔術をもろにくらった厩舎は悲しいことに、木っ端微塵に吹き飛んでしまっていた。


「……………………」


俺はそれを見たまましばらく放心状態で身動きが取れなかったが時間が経つにつれて自分がやらかしてしまった重大さに顔から血の気が引いていくのがわかった。


まずい!!!!

どうしよう!!!!!!!

またやっちゃった!!!!!!!


この間城の半分を吹き飛ばしてしまった時に母様から次は無いと忠告を受けていたのに!

これが母様の耳に入ったら…………今度こそ本当に終わったかもしれん。


母様の逆鱗に触れて俺……今度こそ死ぬかもしれない。


俺は頭を抱えてパニックになりながらあーでもないこーでもないとその場で右往左往しながら必死にこの状況の打開策を考えた。


物の見事に原型を吹っ飛ばした見るも無惨な状態の厩舎だった跡地を見てあ、これはもう手遅れだと悟った俺は苦肉の策を取った。


そう………苦肉の策とはつまりほとぼりが冷めるまでどこかに身を隠そう作戦だ!


けして、母様が怖いから逃げる訳じゃないからな?


誰にとも無く言い訳をしながら一人うんうんと頷いて

納得をすると


「レスター!」


俺は首から下げていた馬笛を吹きながら愛馬の名前を呼んだ。


すると笛を吹いた直後に厩舎の瓦礫が勢いよく吹っ飛ぶとその中から聞き馴染みのあるヒヒーーンという気高い声が聞こえてきた。


まさかと思いその声にバッと勢いよく顔を上げて声が聞こえてきた方を凝視しているとその中から俺の愛馬がひょっこり顔を出していた。


さすがは俺の愛馬だ。

爆発に巻き込まれようともなんとも愛くるしい姿をしている。

真っ白な純白の輝く毛並みに、宝石の如くに煌めく翡翠色の瞳に気品を漂わせる美しい駆ける姿。

そしてなんと言っても一番のチャームポイントである片耳を飾りつける水色のフリルリボン。


レスターは厩舎の瓦礫を掻き分けて一目散に主人の元に駆けつけて来たのだった。


「レスター!!!」

「ヒヒーン!!!!」


ルティルは両手を広げてレスターに駆け寄り、レスターは前足を思いっきり上げてルティル目掛けて思いっきり駆け寄り、2人は熱い抱擁を交わそうとした……がルティルはレスターの勢いを受け止めきれずに吹き飛んだ。


「ぐぇ!!」


そこにすかさずレスターは駆けよるとルティルの上に馬乗りになって勢いよく顔を舐め始めた。


「ちょっ、レスターやめっ……くすぐったいって!」


どうやらレスターは爆発の衝撃で興奮しているみたいだ。

レスターは興奮したり、驚いたりするとところ構わずに近くにいる人に突撃すると顔を舐める癖があるのだ。

(どういう心理かはよく分からないけど……)


とにかくこの興奮状態を沈める必要がある。


俺は顔をびしょびしょに舐められながらレスターの手入れが行き届いた毛並みを優しく撫でて宥めた。


「ごめんなレスター。びっくりしたよな。もう大丈夫だから落ち着け」


そう声をかけながら撫で続けること10分。

ようやく落ち着いたのか、俺の顔を舐めるのをやめてやっと俺の上から退いてくれた。


10分も舐め続けられた俺の顔はレスターのヨダレでベトベトだが、レスターが無事だったので良しとすることにした。


なんたって俺の可愛い愛馬だからな。

レスターの為ならば喜んでこの身を捧げようではないか。


「確か、爆発音はこっちから聞こえたはずです!」

「ん?」


俺がレスターと戯れていると複数の足音が近づいてくるのが聞こえた。


「急ぎなさい!また、もたもたしていたら逃げられる恐れがあるわ!」

「「「はい!!!!」」」

「今の声は母様か? 何をそんなにあわて……て……はっ!」


ルティルは母様の切羽詰ったような声が聞こえて不思議そうに首を傾げようとした時思い出したように後ろを振り返った。


後ろにあるのは厩舎だった成れの果て。


しまった!

レスターと遊ぶのに夢中になって逃げるの忘れてた!



…………母上はきっとさっきの爆発音を聞いて急いで駆けつけて来たのだろう。


我が母ながらなんて行動力が高いんだ……。


この間のあれからまだそんなに日は経ってないから今素直に謝罪をしても許される確率は極めて低いと見ていい。


ならば、ここはひとつ当初の予定通り逃げるが勝ち!


そう結論づけてからのルティルの行動は早かった。


ルティルは急いでレスタの背に飛び乗るとレスターの腹を勢いよく蹴った。

それに合わせてレスターは母様とは反対方向に走り出した。


後方ではようやく追いついた母様が走り去るルティルに向かって「こら!待ちなさいルティル!!あんたまたやったんでしょ!!いい加減にしなさいよ!?どんだけ城のものを破壊すれば気が済むのよ!!もどってきなさーーーい!!!!」


と、怒鳴る声だけが響いたのだった。


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