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4 試練の儀

 海と砂漠に挟まれたウィンダリアの気温がやや下がる時期に差し掛かる頃、クワンは居住地として与えられている小屋の中で装備を確認していた。


 主に数日分の食料と火を起こすための道具。


 そして……とフドーから借り受けたナイフの切れ味を確かめるように光にかざした。


 専用に作った鞘に収めて腰に吊るす。


 これから試練の儀に向かう。そのための装備は思ったより大きかったが、ハクの背に積んで行くので苦労はない。


 一人で行くとは言っていたが、ハクは特別だ。


 一心同体、寝食を共にした兄弟。試練も一緒に行くと昔から決めていた。もっともハクに試練の必要性はないのだが。


 それにハクは騎獣扱い。村のしきたり的にも一人で達成したという事実に変わりはない。


 クワンがハクを連れて砂漠へと通じる正門へ向かうと、村の仲間達が待っていてくれた。


 幼少の頃の育て役だったディメディア。ナイフを渡してくれたフドー。


「あんまり遠くまで行くんじゃないよ。近場でも結構得るものはあるんだからね」


「言うまでもないと思うが、砂漠の奥には魔物の巣窟……ダーマの砦があるからな。そこには近づくな。魔物に出会ったらすぐに逃げるんだぞ。何もかも捨ててハクに乗って逃げるんだ」


 他にもよく見知った面々がクワンの儀式の見送りのために集まってくれていた。


 そして幼馴染みにして鳥の亜人ウーラは、手に持ったものをクワンに向けて差し出す。


「アンタは運がいいし、あたしは何も心配してないよ」


 見るとウーラの手には白い羽根があった。


 腕から伸びている羽根と同じ形なので、ウーラ自身の羽根の一枚らしい。


 普段飛び回っている時に落とすような羽毛ではない。大きめの、完全な形を保った立派な羽根だ。


 手にとって日にかざすと薄く透けて美しい。魔力を帯びているというのは本当のようで薄く光っているようにも見える。


 もちろんウーラが暗い所で光ることはないので、本当に光っているわけでは無いのだが。


 お守りとして持っていけと言うので礼を言って受け取った。


 そしてハクにも「クワンのことを頼むよ」と皆首を撫でる。


 一通り挨拶を交わすと、皆に向かって「大物を獲ってくるぜ!」と叫んだ。


 ディメディアを始め、皆無理はするなと言ってくれるが、クワンはそれを振り払うように声を上げる。


 心配と期待の声を背に、クワンはハクと共に砂の海が広がる地へと踏み出して行った。





 数刻ほど砂の地面を踏みしめた所で、クワンはどっかと腰を下ろした。


 後ろを振り返るともうウィンダリアの村は見えない。


 砂塵はないが、地面の凹凸が激しく四方は全て砂で囲われていた。


 砂の地面は思ったよりも足取りが重く、歩くのに土よりも数倍の労力が必要だった。


 村から見える所で休んでいては後で笑われる。


 そう思って少し無理をしすぎたようだ。


 やはり皆の言うように、餌を仕掛けて砂ミミズを獲ってしまおうかという誘惑に駆られる。


 砂ミミズとは砂漠に広く生息する生き物で、大きくても人間の大人ほど。


 突然襲われて丸呑みされる心配はないし、何より生きた人間は襲わない。


 もっとも狩ろうとすれば自身を守るために襲いかかっては来るので、言うほど簡単な獲物でもない。


 しかし多くの者が砂ミミズを狩ってきて、失敗したという話も聞かない――失敗して獲物を変更して語らないだけかもしれないが――ので、いつしか手堅い相手の定番となっていた。


 試練の合格水準としては十分なのだが、それはクワンの望むものではない。


 戻った時に、皆をあっと言わせるような物を持って帰りたいものだ。


 そうするためにはどうすればいいか、と考え込むクワンの顔をハクが覗き込んだ。


 ハクの表情を見て、クワンは思い切ったように口を開く。


「ダーマの砦に行ってみようと思うんだ」


 クェーッとハクは頓狂な鳥のように奇声を上げる。


「しーっ、声が大きい」


 とハクの口に手を当て、と言っても誰もいないか、と咳払いの仕草をした。


「無茶なのは分かってるよ。でもそのくらいでないと大物を獲れないだろ?」


 なおも不安そうな声を出すハクに「大丈夫」と首を撫でる。


「オレだって正面から殴り込んだりしないさ。こっそり忍び込んでお宝を頂くんだ。そういうの、オレ得意そうだろ?」


 それでもハクは細い声で鳴いたが、クワンは構わず軽い笑い声を上げた。


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