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1 クワンとハク

 ウィンダリアと呼ばれる村がある。


 大海と砂漠、岩山に囲われた辺境の地だが、砂漠に住む魔物を迂回するために訪れる商隊で外界との貿易もあり、土地柄の割には大陸との交流もそれなりにあった。


 村の中央には大木があり土地の生命力を感じさせる。


 人と亜人、動物がそれぞれの役割を担いながらこの大地に息づいていた。


 そんな村の中央付近に位置する古びた木で組み上げられた家屋の中に、元気のいい少年の声が響き渡る。


「やっぱコカ鳥のモモ肉は最高だなー。自分で稼いだ金で食う飯はやっぱうまいぜ」


 食器を手に声を上げる少年を、テーブルの向かいにいた女性は冷ややかに見下ろした。


「クワン。何度言ったら分かるの? 食べる前には『感謝の祈り』でしょ?」


 女性は面倒を見ているらしい傍らの子らに「このお兄ちゃんの真似しちゃダメよ」と手を合わせるよう促した。


 素直に従う子供達を横目にクワンと呼ばれた少年は吐き捨てる。


「けっ。オレが汗水たらして、自分で稼いだ金で買ったんだ。この肉はオレのもんなんだよ。誰にも文句言われる筋合いはないね」


「何度も言ってるでしょ。食べ物というのは大地から与えられる恵み。主の恵みに感謝して……」


「あーうっさいなぁ。もうオレはお前の世話になってる子供じゃないんだ。自立してんだよオレは!」


 言葉を遮られた女性は一瞬わなわなと唇を震わせたが、やれやれと頭を振った。


 手を合わせて目を閉じる子供達をやや小馬鹿にしたように見ていると、女性の目が鋭くなる。


「アンタは今日、大婆の説法を聞きな」


「やなこった。オレは誰の命令も聞かね」


 女性の顔はキッと険しさを増す。


「大婆に言って、町の人にアンタに仕事を与えないようにするよ!」


 その剣幕に生意気な少年もさすがにたじろいだ。


「わ、分かったよ。後で行っとく」


 この村に住む人間にとって大婆の存在は絶対だ。


 個体では大した力を持たない人間が生きていくには結束するしかない。


 その長となるのが長老。


 現在は老齢の女性がその位置にいて、クワン達は「大婆」と呼んでいる。


 大婆は絶対的な権力を持っているのではない。誰からも好かれているから大婆なのだ。


 幼い頃から可愛がってくれた大婆を出されては、生意気盛りの少年も大人しくなるしかない。


 クワンはやや不満気な顔を残しつつも食事を終えると、料亭を後にした。





「ハク。待たせたな」


 ハクと呼ばれた奇獣は水の入った桶から顔を上げる。


 この二本足で直立する生き物は、クワンがこの村に流れ着いた時に乗せられていたものだ。


 砂漠を横断する商隊が魔物に襲われるなどして、その生き残りが逃げてきたのだろうと言われたが、赤子が括りつけられたこの生き物を誰も見たことがなかった。


 他国からの流れ者で見識のある者が、「多分これは『ハク』だろう」と言ったことからずっとそう呼ばれている。


 ハクはクワンのそばを離れず兄弟のように育ったが、他に同種の生き物もいないので「ハク」がそのまま名前になった。


 ハクはゴツンとクワンの顔に自身の頭をぶつけると、クワンも顔を綻ばせてその頭を撫でる。


 クワンが歩き出すとハクはその後に続いた。


 騎獣には違いないのか、村に来た時から手綱のような物はつけられていて、クワンも幼い頃はその背に乗って駆けたものだが、大きくなるにつれその行動が子供っぽく感じられるようになり、今は乗るようなことはしていない。


 ハクの体は当時からそれほど大きくなっていないものの、別に乗せられないことはないようで、どちらかと言うとハクは乗せたがっているようにも思えた。


 野原や森ならそれもいいが、それほど広くもない村の中を歩くのには必要ない。


 クワンは鼻歌を歌いながら石の敷かれた道を歩き、脇に生えた花を引き千切ってその匂いを嗅ぐ。


 癖のようなものだ。このウィンダリアは緑が多い。花も美しく香りも良い。クワンはこの花の香りが好きだった。


 クワンはディメディア――先ほど大婆のもとへ行くよう言いつけた女性――の言葉に従い、歴代の長老の住む老木へと向かった。

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