復讐の微笑み
「バレンシア・バレンタインデー、君を宮廷職から追放する」
春季宮廷会議にてバレンシアの解雇が決まった。
そして、その処分は一番重たい永久追放だった。
「何故ですか!? 私はただ忠実に職務を行っていただけですっ」
彼が必死な様を見て、私は笑いが止まらなかった。
まるで婚約破棄されたときの私みたいだ。
「このような永久追放を受けるような覚えはありませんっ」
「それは我らも心得ておる」
議長は淡々と言った。
「しかしな、バレンタインデー君。残念ながら星詠みの結果、君は宮廷職に相応しくないということがわかった」
「……な?」
絶句するバレンシア。
この国で星詠みは絶対だ。
1人の人間の反論で覆せるようなものではない。
彼の沈黙はそれがわかっているからだろう。
「人材の星詠みなどとても稀ではあるがね」
「では、何故今回私について星詠みを?」
「それはある占星術師が君を見たいと言ったからだよ」
と、議長が私を見た。
つられてバレンシアも私へ視線をやる。
しかし、私は占星術師専用のフードを被り顔を覆っている。
顔が見えなければ彼が私に気がつくことはない。
「何故、私を見たのです?」
納得できない、とバレンシアの顔に書かれているようだった。
見るに耐えない、屈辱を噛み締めたような表情。
私は堪らなかった。
彼のその顔が見たかった。
「これ、バレンタインデー君。占星術師への私語は禁じておる」
「わかっています! ですが、聞かねば納得できません。これは私の人生を大きく左右する判断です!」
バレンシアは叫んだ。
「静粛にしなさいっ」
議長が咎めるとバレンシアはくっと唇を噛んだ。
「議長、彼に少しだけよろしいですか?」
そんな彼に止めを刺すために私は議長に発言を申し出た。
「よろしいですぞ」
すっと深呼吸をしてから、私は一息で彼に告げた。
「バレンシア・バレンタインデーさん。あなたを宮廷職から解くのは、あなたが過去にとある女性を捨て権力を選んだからです。そのような性根の人間は宮廷に相応しくありません」
そう告げて私はフードを取った。
「なっ!? 君は……!」
私の顔を見てバレンシアの表情が凍りつく。
ふふふ、そうそう。
くくくくく、それそれ。
堪らない。ざまあない。
快感だった。
絶頂ですらあった。
この瞬間、私はあの婚約破棄の復讐を果たしたのだ。
「ふ、ふざけるなっ! そんなもの占星術などではなく、君のただの恨みではないかっ!」
ついにバレンシアは怒鳴った。
行儀よくしていた姿勢を解くと、私へ向かって走り出す。
「バレンタインデー、よしなさいっ!」
議長の声に合わせて憲兵たちが飛び出し、あっという間にバレンシアを拘束した。
「違いますっ。違うんです、議長! あれはーー、あの女はっ!」
バレンシアは懸命に訴えようとするが憲兵に口を塞がれてモゴモゴと言葉を発することが叶わない。
「神聖な議会の場で無礼な男だ。連れていけ」
「はっ!」
そして、バレンシアは憲兵に拘束されたまま議会から姿を消した。
私は満足だった。
婚約破棄されたあの日から、今日のこの瞬間のためだけに生きていたのだから。
復讐なんて気持ちの良いものではないと思っていたけれど、どうやら勘違いだったみたい。
すっごく気持ちが良かった。
すっきりした。
最高の気分だ。
これであの日背負った悲しみも悔しさも消えてなくなった。
「さよなら、バレンシア」
これで全てお仕舞い。
もうあなたと会うことはないでしょう。
ありがとう。達者でね。
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