失意の底で。
婚約破棄されてからの私は仕事の鬼になっていた。
失恋は時間が解決してくれるというけれど、私にはそうは思えなかった。
むしろ、日に日に彼に捨てられた悲しみや怒り、悔しさが増幅していった気がする。
だから私はそれらの負の感情を全て仕事にぶつけた。
私の仕事は占星術師。
下級貴族にしては格のある職である。
星を詠む占星術師は身分だけではどうしようもできない側面があった。
占星術にはそもそもの才能とかなりの努力が必要なのだ。
故に下級貴族の私でも胸を張って働ける。
これだけが失恋後の私の心の救いだった。
「クララ、そんなに働いちゃだめだよ。倒れてしまう」
何度も同僚に心配されたが、私は構わなかった。
仕事から離れて私生活を送る方が倒れてしまいそうだったから。
時間が癒してくれない失恋と向き合うだけの強さがなかったのだ。
そうやって仕事に打ち込むばかりの日々を経て、私は顧問占星術師となった。
王室御用達の占星術である。
占星術には身分は関係ない。
こうすれば良かったんだ、と気がついた。
初めから私が王室の占星術師であればバレンシアも私との婚約を破棄しなかったかもしれない。
なんて、女々しく思った。
それはバレンシアに捨てられたから3度目の春を迎える頃だった。
そして、宮廷に桜が咲き始めたとき、私は見てしまった。
バレンシアが若い女と小さな子供と手を繋いで仲良く歩いているところを。
それはそれは微笑ましい光景だった。
一目見て彼らは家族なのだとわかった。
奥さんはとても美しい女性だった。
彼女と結婚するために私を捨てたのではないかと妬むくらいの美人だった。
羨ましかった。
彼の隣にいられる美女が。
そして、妬ましくもあった。
彼と笑い合えるあの女が。
おめでとう、などという言葉は頭に浮かばない。
ただただ、どす黒い感情が私の心から顔を覗かせた。
【壊してやりたい】
【あなたたちの幸せを壊してやりたい】
私の心が本音を呟いたとき、私は彼へ復讐することを決めたのだ。