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存在抹消症候群



いずれくる名前も姿形もDNAまでいじり、まったくい別の人間に生まれ変わることができる未来。


そうしてうまれかわるものも、たいていはいい生まれの人間であるのだが、だからこそひとつ奇妙なところがある。まず第一に、なぜ、いい生まれの人間がそれまでの暮らしを捨ててまでうまれかわろうとするのか。


これについて、当人に尋ねたことがある。

『なぜ、お前はそれまでの、名前のある地位を捨ててただの人間に、そして過去を消してまで生まれ変わろうとおもったのか』

『過去が重荷になることがある、あるいは競争の無価値さに気が付いてしまうことが』

この回答者だけじゃない、多くの身の回りの人間に聞き取りをおこなったが、素性を隠して自分をたよりに寄ってくる人間はいつもこうだ。それまでの自分を殺して、生まれ変わろうとする。


第二に、姿形をかえた自分を自分と思えるのか?

『ゲームのようなものさ、二つ目の人生は、一つ目の人生のおまけ、まるでゴーグルをしてカオスネット(神経や感覚に相互作用する新世代のコンピューターネットワークであり電脳仮想空間)にアクセスするときのように、自由で、無責任な人生が始まったんだ』


事実、簡単に姿かたちを変えることができる未来において、存在を抹消してしまうのは簡単だ。行方不明者の中には自ら行方不明になった存在も、少なくとも俺の存在するこの未来にはいる。彼らの存在は死んだのだ。消失したのだ。蒸発したのだ。


 ではなぜ、彼らは生きているのか、なぜまだ、生を渇望するのか?その答えはそれぞれの中にあるだろうが、本当に人がそれまでの人生と違う人生を歩むことになったとき、そこにたりないのは死だけだ。そういう人間が自殺願望を持つのは不思議ではなかったのかもしれない。そういう人間が、自分の身近にはいる。彼らがよく自分たちから口にするセリフはこうだ。

 『生まれ変わったのに、過去の記憶があるのが気味が悪い』

 そういう人間にひっそりとした地下での食うには困らない仕事の案内をするのが、地下労働の派遣ブローカーである俺の仕事だ。


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