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回想1

 僕が医学の道を志したのは、いつ頃からだったろう。


 両親が病気で死んだのを見たときからか。

 魔法医師の人が絶大な尊敬を集めているのを目の当たりにした時からか。

 とにかく、物心ついた時には医学の道へ進みたいと思った。

 しかし周りの大人たちは猛反対した。


 曰く、魔法医師になるには莫大なお金がかかる。

 曰く、魔法医師大学は定員のほとんどが貴族や、魔法医師の家系で占められている。

 平民の僕が行っても周りとなじめずに辛いだけだと。


 成績を上げればもっと楽にお金を稼げる道はいくらでもある、と言われた。

 でも医学の道を諦めきれず、特待生の制度が魔法医師大学にもあることを知り必死に勉強した。

 幸い勉強は嫌いではなかったし、魔法医師になって、自分の親と同じような病気にかかった人を治療して「ありがとうございます」と感謝されるシーンを想像しただけで頑張れた。

 今考えると、浅はかで愚かな考えだけど。


 医術士になる道も考えたけど、どうせなるならすごいほうの道に進みたいと思って魔法医師になろうとした。


 そして猛勉強して、少しでも早く魔法医師になりたかったから飛び級に飛び級を重ねて、十代前半で魔法医師大学へ合格した。


 勉強のし過ぎで、ペンを持つ人差し指が腫れて変形したくらいだ。


 住んでいたハイデルベルクを出て、帝都シュトゥットガルトの魔法医師大学の寮に入寮する。そこの寮母さんはかなり高齢で心臓に持病を抱えていたけれど、炊事・洗濯・寮生の健康管理などいろいろと気遣ってくれた優しい人だった。

 でも魔法医師大学は合格しても、基礎課程二年、本科四年、インターン二年の計八年も勉強しないといけない恐るべきところだ。

 他の特待生組は受験勉強に疲れ果てて燃え尽き症候群になったり、奨学金もらって遊んだりする人も多い中で僕はまた勉強した。

 やっとやりたい勉強ができた。


 自分でやりたいと思ったことができるのはどんなことでも楽しい。

 夢に向かっているという実感が持てているのは嬉しい。

 逆に遊びでも、遊べと言われて遊ぶのは気分が悪かった。特に街へ出かけると、魔法医師大学生というだけですり寄ってくる人間には吐き気がした。僕の年齢がかなり低かったから馬鹿にされることもあった。

 そんな人間から逃げる理由もあって、僕は魔法医師大学に入ってからもひたすらに勉強した。

 周りが遊んだり、社交に精を出したりするときも勉強していたせいか成績だけは上がり、何の因果か主席にまでなった。

 でも付き合いが悪いうえに、遊んでいる年上の同級生たちとも話が合わず、気が付けば僕はぼっちだった。


 主席になってしばらくした日。教室でいつも通りぼっちで勉強していた僕の下に。

燃えるような赤い髪の、顔に湿疹が目立つ女の子が僕の名前を叫びながら怒鳴り込んできた。

 他の学生よりはるかに若い外見。僕と同じくらいだろうか? それに深紅の髪。僕と同じように飛び級を重ねて入学した、アーデレ家のクリームヒルト嬢だとわかった。

 魔法医師の名門の家系で、入学式には新入生代表も務めていたからよく覚えている。

 だけどこんな平民の僕に何の用だろうか? 

 僕が考えている間にも彼女は僕の席にずかずかと近寄ってきて、開口一番僕に質問をぶつけた。


「あなた、わたくしを一度ならず二度までも負かしましたわね。一体、どうやって勉強しましたの?」

 そう言われても、答えようがない。

 勉強の総量で言えば魔法医師を親に持つ人のほうが、医学の勉強はしているはずだ。

「わかんないよ、そんなの……」

 としか答えられなかった。

 この勝気な子のことが怖かったのもある。女の子相手に怖いというのも情けないけど、怖いのだから仕方ない。

 でもそう言うとクリームヒルトはますます怒りをあらわにした。

「なんですのその煮え切らない返事は! 決めましたわ、今日の放課後図書室に来なさい! そこであなたの勉強法を見てやりますわ!」

 僕はびくっと震えて、うっかり首を縦に動かしてしまったので、彼女にそれを了承の返事ととられてしまった。



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