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猛者

「ごめんなさい、ご主人様。ずっと血とか消毒液のある所にいたから、鼻がおかしくなってた」

 僕たちは校舎の陰を縫うように歩かされている。出口に近づいているのか、来るときにあった庭園の花の匂いが鼻をくすぐる。

 僕たちを人質に取ろうというのか、すぐに撃たずに銃口を突き付けたままだ。


 白い覆面の男は僕より身長も横幅も一回りは大きく、ローブからのぞく前腕も筋肉が浮き出ていて相当な猛者であることを感じさせた。

 さっき魔法医師大学を正面から襲撃してきたのは陽動で、こちらが本命なのだろうか。

 いや、こいつすら陽動かもしれない。


 こんな状況でも、エッバは緊張感をにじませながらも笑顔を浮かべたままだ。

 一方、さっきまで血を見ても腕がもげかかった人間を見ても平然としていたクリームヒルトは顔が真っ青だった。怪我を見慣れても、自分に暴力の矛先が向けられるのには慣れていないのだろう。

「う、うぐ、ひっく」

 クリームヒルトは再び泣き出してしまった。ぼろぼろと涙をこぼし、肩を震わせて、ひくつく。

 そんな様子を見て猛者は下品な笑い声をあげた。


「魔法医師様もざまあねえな。銃口の前じゃ、動きの鈍いウスノロだぜ」 

 エッバが手を挙げたままぼそぼそとつぶやく。

「ご主人様……」

「まだ早い。焦るな」

 猛者は銃口を突き付けたばかりで、注意力が削がれていない。

 襲撃の後身をひそめていたのか、気力体力ともに万全という感じがする。

 何か、もう一手要る。


「お前、何者だ」

 僕は彼らを睨みつけながら言い放つ。 

 馬鹿みたいに答えるとは思えないが、多少の時間稼ぎにはなるだろう。

 人間の集中力はそれほど長くは続かないし、魔法医師大学から助けが来る可能性もある。

 時間をかけると夜になるというリスクはあるが、運が良ければ日が沈む前に見つけてくれるだろう。


「はあ? この状況で言うセリフかよ、バカ」

 彼は僕の背中に冷たい銃口をぐりぐりと押し付けてくる。

 彼の人差し指が数センチ動けば、僕の肺か、心臓はズタズタになる。

 医学書にあった胸部に着弾した患者の写真を思い出し、僕は身震いした。

 だけど声を大きく、はっきりとさせてハッタリをかける。


「僕は医術士だし。魔法医師大学を狙ったことに、思うところがないわけじゃない」

「俺たちの仲間になる気があるってことか?」

 彼は銃口を突き付けながら、ゆっくりと返事をした。

「回答次第ではね」

 僕は努めて冷静に、ブラフを利かせる。

 厄介な患者、モンスターペイシェンツを相手にするときと同じだ。

 感情を高ぶらせずに話すこと、相手の言うことを決して否定しないこと。


 相手が望む回答を予測し、それを口にすることだ。


「あなた、何をおっしゃってますの?」

 僕の発言にクリームヒルトが青くなるが、それでいい。

 敵をだますにはまず味方から、だ。 

 猛者は僕の表情を確認するためか、正面に回り込んで白いマスクの中の目で僕を睨む。

 僕は気圧されないように、かつ反抗心をあおらないように穏やかな感じを心掛ける。

 隣のクリームヒルトさらに恐怖が増したのか全身が震えはじめ、地面に涙の痕ができていた。


「その魔法医師の反応…… 嘘じゃねえみたいだな」


 彼が引き金にかけた指から、筋肉の緊張が緩んだ。そしてゆっくりと口を開く。

「俺らは平等な世界の構築を目指す『グライヒハイト』の者だ」

 彼はさっきまでの粗野な口調とは打って変わって、真剣にその名を口にした。

 グライヒハイト。初めて聞く名だ、政党名にはなかったと思うが。

「活動は日々広がりを見せ、今は国際的な組織となっているんだぜ」

 国際的、か。

 駅、大学などこの帝都のあちこちにある弾痕。

 彼らの持つライフル。


「ということは、そのライフルも……」

「世界はこの国みたいに、銃規制の厳しい国ばかりじゃねえってことさ」

 ただのテロリストや過激派にここまで銃が広まっているのは疑問だったが、国際的な組織ということは銃規制の甘い国からの横流しなら納得できる。


「鉄道ってのは便利だな。人間や食料だけじゃなくて、銃も大量に運べるんだからよ」


「お前も撃ってみたくなったか? 気持ちいいぜ、この衝撃と反動、人が血を噴き出して倒れるのは。一度味わうと後は病みつきだぜ」

 いったん口を開いたことで枷が外れたのか、彼は聞きもしないのに滔々としゃべり始めた。

 グライヒハイトの理念、組織、業績。

 理想は美しいと思う。

 誰も差別されない世界。獣人も、人間も差別されない平等な世界を目指そうと。

 そのためにはまずエリートを社会から追放する必要があり、その第一歩として第二の貴族と言われる魔法医師大学を狙ったという。


 平等な世界。そういう世界ができれば、医術士も差別されなくなるんだろうか。僕が魔法医師たちにあんな扱いを受けることもなくなるんだろうか。


 でも今君たちがやっていることは、無差別に個人を殺傷しているだけだ。

 医術士として、到底受け入れられない。

 それにエッバが言っていた通り、彼らに貴族や政治家の代わりが務まるわけがない。


「ご主人様、いいよね?」


 エッバの声に僕は頷く。

 僕が頷いたのを確認すると、エッバは軽く地面を蹴る。

 それと同時に。

 エッバの姿がかき消えた。 

 いや、かき消えたと思えるほどのスピードでライフルの射線から体を外し、男の斜め前に立つ。

 猛者はまだ反応ができていない。

 だがエッバはすでに腰の回転、膝のバネを上半身の動きと連動させ、目にもとまらぬ速さで腕を伸ばす。

 同時に獣人独特の鋭い爪で、引き金を握る人差し指の腱を切った。

だがさすがに魔法医師大学の中にまで入り込んだテロリストか、ひるんだのは一瞬だけ。すぐに中指を引き金にかけ直し、銃口をエッバに突き付ける。

 銃口がエッバの眉間に移動するのと同時に、猛者は引き金を絞り始めた。

 だが引き金が絞り終わるより先に、エッバは這いつくばるように身を伏せて猛者の足を払った。

 両足を一度に払われた男は、後ろ向きに崖から落ちるように倒れる。

猛者はそのままの勢いで後頭部を強打し、意識を失った。同時にエッバは彼の手からライフルを取り上げる。


「終わったよ、ご主人様」

 エッバは傷一つなく、息一つ切らしていなかった。




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