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指輪外し

「ご主人様、次だよー」

 こんな時も普段通りのエッバの案内でもう一人の患者にあたる。

 患者は五十歳くらいの初老の男性で、銃創こそないものの避難するときにぶつけたのか左腕が腫れ上がり、薬指にはめた指輪が指を圧迫して紫色になっていた。

 まずいな。

 このままだと指が壊死する。

 普通なら指輪を切断する道具、リングカッターを使うんだけど。


「お願いです、若いお兄さん。指輪を切るのはやめていただけんか。この指輪は今は亡き妻の形見なんじゃ」

 床に横たわり、腫れ上がった左手にはめた指輪を右手でかばいながら患者はそう言う。

 このままだと、指がどうなってもいいから指輪は切らないでくれ、と言いそうだ。

 魔法医師ならそれでもやりようがある。指が壊死しても、メガヒールで治せばいい。指をメスで関節に沿って離断し、指輪を外してメガヒールで指をくっつける方法もある。

 医術士である僕にはどちらもできないけれど。


 でも。できることをすれば、何とかなることもある。

「わかりました。では指輪を切らずに外しますね」

 僕は患者を安心させるため、笑顔を作ってそう言った。

 あまりにもあっさりした言い方だったので、疑心を抱いたようだ。

 医術士ごときが、そういう感情が顔に現れている。

 

 でも、実際あっさり終わるのだから仕方がない。


「はい、ご主人様」

 エッバが持ってきてくれた裁縫用の木綿糸を手に取り、僕は治療を開始する。

 まずは木綿糸を指と指輪の間に通す。

 ちょうど、指輪の下を一本の木綿糸が横切っているような形だ。

「指に糸をぐるぐる巻いていきますからね」

 患者が怪訝な表情をしていたので、次に行うことを説明する。

 木綿糸を指にぐるぐる巻くと、圧迫されて腫れ上がった指が細くなる。

 次に巻いていない側の糸をゆっくりと引っ張ると、糸についていくように指輪が抜けて

いき、何事もなかったように指からコロンと外れた。腫れているので仕上げのヒールを使って腫れをひかせ、治療は終わりだ。

「ありがとうございます、本当にありがとうございます」


 初老の患者はさっきの疑義の表情が嘘のように目に涙を浮かべ、右手と腫れのひいた左手で僕の手を握りしめる。見返してやってすっきりしたけどそれ以上にやり甲斐を感じると共に、胸が暖かくなった。

 いつの間にか、クリームヒルトが僕のそばに来ていた。

「どうしたの?」

「さすがに連続でメガヒールは使えませんから。休憩がてらあなたの治療を見させていただいていましたわ」

「そう…… 魔法医師様に見せるほどの者じゃなかったと思うけど」


 立場の差を白衣の有無、使用できる魔法、あらゆる面で感じて少し卑屈な言い方になってしまう。

「謙遜はおよしなさいな。やはり、ただ者ではありませんわね。その手際、患者に合わせた治療法の素早い選択、治療後の患者へのフォロー」

「そーでしょ!魔法医師じゃなくたって、ご主人様はすごいんだよ!」

 エッバが自分のことのように喜んでくれる。それはいいけど、

「エッバ。これくらいなら魔法医師はもっとうまくやれるから」

 そう言って彼女をたしなめる。クリームヒルトならもっと上手くやるだろうし、何より

 ここは魔法医師の大学なのだ。あまり医術士として目立つ真似はしたくない。

 エッバは周囲の空気でそれに気がついたのか、素直に謝った。

 遠くにいた他の教授たちの反応が耳に入ってくる。


「面白いな」

「しかししょせんは医術士の小細工、メガヒールを使えればすぐに解決します」

「しかし若いころを思い出すな、私も昔はああやって患者と向き合いながら試行錯誤していた時代があった」

 肯定と否定が入り混じっている。思ったより否定的な意見が少なくてほっとした。




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