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獣人は大学に入れない

魔法医師大学校舎の門をくぐり、中へと入る。


 重厚なイチイやニレの木材で建設された大学の内装は、宮殿風の外見と違い額縁も調度品も飾られておらず、ガラス窓と各教室への扉、それに教室名が描かれたプレートしか目立つものはない実用性重視の造りとなっている。一方床など多くの人間が歩いてきた場所は黒く色づき、長年の歴史を感じさせた。

僕らはクリームヒルトの好意で、授業をする前に研究室へ案内されることになった。


「わたくしばかり講義を受けていても不公平ですわ」

 ということらしい。義理堅い彼女らしいな。

「クリームヒルト様、あんなに美しい方だったのですね」

「魔法医師大学を最年少で卒業した才女に加え、あの美しさ……」

「急にご尊顔の湿疹が完治しましたけど、どうなさったのでしょう? きっと素晴らしい魔法医師の方に治療してもらったに違いありませんわ」


 白衣をまだ来ておらず書物と筆記具を持ち歩いている女子学生たちとすれ違うたびに、クリームヒルトを遠目に眺めながらそう談笑しているのが聞こえてくる。

 クリームヒルトはそれを見て鼻が高いというよりも、トラウマを思い出しているような顔だ。


「昔は顔の湿疹のせいで、散々に容姿をからかわれましたから。容姿について言われるのがまだ怖くて…… でもここ一月は褒められることが多くて、トラウマが軽減していくのを感じていましてよ。あなたは心をも癒してくれましたわ」


学生のほかにも魔法医師の証である白衣を羽織った研究員らしき者、他大学や教養の専門職として招かれた講師らしき者が学内を歩いている。

 すれ違うと軽く会釈を交わすが、すぐに自分の世界に戻っていく印象を受ける。

 彼らは研究所や教科書を読みながら歩いたり、表情がころころ変わったり、指をせわしなく動かたりと色々なタイプがいるが、魔法医師と明らかに雰囲気が違う外部講師らしきものを除いて皆ギラギラとした目で、野心を持っているのが伝わってくる。


 もっと知識を増やさないと。

 次の試験でもっと上を取らないと。

 研究を早く進めなくては。

 そんな焦りといら立ち、そして喜びに満ちた目をしている。

 

自分と別世界の人間であることを肌で感じるのか、エッバは居心地が悪そうだ。

 ついてこなくてもいいとは言ったが、僕と離れるのが嫌なのかついてくることを選択した。

 ちなみにエッバは獣人なので、服の上からフード付きのマントを羽織って犬耳と尾を隠している。

 

ここに来る以前にクリームヒルトから忠告を受けたためだ。

『あまり言いたくはないのですけど。獣人に対する差別も根強いですし、それに彼らを実験材料のようにしか考えていない研究員もおりますの』

 というより、獣人は大学に入学できないのだが。

 獣人は頭蓋骨の構造上人間より二千年は発達が遅れているとされ、知能の劣った者に高等学問など教える必要はないというわけだ。

 獣人の方でもそれがほぼ常識となっており、異議を唱える者は特殊な政党に属する者などごく少数しかいない。

 エッバに一度、もし大学に行けたら行ってみたいか聞いてみたことがあるけど、興味すらない感じだっ

た。


魔法医師や著名人、名士、が多い中で僕は浮いた存在に感じて居心地が悪い。早く案内される研究室に着きたい。その内部ならまだ人目が少ないはずだ。

そう思うと自然と足取りが早くなり、クリームヒルトを追い越してしまった。

彼女の驚くような声が、後ろから聞こえる。


「あなた、迷いなく進まれますわね。まるでどこに何があるかわかっているかのような足取りですわ」


 僕は足を止めることなくそれに答えた。

「学校は基本的に同じ作りだからね。医術士の仕事で小学校くらいなら行ったことはあるし、」

「ああ、そうでしたの。色々なことで仕事をされていたのですね」

取り繕った僕のセリフに、クリームヒルトは納得したように頷いた。

 前に見える角を曲がれば、案内されるはずの研究室に着く。そう思い歩を早めると、曲がり角から出てきた別の人間にぶつかりそうになった。

僕は辛うじて、エッバはさっと避けた。


ぶつかりそうになったのは白衣を着た魔法医師だった。痩せぎすで背が高い。眼鏡をかけ、値踏みするかのような視線で僕たちを見る。

「すみません」


 僕は謝罪したが彼は舌打ちをしただけで、謝ろうとする素振りすらない。

 エッバが何か言おうとしたが、僕は手でそれを制した。何か言ったって、ろくなことは

ないだろう。

「ん? 貴様は獣人か。それに貴様は……」

 エッバが獣人であるとばれた? 犬耳と尻尾は隠してあるのに?


教授はさらに僕の顔をじろじろと眺めたが、すぐに興味を失ったかのように視線を手元の学術書に戻した。そのまま廊下を去ってしまう。


「なに、あの人? 嫌な感じ~」

エッバが彼の背中に向かって舌を出す。それを見てクリームヒルトは額に手を当て、疲れたように漏らした。

「気になさることはありませんわ。ハイマン教授はいつもあのような感じですのよ。『医学の研究と実践以外に興味はない』が口癖ですわ。獣人がいても気にされないでしょう」

「それにしても、なんで私が獣人だってわかったのかなー?」

「彼は解剖も得意ですから。隠していても、頭蓋骨の形状で見抜いたのでしょう。では、こちらですわ」

 嫌な奴だ。

 でも当然か。魔法医師は血まみれ、ぐちゃぐちゃになった人間を相手にするのだ。まともな性格ではやってられないのだろう。


それにまともな性格の人間が、メガヒールを会得できるわけがない。


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