帰還者~異界の最果てより~
息抜きに衝動のまま書いた短編です。
いづれちゃんとプロットを書いてしっかりとしたものにできれば……
白亜の塔最上階、そこでは先程まで鋼を撃ち合う激しい音が鳴り響いていたが、今は一瞬の凪を迎えている。
「ッ、ははっ、ここまでか……ぶはッ!?」
無骨な槍で腹を貫かれた鉄郎が盛大に血を吐き出し、俺の視界の一部が赤く染まる。コイツの事は好きじゃなかったが、最後まで一緒に戦った生き残りがコイツなのは何の因果か……
「た、頼みがある、ッ……」
「引き受けた」
内容如何に関わらずに即答する。この瞬間に於いて断る事や渋る事はあり得ないし、どうせ斃る仲間の頼み事は決まっていた。
「か、か、彼女と喧嘩別れしてな、ッ、謝れて、ないんだよ…… 何であんなくだらない事で俺……ッ、う、こ、これを」
血塗れの手で差し出したのはいつも身に着けていたシルバーアクセサリだ。確か、年上の彼女が買ってくれたと言っていたな……
「頼む…………………」
鉄郎の手ごとそれを握り込んだところで事切れた……
俺は其れを腰の革袋へと放り込む。
いつだってそうだ、日本であれ、アメリカであれ、故郷に辿り着く事叶わずに死んでいくものは残った奴に遺品を託す。
「お陰で重くて苦労するぞ、投げ出すつもりはないがな……」
ズシリと重い革袋には帰還のために戦ってきた仲間達の想いが詰まっている。諦めてこの地で生きる事を選んだ者達は今の俺の現状を笑うだろうか?
暫しの瞑目の後に冷たくなっていく手を放して立ち上がり、律義に待っていてくれた“敵”に向きあう。
「なぁ、俺が死んだらこの地に残った連中の事は頼む」
「……彼らは既に我が国の民です、心配はなさらないでください」
白銀に輝く槍を構えた今や世界の半分を支配する女王が真摯な瞳を向けて頷く。こんな時でもその美しさは一切損なわれず、ディーウッドの森に墜落したボーイング779から俺達を助けだしてくれた二年前を思い出す。
「別に心配はしていない。今や王国はソレスティアで最大の勢力だし、あんたには何度も世話になった……でなければ、俺達は戦い方すら知らずに森の獣の胃袋の中だよ」
「王国を盤石なものとしてくれたのは貴方達、異界人です。思い留まる事はできませんかソウジ……貴方は向こうに未練など無いと言っていたではありませんか!」
あぁ、俺一人の問題なら思いとどまっただろう。
何せあんたの事は嫌いじゃない、数日前まで惚れていたくらいだ。
だがな、今までに帰還を望みながらも命を落としていった者達の想いを背負っている。
「無理だ、俺は帰らなければならない……なぁ、最初から騙していたのか、ジル?混沌を抑えて世界の安定を取り戻せば、役目を終えた俺達が帰還できるなんて……」
「ッ、そもそも異界への転移がこの世界の安定を揺らがせるのです。それに貴方達が門を開くための理に到達するとは思っていませんでしたッ…… 愚かですね私は」
その言葉を聞きながら、頭の片隅で算段を練る。
(既に門は開いている、飛び込んでさえしまえば勝ちだが……俺と門の間にはジルが立ちふさがっている。王国の女王にして最大の戦力がだ)
「ソウジ、この国と私は貴方を留めるに値しないのでしょうか?貴方のためなら……」
彼女の暖かみが籠った問いかけに勝機を見出し、俺は四肢に力を籠めて低い姿勢から弾丸の様に飛び出す!
「ッ、行かせない!」
即応してジルの白銀の槍が俺の心臓を狙うが、一瞬の躊躇が生まれる。
その事を本心から嬉しく思いながら、俺は手にした太刀で槍の軌道を逸らし、スライディングで彼女の横を滑り抜けて開け放たれた黄金の門に飛び込む。
「ソウジッ!!」
「ぐぁあああッ!?」
ゾクリとした感覚に従い、僅かに身体を捻ると背後からの閃光が俺の脇腹を抉り、激痛に苛まれながら門の中に落ちていく。
後に残るのは憂いを帯びた瞳で閉じていく門を眺める女王のみ……
「それで均衡が崩れるのは貴方の世界なのですよ、ソウジ」
そう呟いた後に彼女も白亜の塔から去り、そこには誰もいなくなった。
……………
………
…
そして俺は今、留置所の中にいる。
そりゃそうだろうよ、街中の憩いの場である公園にいきなり太刀を持った血塗れの男が忽然と現れれば通報されるのは当然だ。
しかも都合の悪い事に俺は二年前に行方不明になったボーイング779の搭乗者でもある。連日の取り調べに対してやや疲れは覚えるが、俺に言える事は一つしかない。
「だから、異界の森に墜落してほとんどの乗客は死んだ。生き残った奴も戻る事叶わずに死んでいった」
「…………なぁ、宗次さん。我々はあんたを責めているんじゃない、真実が知りたいんだよ。何故、飛行機ごと行方不明になったあんたが血塗れで日本刀を持って、いきなり街中に現れたのか……」
いつもこんな事を一ヶ月の間繰り返している。
(……受け取った遺品をはやく遺族のもとへ届けて回りたいんだが)
そんな事を考えていた時に取り調べ室の扉が開いて、スーツ姿の男達が入ってくる。刑事たちとの会話を断片的に聞くと内閣府浸透現象対策室という聞き慣れない単語が飛び込んできた。
そして、俺の身柄は彼らに引き渡されるらしい。
どうでもいいが、早く自由になりたいものだ……
読んで頂いてありがとうございました!
うーん、短編は難しいですね……中々読まれないっす。