8.5.幕間
やっほー、あたしはローラ。
このラメールの街の料理屋の看板娘よ。
この店の名物、魚介の盛り合わせはいかが?
とってもおいしいんだから。
でも、昨日はほんと大変な一日だったな。
仲良くしてた子が偽名を使ってたことが判明したし、大罪人だって言われて自警団に追われてたし・・・
いきなり自警団の人が店に来て、父さんを連れて行ったのは驚いたね。
その後あたしも脅されて、とても怖かったけど・・・
ミッシェル・・・じゃなくて、ミネルバを罠にかけろ、って言われたときは、もうどうしたらいいか分かんなくなっちゃった。
だって、父さんの命がかかってたんだもの。
それで、あたしはミネルバを罠にかけようとしたの。
でも、できなかった。
だって、ミネルバとは友達だから。
ミネルバが殺されるのを止めようとしたんだけど、ミネルバは行ってしまったの。
あたし、悲しくてその場でずっと泣いていたから、どうなったか詳しくは知らないんだけど・・・
それから夜が明けて店に戻ったら、なんと父さんが帰って来ていたの。
あたし嬉しくて思わず抱きついちゃった。
聞いてみたけど、どうして解放されたかはかは分かんないんだってさ。
不思議な話があるものね。
それで、店を再開したんだけど、来たお客さんがこんな噂をしているの。
自警団が一夜にして壊滅状態になったって。
詳しく聞いてみたら、たった一人の女にやられたんだって。
あたし、それでピンときたの。
きっとこれはミネルバのことだって。
その実行犯は捕まっていないって言ってたから、ミネルバは逃げることができたんだと思う。
そう考えると、飛び跳ねて喜んじゃった。
ミネルバがどこにいるのかは分からないけど、また会えるといいな。
だって、あたしたちは友達だからね。
そういえば、うちにミネルバの荷物が置きっ放しになっているけど、どうしようかな?
俺はラメールの自警団の一団員だ。
この街の自警団はかなり優秀だ。
今まで、ならず者どもを好きにさせたことはない。
これに関しては俺たちも自信はあった。
だが、その自信も一夜にして崩れ去っちまった。
何があったかって?
数百人規模の厳戒態勢をとっていたのに、たった一人の女に壊滅させられたんだよ。
筋骨隆々な男たちが蹴散らされていくんだぜ。
その戦いぶりにビビったやつが次々に逃げていったな。
半数以上やられちまったし、俺もビビって逃げちまった。
あれは化け物としか言いようがねえな。
圧倒的な力を見せつけられた気がするぜ。
なんせ、自警団のNo.2だけじゃなく、団長も負けちまったからな。
俺みたいな下っ端が敵うわけがないんだよ。
それから、その女はあっさり出て行っちまった。
まあ待て。
この話には続きがある。
これだけ被害がでかかったんなら、死人の一人や二人ぐらい出てもおかしくはないだろ?
だが驚くべきことに、けが人はいても死者は一人もいねえんだと。
殺そうと思えば、いくらでも殺せただろう。
つまり、俺たちは手加減をされていたって訳だ。
つくづく、恐ろしい女だ。
えっ、もっと詳しく聞かせろって?
絶対嫌だね。
思い出したくもねえ。
ただ俺も、もう少し訓練をまじめに受けようと思ったよ。
どうも、私はこの街で商店を経営する者です。
うちは食品から武器までありとあらゆる商品を取り扱っております。
必要とされる物であれば何でもありますよ。
ところで、昨日はうちのお得意様が突然、血まみれで来店したものですから驚きましたよ。
どうやら、自警団に追われていたらしく、すぐに出て行ってしまわれましたがね。
まあ、今朝はガッポリ儲けさせていただきました。
自警団の方々が多数負傷したようで、薬を求めに来られましたよ。
例のお得意様が持ってきてくれた薬でしてね、たった一滴でもとても効くものですから、非常によい薬です。
自警団もまさか自分達が追っていた相手の薬を使っているとは思いもしないでしょうね。
お値段ですが、一滴につき金貨10枚で売りつけてやりましたよ。
ちょっと割り増しな気もしますが、問題ないでしょう。
昨日は店の中を荒らされましたからね。
その仕返しだと思ってもらえばいいでしょう。
おかげで、うちの商店は黒字も黒字。
これでしばらくは安泰ですね。
と思えば、自警団が次は武器が足りないと困っていらっしゃる。
これもまたとないチャンスです。
大量に安く仕入れて、高値で売りつけてやりましょうか。
搾り取れるところからは、徹底して搾り取ってやりましょう。
また一儲けさせていただきますよ。
ところで、ミッシェルの服はどうしましょうかね?
一応、きれいに洗濯して、破れていた箇所も修繕したのですが。
まあ、きっとまた来るでしょう。
それまで大事に保管させていただきますよ。
「陛下!大変です!」
男が息を切らして走ってくる。
「いったいどうしたというのだ。そんなに慌てて」
陛下と呼ばれた男が落ち着いて答えた。
白髪に髭を携え、厳格な雰囲気を醸し出している。
「ミネルバが・・・ミネルバ・ガルシアが現れました!」
「なんと!どこに現れたというのだ」
「ラメールです。その自警団も壊滅させられた模様です」
「そうか・・・それで被害の方はどうなのだ」
「それが、負傷者は多数いるようですが、死者はいなかったそうです」
「ふむ。ミネルバのその後の足取りはどうだ?」
「どうも逃げられてしまったようで・・・探索はしているようですが、現在の所在は分からないということです」
「なるほど、逃げられたか・・・」
しばらく沈黙が続く。
「しかし、自警団も役に立ちませんね。たった一人の女を逃がしてしまうとは」
「ええ、まったくその通りです。あのサムとかいう男も元聖騎士とか言いながら使えないですな」
その場にいた臣下たちがしゃべり始めた。
自警団を非難する意見が数多く飛び交う。
「そこまでにしておけ。そう非難するものではない。彼らは十分やってくれた。ただ、その相手が悪かったというだけだ」
その言葉で場が納まる。
「陛下。どうなさいますか?各所領に厳戒態勢を整えさせますか?」
側近の一人が声をかける。
「いや、させなくてよい。放っておいて構わない」
「しかし、また暴れられたりしたら・・・」
予想していなかった返答に側近が戸惑う。
「問題ない。ミネルバも自らを危険にさらすようなことをする愚か者ではないだろう」
「・・・承知しました。ご無礼をお詫びいたします」
「構わない。それに今は小娘一人に手を煩わせている場合ではないのだ。例の件は進んでるか?」
「はっ。滞りなく進めております」
「ふむ。これからもよろしく頼むぞ」
陛下と呼ばれる男は口元に笑みを浮かべた。
ラメール編にようやく一区切りつきました。