8.最強の女
「なぜ、今の攻撃で生きている・・・」
その場にいる者に動揺が伝わる。
「もう一度だ!やつを撃て!撃ち殺せ!」
指揮官と思われる男が命令を出す。
「申し訳ありません!先ほどの攻撃で銃弾を使い切ってしまいました!」
「なっ・・・ならば、斬り殺せ!かかれ!」
その声で我に返った男たちが私に斬りかかってくる。
十数人ぐらいだろうか。
私は彼らを一瞬で蹴散らした。
まったく相手にならない。
「この程度かしら?ほら、私を殺すんでしょ?」
軽く挑発してみる。
「ぐっ・・・おい!何をしている!早くやつを殺せ!」
次々と斬りかかってくるが、動きが遅すぎる。
剣筋が止まっているように見えてしまう。
どうやら人数を集めただけの烏合の衆らしい。
まともに戦えるやつがほとんどいない。
さすがに単調すぎる攻撃に退屈してくる。
なので、こちらから打って出ることにする。
一番密集していそうな集団に斬り込む。
一気に数十人が吹っ飛ぶ。
この一撃で完全に集団が瓦解したようだ。
「うわぁ!ば、化け物!」
そう言って逃げ出す者が出てくる。
「待て!逃げるんじゃない!」
指揮官が逃亡する者を必死に食い止めようとするが無理だ。
恐怖が伝染してしまっている。
これでは指揮系統を機能させることはできないだろう。
武器を捨てて逃げる者が後を絶たない。
私はさらに追い打ちをかける。
自警団の連中は手も足も出ず、私に蹂躙されていく。
「この女が!俺が殺してやる!」
一人威勢よく攻撃を仕掛けてきた。
他の雑魚とは違い、かなりできるほうだ。
こちらも少し本気を出した方が良さそうだ。
しばらく剣を交える。
逃げていた連中も足を止め、息をのんで見守っている。
男の息が上がってきた。
それに対し、私は息一つ上がっていない。
「この化け物め!」
男が渾身の一撃を放つ。
しかし、私はそれを簡単に弾き返した。
男の剣は砕け、その男は吹っ飛ばされる。
瞬間、辺りが静寂に包まれる。
「に、逃げろ!あんなのに敵うわけがない!」
恐怖がその場を支配した。
戦意を失った者が我先にと逃げていく。
圧倒的な力を目の当たりにした人間はこうも簡単に崩れるのか。
周囲が阿鼻叫喚の巷と化した。
「静まれ!」
大声が鳴り響く。
その声に全員が動きを止め、静まりかえる。
「泣く子も黙るラメールの自警団が、たった一人の女になんて様だ!」
その場にいる者に怒鳴りつける。
「しかし、団長。あの女は強さの次元が違います。もうすでに半数近くがやられました」
「馬鹿野郎!あいつとまともに戦って勝てる訳がねえだろ。お前に指揮を任せたのが間違いだったよ」
この場を鎮めた声の主はサムだった。
さすがと言うべきだろう。
「まったく、よくもここまでやってくれたもんだな。ミネルバ」
サムが私に向かって歩を進める。
「しかし、あの奇襲攻撃をよく凌いだもんだ。ローラって言ったか?ちょっと脅したら、すぐ言うことを聞いたんだがな」
やはりローラに私を罠にかけようとさせたのは、こいつの指示だったのか。
沸々と怒りが湧き上がる。
こいつだけは許せない。
人を裏切ることもできない優しいローラにあんなことをさせるなんて。
こいつだけは叩きのめさなければ気が済まない。
サムが私の前に立つ。
「さて、ようやくこの手でお前を殺せるんだな!この瞬間をどれほど待ちわびていたか!」
その手に剣が握られる。
「さあ、始めようぜ。命をかけた殺し合いを!」
サムは一気に間合いを詰め、斬りかかる。
私がその剣を受け止め、鍔迫り合いになる。
「懐かしいな。お前とまたこうして剣を交えることができるとはな!」
「そんな昔のこと忘れたわ」
口ではそう言うが、記憶にはある。
だが、私の知っている頃に比べ、サムの力は増している。
剣を弾き、一度距離を取る。
「おいおい、そんな逃げるなよ。お前はもっと攻撃的なやつだったぞ」
「その汚い口を閉じてもらえないかしら?耳障りだわ」
「つれないな。昔話をしようじゃないか。積もる話もあるだろう?」
「あなたとの間に積もる話なんてないわ」
「昔からお前はかわいげのない女だったよ!」
サムが攻撃を仕掛けてくる。
まっすぐに首を狙ってきた。
それを避け、反撃にでる。
剣の打ち合いが続く。
ぶつかり合う剣から火花が散る。
お互い一歩も引くことがない。
不意にサムがバランスを崩した。
私はここだと思い、攻撃を入れようとする。
一瞬、サムの顔が目に入った。
明らかに不利な状況だというのに、薄笑いを浮かべている。
私は咄嗟に距離を取ったが、遅かった。
「《爆破》!」
私の目の前で轟音とともに爆発が起こる。
体が爆風に吹っ飛ばされる。
服も少し焦げてしまった。
「よく反応したな。もう少しで丸焦げにできたんだが」
サムが魔法を使えるということをすっかり忘れていた。
しかし、あんな威力があっただろうか?
状況はかなり厄介だ。
サムが爆破魔法を使えるのであれば、接近戦は分が悪い。
至近距離で先ほどの攻撃をくらえば、私といえども戦闘不能になってしまう。
「どこを見ているんだ!」
気づくとサムが距離を詰めていた。
再び、爆発が起こる。
しかし、今度はうまく回避できた。
「逃げてばかりじゃ、つまんねえぞ!」
サムがまた攻撃を仕掛けてくる。
このまま続けても埒があかない。
仕方ない。
これはあまり使いたくなかったのだが。
「ミネルバ!死ねぇ!」
サムが剣を振り上げる。
しかし突然、サムの動きが止まった。
体の正面に大きな刀傷ができている。
サムは血を吐き、その場に仰向けに倒れた。
「お前・・・いったい何をした」
「簡単なことよ。風の刃であなたを斬っただけ」
「そういえば、お前は《異能》持ちだったな」
サムは腑に落ちた表情をした。
「ほら、さっさと殺せよ。そのつもりなんだろ?」
「いや・・・昔、仲間だったということに免じて命は助けてあげる」
「まったく、つくづく甘いやつだな」
サムは笑みを浮かべた。
「ところで、もう出て行っていいかしら?」
「ああ、勝手に出て行っちまえ。この場に今のお前を止められるやつはいねえよ」
周囲を見渡すと、もう戦う意志のある者はいないようだ。
「だが、忘れるんじゃねえぞ。今日のこのことはきっと国中に知れ渡る。この国にはお前の居場所なんてないんだ。俺だってまだ諦めたわけじゃないからな」
「そう。忠告ありがとう。じゃあ、行かせてもらうわ」
足を踏み出そうとしたが、一つ忘れていたことがあった。
サムの顔をのぞき込み、笑顔を見せる。
「おい、ちょっと待て。動けない俺に何をする気だよ」
サムの顔から血の気が引く。
「何って、一発殴るだけよ」
門をくぐると、朝日が顔を出し始めていた。
いろいろあったけれど、いい街だった。
非常にスッキリした気分でラメールを後にした。