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ガルシア闘諍録  作者: 様出 久鮎
第二録
6/41

6.攻防

「お前を探すのに二年もかかっちまったよ。苦労したんだぜ。なあ、ミネルバ」


「私の記憶だとあなたはそんないい笑顔をする人じゃなかったと思うんだけど」


 私は皮肉を込めて言う。


「おいおい、そんな言い方するなよ。さすがに俺も傷つくぜ」


「でも、なぜ私がいると考えたの?」


「いや、おもしろい話を聞いてな。昨日、連行されたやつが言ってたんだ。女一人にぶちのめされたってな。そんなことができる女、一人しかいねえよな」


 迂闊だった。


 そんなところから見つけ出されるとは。


「ねえ、ミッシェル。自警団の団長と知り合いなの?」


 ローラが不安そうに私の肩をつかむ。


「ええ。彼はサム。昔の仲間よ」


「まあ、確かに仲間だったな。だが、今は違う。お前を殺すことのできるこの日をどれほど待ちわびたか」


「ちょっと待って。いったいミッシェルが何をしたって言うの?」


 ローラが私の前に立った。


「ミッシェルって誰のことだ?その女のことを言っているのか?」


「ミッシェル。どういうことなの?」


 ローラは私に疑問のまなざしを向ける。


「いや、これは愉快だ。お前は何も知らないんだな」


 サムは笑い声をあげる。


「哀れな小娘に教えてやるよ。そいつはミネルバ・ガルシア。この国を悪魔に売っちまった大罪人なんだよ!」


 私に指を指して言い放った。


 周りの野次馬がざわつき始める。


「そして、この右目の傷もそいつにやられたんだぜ。な、ひどい女だろ?」


 サムはローラに同情を求めるように言った。


「ねえ、ミッシェル。今の話、冗談だよね?嘘に決まってるよね?」


 ローラが私の肩を揺さぶる。


「ねえ、何か言ってよ。お願いだから・・・」


 ローラは私の傷を見たときと同じ表情をしていた。


 ああ、またこの子にこんな表情をさせてしまうなんて。


 考える前に体が動く。


 私はローラの体を抱きしめていた。


「ごめんなさい、ローラ。私はあなたをだましていた。私が・・・ミネルバなの」


 ローラの体が一瞬反応する。


「でも、これだけは覚えておいて。私は間違ったことはやっていない」


 自分の肩が濡れるのを感じた。


「おい、もういいか?そろそろ、お前をぶっ殺してやりたいんだが」


 サムがいらついた様子で水を差した。


 剣を抜き、私に向ける。


「ローラ、本当にごめんなさい。そして、さようなら」


 そう言って、ローラに背を向け走り出す。


「おい!逃がすんじゃねえぞ!」


 自警団に周囲を取り囲まれていたようだ。


 二人が剣を抜いて立ちふさがる。


 もちろん倒していくことはできる。


 しかし、そんな余裕はない。


 すでに数十名もの自警団が集まっていた。


 ここで時間を取られれば、あっという間に逃げ場がなくなってしまう。


 次の瞬間には私は二人の頭上を飛び越えていた。


「馬鹿野郎!何してんだ!追え!絶対に逃がすな!」


 遠くからサムの声が轟く。


 人ごみの間を抜け、市場の外に出る。


 追手が来ていないことを確認し、空へと飛ぶ。


 このまま、森へ逃げるしかない。


 突然、体に衝撃が走った。


 まるで、壁にでもぶつかったかのようだ。


「これは・・・対空結界!?」


 自警団の中に結界魔法を使える人間が居るのか。


 しかし、こんな戦争時に使われていたものを私一人に使うのか。


 侮っていた。


 ここまで用意周到とは。


 おそらく街一つを覆うほどの規模だ。


 これでは空に逃げることができない。


 不意に銃弾が左腕をかすめた。


 振り返ると屋根の上に何人も銃を構えていた。


 思考する暇なく大量の銃弾が飛んでくる。


 なんとか銃弾を髪一重で躱していく。


 だが、数が多すぎる。


 避けきれず右太ももを貫通する。


 さらに数発、顔や体をかすめる。


 このまま空中にいては不利になる一方だ。


 下に降りて突破するしかない。


 銃弾の嵐をかいくぐりながらなんとか路地に降りる。


 しかし、のんびりはしていられない。


 すぐにでも追っ手が来るだろう。


 脚の痛みに耐えながら走り出す。


「いたぞ!逃がすな!」


 見つかってしまった。


 だが、まだ距離は十分にある。


 銃弾が撃たれるが届くことはない。


 路地を抜け、人通りの多い通りに出る。


 うまく群衆に紛れ込むが、見つかるのは時間の問題だろう。


「やつはどこだ!おい、どけ!邪魔だ!」


 自警団の連中がすぐそこまで来ていた。


 現状の打開方法を考えていると、目の前に薬を卸した商店があった。


 自警団の目を盗んで商店に飛び込んだ。






「やあ、ミッシェル。今日は・・・その怪我はどうしたんだい?」


 店主が驚いた声を上げる。


「少し匿ってくれないかしら?理由は聞かないで」


 息絶え絶えに頼み込む。


「ああ、構わないが・・・とりあえず奥の部屋に」


「ありがとう。助かるわ」


 奥の部屋に案内されてすぐに店のドアが勢いよく開く。


「おい、ここに怪我をした女が来なかったか?」


 自警団の連中が来たようだ。


「いいえ、今日はそのようなお客様は来ておりませんが」


 店主の息子が対応している。


「まずいね。あの様子じゃ、ここにも入ってきそうな勢いだ」


「お邪魔して悪かったわね。すぐにでもここを出て行くわ」


「待ちなさい。君から買った回復薬だ。使いなさい」


「代金はまた払わせてもらうわ」


「いいんだよ。君のおかげでそれなりに儲けさせてもらっているからね」


 回復薬を使い、傷を回復する。


「他に何か必要なものはあるかい?」


「じゃあ、服をもらっていいかしら?この服だと動きにくくて」


 血まみれでいるのは気持ち悪いし、何よりスカートだと走ることもしんどい。


「分かった。用意しよう」


 店主に持ってきてもらった服に着替える。


 これで思うように体が動かせる。


「おい、いい加減奥の部屋を見せろ!」


「困ります。店の商品がたくさんありますので」


 自警団が痺れを切らし始めた。


 もう息子の足止めも限界だろう。


「お世話になりました。いつか、このお礼はさせていただきます」


「ああ、達者でね」


 そして、店の裏口から抜け出す。






「撃て、撃て!」


 上から銃弾が降り注ぐ。


 商店を出てから間もなく見つかってしまった。


 今は狭い路地を逃げ回っているところだ。


 特に屋根にいる狙撃手が厄介だ。


 私は銃弾をかいくぐり屋根の上に飛ぶ。


 屋根の上には十数人いる。


 だが、この程度なら制圧は可能だ。


 狙撃手は近接戦闘に弱い傾向がある。


 相手の懐に入ってしまえばこちらのものだ。


 すばやく一人一人に蹴りや拳を叩き込んでいく。


 銃弾は飛んでくるが気にしてはいられない。


 十人近く倒したところで、自警団側の応援が来る。


 これ以上続ければ、人数が集まって身動きが取れなくなる。


 そう判断し、屋根を伝って逃げる。


 再び路地に降りると前から後ろからと追手が来る。


 その追手を蹴散らしていく。


 魔法を使う人間がほとんど居ないことが幸いした。


 おかげで目の前の相手に集中できる。


 さらに、私が剣を奪い、戦闘が激しくなる。






 攻防は日が暮れるまで続いた。


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