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ガルシア闘諍録  作者: 様出 久鮎
第二録
3/41

3.海沿いの街

 いつも通り目を覚まし、瞑想を行う。


 日課のトレーニングをし、朝食を食べる。


 その後、部屋の掃除、片付けをする。


 いつもであれば、これから森へ向かい、薬草の採集をするのだが、今日は異なる。


 久々に街へ行く予定にしているのだ。


 例の左扉の部屋(以後、研究室と呼ぶ)に入り、試作で作った回復薬をいくつか取り、荷物に詰める。


 試作段階の薬とはいえ、かなりいい値段で買い取ってくれるのだ。


 そして、着ていた服を脱ぎ、街に出ても違和感のない格好にする。


 私は正直、スカートはあまり好まない。


 動きづらく、今の生活を行うにはあまり実用的ではないからだ。


 ただ、ほとんどの女性はスカートであり、そんな中ズボンで動き回っていてはかなり目立ってしまう。


 それは避けておきたいことだ。


 支度を整え、出発をする。






 今回行く街は、ラメールという街で、海沿いにある、港での産業が盛んな場所だ。


 私の小屋から歩いて行けば最低三日はかかる。


 しかし、私には何の問題もない。


 風に乗って、移動することができる。


 これであれば、ほんの30分程度で到着可能だ。


 一つ言っておくが、これは魔法ではない。


 体質というか、能力というか。


 とにかく生まれつき持っていたものらしい。


 詳しいことはまた説明することにしよう。


 今は変わる景色を楽しみながら行くとする。






 さすがに、飛んでいる姿を見られるのは厄介なので、街の外れで着地する。


 髪を軽く整え、街に向かって歩き出す。


 ラメールは人が自由に行き来できるようにするため、検問はない。


 その点、私にはありがたい。


 あまり目立ちたくないものだから。


 しかし、検問がないからと言っても、治安が乱れるようなことはない。


 なぜなら、警備体制がかなり厳しい。


 街の自警団が常に巡回を行って、目を光らせている。


 これでは、ならず者もおとなしくせざるを得ないだろう。


 ひとまず私は商店に向かう。


 石畳の道を歩き、多くの人や馬車とすれ違い、店の前に到着する。


 商店の扉を開けると、カランカランとベルの音が鳴る。


 奥から「いらっしゃい」と大柄で小太り気味な男が出てくる。


「やあ、ミッシェル。久しぶりだね。今日は何のご用かな?」


「おじさまも元気そうで何よりです」


 と笑顔で答える。


 ミッシェルというのは、私がこの街に来たときに使う名だ。


 実名を出さないのは、ちょっとした訳があるが・・・


「今日は回復薬と薬草を持ってきました。新しい回復薬もありますがどうでしょう?」


「どれ、拝見させていただこう」


 店主はポケットから老眼鏡を取り出し、私の薬を眺める。


「これはめずらしい!こんな半透明な回復薬は初めて見たよ。普段は不透明のものばかり扱っているからね」


「今回のものは骨折程度であればすぐ治ると思います」


「それはちょうどよかった。うちの息子が脚を骨折していてね。試してもかまわないかい?」


「ええ、どうぞ」


 そう言うと店主は息子を呼び、私の回復薬を一滴患部にかけた。


 すると、息子は立ち上がり、


「痛くない。もう治ったのか?」


 と脚を振り回しているが問題なさそうだ。


「これはすばらしい!こんな一瞬で治ってしまうとは」


 と店主は驚いた表情で言う。


「この回復薬にはいくらつければいいだろう?そこらにある回復薬とは段違いに効果があるぞ」


 あまりにも店主が悩んでいるようなので一声かける。


「では、こういうのはいかがでしょうか?息子さんの骨折の治療費と同じ額にするというのは」


「それでは他の回復薬と大差ないじゃないか。それは商人のプライドが許さない。よし、ではその3倍、いや5倍だそうじゃないか」


 店主の気迫に思わず首を縦に振る。


「では、代金をだそう。ところで、この前の風邪薬はあるかい?あれがなかなか売れてね」


「ええ、それも持ってきているわ」


「じゃあ、全部含めてこんなところかな」


 代金を受け取り、お礼を言って店を出る。


 結局、あの半透明の青い回復薬は金貨50枚で売れた。


 別にお金が欲しいと言うわけではないけど、自分の研究が認められたという点では素直に嬉しい。


 それから露店で調味料など必要な者を買う。


 森の中では塩や胡椒は取れないから、こうして購入しなければならない。


 調理器具も見てみたが、あまり良さそうなものはない。


 研究に使うフラスコや薬瓶などを買って、露店を後にする。






 港に出てみると、海の上には多くの船が浮かんでいた。


 船着き場にも大小さまざまな船が停泊している。


 道は人で賑わい、四方八方から声が飛び交う。


 そういえば以前食べた魚介がおいしかったな、と思い出していると、


「ミッシェルじゃない!こっち、こっち!」


 と声をかけられた。


 振り向いて顔を確認する。


「久しぶりね、ローラ」


「覚えていてくれたんだ。最後に会ったのはいつだったっけ?」


「半年ってところかしら?」


「まあいいや。とりあえずうちの店に来てよ。安くしておくから」


「なら、ぜひお邪魔させてもらうわ」


 ローラは海沿いに店頭を構える料理屋の娘で、以前も彼女の店で食べさせてもらっていた。


 年は私と同じぐらいだけど、快活でとても親しみやすい。


「さあ、着いた。入って、入って」


 と背中を押してくる。


 店に入ると、いきなり


「いらっしゃい!おっ、ミッシェルじゃねえか。いつ以来だ?」


 と声が飛んできた。


 筋肉質でバンダナを頭に巻いた男が笑いかけてくる。


「お久しぶりです。半年ってところですかね?」


「まあいい。適当に座ってくれや。おい、ローラ。メニュー出してやれ」


「はいはい、分かってるよ」


 この父親にして、この娘ありって感じだ。


「はい、メニュー。あ、今の時期だったらカキがおすすめかな。また決まったら声かけてね」


 そう言って、さっさと他の客のところに行く。


 何を食べようかと悩んでいると、突然大きな物音がして、


「てめぇ、ふざけんじゃねえぞ」


 と怒鳴り声が聞こえてきた。


 音のした方を向くと、ならず者の男たちが仁王立ちしているローラを見下ろし、にらんでいる。


「おめえらの出した料理に虫が入ってたんだ。どう責任取ってくれるんだよ!」


 明らかに嘘だと分かるいちゃもんだ。


 店内では外から様子が見えないのをいいことに、かなり強気になっているのだろう、と考えていると、


「当店では虫を使った料理は出しておりませんが、お客様の目は節穴でしょうか?」


 私は頭を抱えた。


 そうだった、この子はこういう子だったと。


「この女が!」


 と男の一人が拳を上げる。






 男の拳がローラに当たる前にその腕をつかんで止める。


 男は驚いた表情を見せた。


 私のような女に止められると思っていなかったのだろう。


 少し手に力を入れると、男は慌てて腕を振り払う。


「なんだ、お前は!」


 男たちが戦闘態勢をとる。


 私は深くため息をついた。


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