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只今、監禁中です  作者: やと
第二章 監禁生活のはじまり
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「――はッ!?」


 待てよ。逆転の発想だ。

 巫女は本性を隠していたのではなく、俺に心を開いたのではないか?

 俺のという人間の器の大きさを悟り、この人なら私の全てを曝け出しても大丈夫だわ、的な。


 おいおいハニー。そういうことなら最初から言ってくれよ。

 俺はどんな君でも優しく包み込むさ。


「巫女、俺は全部分かっているぞ。さあ、恥ずかしがらずに俺の胸に飛び込んでおいぶはあッ!!」


 思い切り顔面をビンタされました。


「いってーな! 何すんだよ!?」


 俺はヒリヒリと痛む頬を赤くさせ、噛み付く勢いで怒りをあらわにする。ビンタの勢いで首が千切れるかと思ったぜ。


「さっきから勝手に自己解釈をしているようだけど、アンタみたいな低俗教育を受けた低脳如きの底辺野郎がどれだけ一生懸命に考えたところで分かるはずもないんだから諦めなさいよ」


 そう諭す巫女に苛立ち、糸が切れたように声を張った。


「うるせえ! 人を低俗だの底辺だの見下しやがって! だったらさっさと教えろよ! この手錠は何だ!? この女の子は誰なんだよ!? 一体お前は何がしたいんだよ!!」


 溜まった不安やストレスを発散するように、抱く疑問の全てを巫女にぶつけてやった。

 俺だってそれなりの常識はある。どうにかポジティブに物事を捉えようとしていても、この状況の異様さは受け入れがたいのだ。


「……」


 巫女は返答することなく静かに立ち上がり、ベッドの横に置かれたタンスの方へと歩いて行った。

 そしてタンスの引き出しから何かを取り出したかと思えば、再び俺の前へと歩み寄ると――、


「ほごっ!?」

 突然口の中に、鉄のような硬い物体を押し込まれた。

 それが黒光る『拳銃の銃口』であることに気が付いたと同時に、巫女は悪魔のような目つきで口を開いた。


「吹き飛ばすわよ」


 なんてこったい。


「あわわわわわっ!」


 嘘でしょ?

 まさか本物ってことはないよな?

 ここは日本だぞ。ジャパンだ、平和の国なんだ。

 暴力団じゃあるまいし、一般人が持っているはずもない。

 モデルガンだ。

 モデルガンなんでしょ!?

 モデルガンって言ってくれよ!!


「一応言っておいてあげるけど、これは偽物の銃よ。さすがにアモゾンでも六天でも売っていないしね」

「……」


 何だ、やっぱりモデルガンだったのか――と安堵したのは束の間、


「だから、自分で遊戯銃を改造して作ったの。殺傷能力は本物と変わりないけどね」


 もうそれ本物じゃん!


「あご、あうげぺくばばい!」


 俺は涙目で助けてくださいと懇願する。

 実際問題、偽物であったとしてもこの恐怖感が無くなるわけではない。とにかく銃口を口の中から出してほしい。


「モゴモゴと何を言っているのか分からないわね。撃てばいいの?」


 耳腐ってんのか!


「ふあうふあう! うははいへ!」


 違う違う撃たないでと、小刻みに首を横に振って訴える。これだけ態度で示していれば、いくら言葉が分からなくても察するだろう。


「撃ちまーす」


 察 し ろ や あ ぁ ぁ!!


「なんつってね。朝一から脳みそをぶちまけることなんてするわけないでしょ。いちいちビビってんじゃないわよ」


 巫女は俺の口から銃口を抜き出した。銃口が離れて多少の安堵感は得たものの、まだまだ安心は出来ない。

 呆然として、佇む巫女を見上げる。


「さすがに分かったとは思うけど、私に逆らうということは寿命を縮めるということになり兼ねないわよ。それと、あまり大きな声を出さないでくれるかしら。イライラするの」

「……はい」


 これは本格的に、俺はこの状況に危機感を持たなければならない。

 銃を向けられるなんてこと事態当然生まれて初めてのことだが、銃口が離れた今もまだ、俺は巫女に心臓を握られているような思いだ。

 悪い夢なら早く覚めてほしいけど、おそらくこれは俺の人生最大のピンチである。

 銃を構えた時の巫女の目には微塵の優しさも感じられなかった。俺と対等でないことを態度で示唆していたのだ。


「分かればいいのよ。大人しくさえしていれば、必要以上の苦痛を与えるつもりはないわ。ふわぁ……」


 口に手を当てて、大あくびをする。


「はあ……昨日はあまり眠れなかったから疲れが取れ切れてないわ」


 巫女は気だるそうにベッドまで移動して座ると、銃をソファーの上に投げ飛ばす。


「鰻子、私はもう少し寝るから、その馬鹿の話し相手でもしてやりなさい。ただし、絶対に部屋から出したら駄目よ。約束」


 まぶたを半分閉じた眠そうな顔で、巫女は俺の横に座っている鰻子を指差した。


「分かったんだよ!」


 元気の良い鰻子の返事を聞くと、巫女は目を閉じてベッドに仰向けになった。


 ……。


 何事も無かったかのように静寂が訪れる。

 俺は動悸が落ち着くまでの間、視線の先で寝ている巫女を呆然として眺めていた。


「金也。鰻子とお話をするんだよ」


 秒針が一周もしない内に鰻子が静寂を破った。相変わらずニコニコと微笑みかけてくる優しそうな女の子だが、巫女のせいで俺は警戒心を持ってしまう。

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