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「で、金也」
「え、あ、はい?」
「さっさとお願い事を決めなさいよ。私が料理を作るまでに決めなかったら、股間におたまをフルスイングしたのちに電流攻撃よ」
そりゃ大変だ。そしてそれを想像できるのがまた悲しい。
「ああ、だから……」
先ほどは変なタイミングでおかしな情報を得たせいもあり言いそびれてしまったが、やはりこれといった願い事なんて思い付かないので明日のことを訊こうとした。
だが!
「あぁぁっ!?」
またも変なタイミングで、俺の口は言葉を失った。とても大切なことを、今になって思い出したからである。
「ど、どうした金也? 急に叫んだりして……」
突発的に声を上げた俺に花村は少し体を引いていた。キッチンに立つ巫女も、水道を開きっぱなしで俺を凝視している。
だけど俺にとってそんなことはどうだってよく、今頭に思い描いていることを巫女が聞き入れてくれるのかどうか、それを考えていた。
「一体何なのよ?」
「ああその……あのな……」
巫女からの問いに口ごもりながら、俺は今日が何日なのかを頭の中で計算していた。巫女と合コンしてたのが十六日だったから、十七、十八、今日が十九日。
十二月十九日だ。
「ちなみ今日は十九日だよな?」
念のために花村に訊く。
「ああ、そうだけど」
「だよな……」
あと二日か。脱走を考えるよりは、巫女に頼んだ方がいいか……でもな……。
「ちょっと、いい加減にしなさいよ。言いたいことがあるならはっきりと言いなさい」
巫女がしびれを切らしてるので、このまま話さないわけにはいかないか。
「いや……実はさ、二十一日って妹の命日なんだよな」
「妹の命日?」
巫女は眉をひそめる。
「そ、妹。六年前に死んでから──まあ当たり前なんだけど、毎年墓参りに行ってるんだ」
「それで、墓参りの為に外へ出たいってことか?」
花村が予測して訊いてくる。
「ああ」
「巫女、こればかりは仕方ないんじゃないのか? 金也の家族にまで迷惑をかけるわけにはいかな──」
「いや! 家族のことは別にいいんだ。ただ俺だけでも墓参りに行けたらいいなーってだけの話で」
助け舟を出そうとしてくれた花村の言葉を遮り、俺は自分の意見を主張する。
「どうでもいいってわけにはいかないだろ。毎年家族と一緒に行っているんだろ?」
「それが行ってないんだよ。一人で行ってる。ま、そのー、深い事情ってのがあってだな……」
とつとつと話しながら、気まずい俺は視線を落とす。
すると、「……」
じーっと、パソコンモニターに映るミコリーヌが俺を凝視していた。そういえばこいつは色々と知っているんだったな。何も話さなければいいんだけど……。
「ま! どのみち今日はそんな願い事を聞き入れることはできないわね」
と、淀んだ空気を裂いた巫女の言葉は叩きつけるように俺を落胆させる。
「おい巫女、わがままがすぎるぞ」
花村が即座に反論してくれた。
「誰がわがままよ。私はただ明後日の願い事を今日言う必要が無いと言っているのよ。せいぜい明日までのことにしときなさい」
「え、じゃあ裏を返せば、明後日そう願えば叶えてくれるのか?」
息を吹き返したように俺は訊く。
「そうね。断る理由がまるでないもの」
「そっか……良かった」
一時は諦めるしかないと思ったが、ただの屁理屈で安心した。どうやら巫女にも人の血が流れてるようだ。
「それで納得したのなら、今日のお願い事をマッハで決めなさい。さもないと花村も一緒に電流攻撃におたまフルスイングよ」
「俺も!?」
「仕方ないじゃない。そいつが優柔不断なんだから」
俺のせいなのかよ。
「金也、早く決めるんだ!」
自分にも火の粉が降りかかるということになり、花村が必死な表情で俺に迫ってきた。一度くらいはお前も電流食らってみろ、という気持ちがなくはないが、俺自身が食らいたくないのですぐ答えなければ……。
「そうだな……」
三度目の正直として、今度こそは明日のことを聞いてやろうと口を開いた──つもりだったが、
「明日ミコリーヌも一緒に連れて行ってあげてくれ」
そう巫女に願いを告げた。理由はそう、ミコリーヌの機嫌取りである。
「へ?」
予想外な展開だったろうミコリーヌの顔は、ひと筆書きが出来そうなくらいに単純なものになっていた。
「は? またその子に気を遣うの……アンタどんだけアホなのよ。まあ別に、それでいいのなら構わないけど」
どうにか巫女は聞き入れてくれたようで、料理の準備を再開した。
「……一体どういうつもりですか?」
先ほどにも増して、ミコリーヌが俺を凝視する目が据わっている。
「行きたい! ってバカ正直に顔へ書いてあったぜ。どうせ願う事なんて思い付かなかったし、気まぐれだよ、気まぐれ」
なんて答えたけど、本当はミコリーヌの機嫌を取ることで、怒り任せに余計なことを話す危険性を減らす為に願ったのである。
「……ああアレですか、口止めですか」
「!?」
もうバレたのかよ。俺の顔もバカ正直のようだな。
「口止めってなんだ?」
花村が食い付いた。
「いえ、何でもありませんよ。私はそもそも、何も話す気などなかったのですからね」
「???」
ミコリーヌの言葉が理解できない花村は疑問符祭り状態だ。もちろん、俺にはミコリーヌの言っている言葉は理解できている。借りなんて作るつもりはねえぞバカヤローと言うことだろう。
まあそれでも俺は、別に構わないんだけど――ミコリーヌを信用すべきだったなという後悔の念はわずかに抱いていた。




