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只今、監禁中です  作者: やと
第五章 殺し屋
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20


「アンタが、誰と会うって?」

「っ!?」


 いつの間にかキッチン横の廊下のそばに立っていた巫女に花村と俺は体をビクつかせた。


「音も立てずに入ってくるなよ。びっくりしたじゃねえか」

「どう入って来ようが私の勝手でしょ。単に途中で鰻子が見えたから、極力音を立てないようにしてあげたのよ」


 と言う巫女の視線を追うと、トランプタワー二段目に突入している鰻子を確認した。こちらには見向きもせず、すごい集中しているのが分かる。


「で、アンタが誰と会うって?」

「京香だよ、京香。どんな奴か気になるんだってさ」


 花村が答えた。


「京香? どうして京香が気になるのよ。アンタに話したことはなかったはずでしょ」

「話してないからこそ、ちょっとだけ気になっただけだよ。でも別に会いたいわけじゃねえからな」


 巫女だけでも大変なのに、それ以上に厄介な奴なんかと会いたくはない。


「ふーん。まあ本人はアンタに会いたがってるみたいだけどね」

「え……俺に?」


「ええ。まあ心配しなくても、すぐにどうこうなることはないわよ。京香の遊びに付き合ってる暇は無いんだから。そんなことより──」


 巫女はそっと鰻子のいるテーブルへと歩み寄り、向かい合うように腰を下ろした。


「ねえ鰻子、明日は一緒に外へ出かけるわよ」

「………………了解だよ」


 返事はしたが、鰻子は巫女に目もくれない。目の前のトランプタワーを完成させることに必死である。


「約束した通り、動物園と、水族館と、遊園地に連れて行ってあげるからね」

「ホント!?」


 鰻子は眩しいほどの笑顔を輝かせて立ち上がる。その反動で地道に積み上げたトランプタワーは一瞬で崩れ去った。


「ええホントよ」

「やったー! 嬉しいんだよ!」


 鰻子は巫女に抱きつき、嬉しそうに頬をこすり合わせた。


まさか本当に連れて行くつもりだったなんてな。ちょっと見直したかも。


「急だな。でも行くったって、一体どうやって行く気だよ? 俺明日仕事だぞ」


 花村は巫女の話を先読みして、自分が足代わりにされるとでも思ったのだろう。


「あら、そうだったっけ?」

「そうだよ。車なら別に貸してもいいけど、金也は運転できるのか?」


「あ……いや、俺は……」


 免許すら持っていません。


「そっか。なら、うちの後輩に頼んでもいいぞ。それかいつも世話になってるタクシー会社に話してみてもいいし」

「んー、今回はその厚意を素直に受け取ってアンタに任せるわよ。お金はちゃんと払うから」


「ああ、任せとけ」

 親指を立てて白い歯を見せる。


 ……と。

 なんだか背にあるパソコンのモニター画面からヒシヒシと嫉妬の視線が感じるんだが、今は絶対に振り向かない方が良さそうだな。


「あれ? そういえばお前、明日はかくれんぼをするだとか言ってたろ」


 自ら訊くべきではなかったのかもしれないが、そう思った時にはもう訊いてしまっていた。


「ええするわよ。アンタだけね」

「俺だけ!? 一人でかくれんぼすんのか!? 恥ずかしいんですけど!」


 期待を裏切るような物忘れはなく、しっかりと計画は立てているようだ。


「うるさいわね。後頭部の髪の毛吹き飛ばすわよ」


 なんで後頭部だけなんだよ。


「普通のかくれんぼじゃないと前もって言ってるんだから、今さらアホみたいに驚いてんじゃないの」

「だって今の話を聞いてると、てっきり俺も一緒に動物園へ行くのかと思うだろ」


「監禁されてる分際で私とデートできるとでも思ったの? イカ臭いわね」


 鼻を摘んで眉をひそめた。


「な、何がデートだ。そんなもんこっちから願い下げだっての!」


 俺は腕を組み、巫女に背を向ける。


「……ん?」

「巫女のデートを願い下げだとか、貴方ごとき俗物が何をほざいているんですか? 頭上に人工衛星落下させますよ」


 正面にあるパソコンのモニターでは、顔の筋肉を痙攣させているミコリーヌが俺を睨みつけていた。


 板挟みである。


「あー鰻子は明日が待ち遠しいんだよ。早くフラミンゴが見たいんだよ」


 なぜフラミンゴ。


「ちゃんと見たいものは考えておきなさい。三カ所も回るんだから、無駄な時間はないわよ」

「分かったんだよ。忘れないように紙に書いてくるんだよ!」


 鰻子はトランプをテーブルに散乱させたまま、高揚する気持ちを表すようにスキップをしながら部屋を出て行った。


「……あのさ、素朴な疑問なんだけど、どうしてわざわざ一日で三カ所も行くんだよ。ゆっくり出来るよう日に分けて行けばいいじゃねえか」


鰻子が部屋から消えたところで、俺は机にひじを立てて頬杖をつき、ふてぶてしい態度で訊いた。


「庶民が年末の大型連休に入ると人が混むじゃない。明日ならまだ少ないだろうし」


 そうか、もうそんな時期だったな。


「なるほど。で、俺が明日する『かくれんぼ』って何をするんだ?」

「話すわけないでしょゴミクソ」


「ちっ」


 やっぱり駄目だったか。会話の流れのまま言ってくれることを僅かに期待していたが、巫女には通用するわけもないな。


「そうそう。アンタ、今日のお願いは決まってるの?」


 このタイミングでそれを訊くのか。


「じゃあ今日のお願いとして、明日なにをするのか訊いたら教えてくれんのか?」


「ええ、それなら構わないわよ。そんなことでいいのならね」

 テーブルのトランプを片付けながら答えた。


「それなら──」


 これといって願い事なんてないので、本当に明日のことを訊こうとした、のだが。


「巫女『うでごろし』が完成したよ」


 唐突に脈絡の無い、聞き逃すわけにはいかないミコリーヌの言葉に口は閉じてしまった。

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