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只今、監禁中です。  作者: やと
第五章 殺し屋

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18


「いやいや、花村だってあの現場にいたらそうおもっ……」

「ん?」


「ああ……いや、俺から説明するのはなんか違うと思うから、気になるなら巫女に直接聞いてくれよ」

「何だそれ?」


「学習したってことだよ」


 またミコリーヌに嫌味を言われるのはしゃくだからな。


「何だかよく分からないけど、まあいいや──っと、俺の勝ちだな」


 トランプ最後のペアを花村がめくり、神経衰弱に決着がついたようだ。


「また負けたんだよ。花村は大人げないんだよ」


 鰻子はふてくされるように頬を膨らませる。


「そう言うなよ鰻子。わざと負けるよりはマシだろ」


 花村はテーブルに置かれたトランプを集めながら言う。


「そういうものなの?」

 鰻子は首を傾げる。


「そういうものなの」

 トントンと、まとめたトランプを机に叩いて整えた。


「さてと、金也もするか? 神経衰弱」

「いや、俺はいいよ。それよりもさ、ちょっと話を聞いてくれないか?」


 俺は頭が冴えてきたと同時に、思い出したくないことを思い出してしまったのだ。それはもちろん、かくれんぼのことである。


「話? なんだよ」


 体を花村に向けて、「実はさ、巫女がまた変なことを企んでいるみたいなんだけど……」


「それはいつものことだろ」

「まあそうなんだけどさ……」


 俺はどういう経緯で巫女がそんなことを言い出したのか、それを花村に説明した。


「なるほど、金也に決断力をつける為にかくれんぼをするのか。まるで意味が分からないな」


 クククと、人の気も知らないで鼻で笑う。


「おいおい、俺は本気で不安なんだぜ」

「ごめんごめん。でもその割には爆睡してたじゃないか」


「そ、それとこれとは別だろ。とにかく、花村は何も知らないんだな?」

「ああ、俺も常に巫女から話を聞いてるわけじゃないしな。でも大丈夫だって、最悪でも死ぬことはないよ」


 そう言われたら、死ぬ以外のことは何でもあり得ると思ってしまうだろ。


「はぁーあ。スターに相談すればそれなりに情報が得られると思ったんだけどな」


 両手を後頭部で重ね、後ろに体を倒して仰向けに寝転がる。


「そんなことを俺に期待しないでくれよ。スターと言えど、俺だって分からないことだらけなんだからさ」

「そうは言うけど、友達と言うならもっと親身になって考えてくれよな。それとも、俺が女だったら一緒に悩んでくれたのか?」


「何だよ、その言い方。トゲがあるぞ」

「ネット上のあちらこちらに書き込まれてたぜ、花村結城は共演者食いで有名だって」


「なぬぃ!?」


 目玉が飛び出すかのような勢いで反応すると、花村は四つん這いで俺のそばへと駆け寄った。


「どこだ! そんなデタラメなことが書き込まれているのは!?」


 まさかこんなに激しく反応を示すとは考えてなかったので、少し俺は体が竦む。


「デタラメって、一度くらいはあるんじゃねえの?」

「ないよ。友達になることはあっても、そんなことになった女優は一人もいないって。事務所厳しいんだぞ」


「ほんとに?」

 怪訝な表情で訊く。


「ほんとだ」


「美々原貴恵ちゃんも?」

 さり気なく訊いた。


「……お前、それを疑っていたから機嫌が悪かったのか? 心配するなよ。昨日も言ったけど、貴恵は妹みたいなもんだから、今後もそういうことになることはない」


 そう言うふうに断言する芸能人が、数年後に結婚しましたなんてよくある話だろ。

 まあどちらにしても、それが俺にとって何なんだって話なんだが……花村だけはなんか嫌だな。


「そんな人を疑うような目で見るなよ。確かに俺はスーパースターだからモテはするけどさ、共演者にだけは絶対に手は出さない主義なんだ」

「それはそれで怪しいな」


「ハァ……清く正しく生きていても変な疑いかけられるのってのは、スーパースターの宿命だと分かってはいるんだがな」


 息を吐きながら額に手を当て、わざとらしく首を振った。


「しかし、キムタキの奴こそ共演者に手を出しまくっているというのに、ワイドショーでは流れないんだよなー」

「どうせアレだろ、事務所の力とかで事前にもみ消してんじゃねえの?」


「いや、俺達って同じ……事務所なんだよね」

「あ……そっか」


 地雷を踏んじまった。


「俺って、やっぱりキムタキよりは大事にされてないのかな……まあ同期と言っても、キムタキの方が若いし。そりゃそうかな……ふへへ」


 マズい。思った通り、花村の悪い症状が出てきた。


「そそ、そんなことはないんじゃねえの? ほら、それぞれ売り出したいイメージとかってあるんじゃないのか?」


 体を起こし、花村の治療を試みる。


「共演者を食うイメージって、事務所は俺をアダルト男優路線に進めようとしているのか……?」


 それは極端すぎるだろ。


「お前、俳優よりも脚本家に向いてるんじゃねえの?」


 からかうようにそう言うと、花村はこうべを垂れて、「脚本家か。それもいいな」


 良くねえよ。


「おい、昨日ハリウッドに行くとか意気込んでたのはどこの誰だよ。ファンの為に頑張るんじゃなかったのか?」

「はっ……!」


 花村は目を見開き、頭を上げる。


「そうだ、俺には俺を愛するファンがいた!」


 もう忘れてたんかい。そんな頭でよく長いセリフを覚えられるな。


「金也の言う通りだ。危うくまた自分を見失いそうだった」


 見失ってたよ。


「俺を愛する素敵なファンたちは、きっと俺がアダルト男優になっても応援してくれるはずさ!」

「そういうことじゃないと思うぞ」


「金也! 俺は失敗を恐れず、事務所のキムタキ優先方針にも揺るがず、いつか必ず事務所で文句無し、歴代最高の看板スターになってやる!」

「好きにしてください」


 立ち上がり、そう声を張って意気込みを見せる花村だったが、中央のテーブルでトランプタワーを作っていた鰻子には大迷惑だったようで……。


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