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只今、監禁中です  作者: やと
第二章 監禁生活のはじまり
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「巫女……だよね?」


 一応恐る恐る訊いてみるが、訊いたことをすぐに後悔することになる。


「あ?」


 巫女は不機嫌そうに眉根を寄せ、俺の肩を右足で踏みつけた。


「ぐぉ!」


 力強く肩を踏み込み、痛みに顔を歪める俺を冷たく見下ろす。


「もう一度言ってみなさい、カス」

「……」


 時が止まるとは、このことか。

 きっと俺の黒目は小さな点になっていて、全身の穴という穴が緩んだ表情になっているはずだ。

 それほどに、受け入れがたい言動を巫女は発したのだ。


「み、み、巫女……巫女様ですか?」


 巨大ロボットを動かすニュータイプのパイロットかの如くプレッシャーを与えてくる巫女に圧倒されてしまって自然と敬語になる。


「ほがっ!」


 一体何が気に食わないのか、巫女は肩に乗せていた右足で、今度は額を踏みつけてきた。

 アングル的には最高だが、これはさすがに屈辱的すぎる。


「朝起きたらまず挨拶をしなさいよ。一体どんな低俗な教育を受けてきたわけ?」


 まさかそんな理由で頭を踏まれているとは思わなかった。


「……」


 目が、本気ですね。

 何か言い返してやろうかと思ったけど、嫌な予感がした。


「おはようございます」

「五月蝿い」


 悪い夢なら早く覚めてくれ。


「ったく、朝っぱらからふざけんじゃないわよ。言っておくけど、同じ間違いを繰り返したら殺すから」


 巫女は俺の頭から足を退け、おもむろにキッチンの中へと入っていく。

 そして冷蔵庫からペットボトルのオレンジジュースを取り出して飲み始めた。

 その一連の動作を無言で眺めていた俺が視線を横にずらすと、そこには未だにニコニコと俺を見つめる鰻子がいた。


 さて、なんだこの状況は?


 一体何から整理して、どう解釈すべきなのか……寝起きの冴えない頭ではその答えまで辿り着けそうにない。

 巫女に訊くのが一番手っ取り早いってのは分かっているけども、あの不機嫌な面を目の当たりにした今の心境では訊きづらいのが本音だ。


 だからと言って、この鰻子とやらに訊くのはナンセンスだろう。

 何が面白いのか、人の顔を見ながらニコニコしやがって。可愛いという点では一致しているものの、顔が似ているわけではないから巫女の妹ではないと思う。

 複雑な家庭環境でなければ、だが。


「なに呆けた面で鰻子をジッと見てんのよ。もしかしてアンタ、ロリコンなの?」


 キッチンから出てきた巫女が俺を蔑視べっしする。内容はあれだが、話をかけてくれたことでこっちからも話をかけ易くなった。


「いや、そういうわけじゃくて。その……この子は誰なんですか?」

「興味があるのね。やっぱりロリコンなんじゃない。最低。アンタみたいなのは犯罪者予備軍と呼ぶのよ。一生その性癖は世間で認められることがないのだから、今すぐここから飛び降りて死ねばいい」


 無茶苦茶だし、飛び降りられないし。


「別にロリコンじゃねえから」

「冗談よ。真に受けるところがむしろ怪しいわねカス」


 駄目だ。

 こいつもまともに会話が出来ない。無駄にストレスだけが溜まっていく地獄のボーナスステージだ。


 しかし、本当にこの女は昨日出会った女神こと本間巫女なのだろうか?


 ……。


 ……はっはーん。

 なるほど、読めたぞ。

 実は巫女は双子で、今目の前にいるのは双子の姉か妹のどちらかだな。きっと今朝この部屋に訪れて、咄嗟にこんな悪戯を思い付いたのだろう。

 おそらく本物の巫女は洗面所辺りで笑いを堪えながら隠れているに違いない。

 さしずめこの鰻子は近所に住む外国人夫婦の娘とかだろうな。きっとそうだ。絶対そう。


 まったく、可愛い悪戯を考えるもんだぜ。

 だけど、さすがにもういいぜ。

 そっちからネタバレしてくれないと言うのなら、こっちから終わらせてやるよベイベー。


「ふう……わかったわかった。もうドッキリは止めにしようぜ。本物の巫女が洗面所に隠れているのはバレバレだぞ」


 そう悟ったように話す俺に、自称巫女は哀れむような視線を送ってきた。


「馬鹿じゃないの」


 ですよね。


「何を言い出すのかと思えば……アンタもしかして、私が双子だとでも思っているの?」


 巫女は俺の三歩前でしゃがみ、両手で頬杖をつきながら見つめてくる。その姿からは先ほどまでの妙なプレッシャーは無く、話しかけ易い空気感を漂わせる。


「だったら、本当お前は昨日合コンで知り合った巫女だって言うのかよ? それにしては何ていうか……雰囲気が全然違うと思うんだけど」


 怪訝な顔で見つめると、巫女は鼻で笑った。


「ふふ、アホね。どう見ても巫女そのものじゃないの。視覚情報の処理が正常に行われてないのかしら。頭開いて視てあげようか?」

「じゃあ……本当に、巫女なのか?」

「そう言ってるじゃない」

「ドッキリとかじゃなくて?」

「二度も言わせんじゃないわよカス」


 どうやら、本当臭いな。


「はぁ……」


 なんてこったぁ……騙された。

 ということは、昨日までの可愛らしい巫女は全て演技だったということかよ。女は生まれながらにして皆女優らしいが、ここまで分からないものなのか。

 女怖いよ。トラウマになるよ――って、いやいや。

 別に強気な性格の女も悪くないよな。むしろ強気な女に責められるというのは個人的にアリだ。

 化粧を落としたら顔が別人でしたとか、そういうスッピンサプライズに比べたら全然マシだ。

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