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「……なんて非道な奴だ。俺達の中で一番腕相撲の強かった大五郎を真っ二つにしやがった」
「やべぇ……あいつぁきっと人間に扮した悪魔だ。人を斬りながら奇声を上げるとか、相当アタマがイカれてるぜ」
「脅すつもりで皮を剥ぐとか口にはするがよ、実際にあんな残虐なことは絶対に出来っこねえ……悪魔だ。誰かエクソシスト呼んでこいよぉぉ!」
誰か今すぐに耳栓を買って来てくれ!
「おいお前ら、あんなやべえ奴を一人で相手にするのは無謀だ。こうなりゃ三人で一気に攻めるぞ。まずは俺が……」
三人いる盗賊の一人が、何やらを俺を倒す算段を立てているようだ。こういう意味では耳栓は不要なのだが……。
「いざとなったら俺が体で奴の刀を止める。そしたらお前たちは俺に構わず、奴を殺せ!」
「兄者! そんな馬鹿なことを言っちゃあ駄目だ。それなら三人同時に立ち向かい、一緒に殺された方がマシだぁ!」
「そうだよ兄者、俺達はいつも一緒だったじゃねえかぁ!」
「お、おま、お前らって奴ぁ……」
丸聞こえな盗賊達の会話を聞いて、俺の刀を握る手がゆるんだことは言うまでもない。本当にこの盗賊達が悪者なのかさえ疑いたくなる。
事実、現状だけを見れば完全に俺の方が悪者だしな。
「よっしゃぁぁ! 行くぞお前らぁ! 腹黒い三連星と言われた俺達の力を見せつけるぞぉぉ!」
頬叩いて気合いを入れる盗賊。どうやら話し合いは終わったようだ。
「覚悟しろやゴラァァ!」
「やったるぞ糞ガキがぁぁ!」
「手加減せぇやオラァァ!」
結局、盗賊は仲良く三人で突撃してきた。奴らは勝手に俺を過大評価しているだけなので、余裕で返り討ちにできるような展開はまず有り得ない。
俺は迫り来る盗賊達にあたふたして、助けを求めるように花村を見る。するとそこには、三人どころか五~六人もの盗賊を相手に格闘している花村の姿があった。
ライフポイント1で戦うという発想があること自体がおかしいってのに、複数の相手に、しかも互角に渡り合っているなんてもはやB級映画の光景である。
ゲームの補正で身体能力が上がっているにしても、花村は普通じゃあないな──と、スターを眺めている場合じゃない。
あんな勇ましい姿を見せられては、俺も一人の男として負けてられない。痛みを負うことが本能的に怖いが、不死身な俺が怯えるほど情けない話はない。
「って、うわぁぁぁあ!」
悪い癖だ。脳内で色々と思考していた間に、いつの間にやら盗賊達は俺の目の前で攻撃体勢に入っていた。
一人はナイフを上から斬りつけるように振りかざし、一人は横からナイフで脇腹を刺すように迫り、一人は刀を持っている右腕を狙っている。
しかし、それが分かっていても、完全に油断していた俺にその攻撃を避けることは不可能だった。
「ぐっ!?」
無情にも、俺の頭、右腕、脇腹の三カ所同時に盗賊のナイフが突き刺さってしまう。
盗賊達はナイフを俺の体に残したまま、四歩ほどの距離を取った。
「うぁぁ……っ!」
三カ所同時にナイフが刺さったということよりも、額にナイフが刺さったということが一瞬俺の冷静さを奪い去った。ただ、すぐにその冷静さは取り戻すことになる。
「……あれ……痛くない」
頭も腹も痛みはなく、刺さっているという気持ちの悪い違和感だけが唯一与えられる感覚だ。ただ、腕だけはつねられたような痛みがある。まあいずれにしても、何てこはないってことに変わりはない。
おかげで少し気は落ち着いたのだが、新たな問題が発生する。それは、刺さったナイフが全然抜けないことだ。
まるでカブトムシの角みたいに刺さったナイフを引っこ抜こうと試みるが、いくら力を入れても微動だにしない。
「おい! どうしてくれんだよこれ、全然抜けねえじゃん!」
樽に入った海賊の玩具を彷彿とさせる自分の格好悪い姿に腹を立て、呆然として正面に佇んでいる盗賊達に文句を言う。
「ど、どうしてそんな状態で生きてやがるんだ……」
「やべえ、やっぱりコイツやべえよ!」
「こんな奴まともに相手するのがおかしいって、勝てる見込みがまるでねえよ兄者!」
こちらの苦情なんて知ったこっちゃなさそうで、盗賊達は化け物を見るような目で俺に怯えていた。
「それにあっちも見てみろよ! たった一人で八人も倒してんじゃねえか!」
そんな盗賊の言葉を聞いて後ろを向くと、山積みにされた盗賊達に腰掛けて俺に手を振る花村の姿があった。
あいつも大概チートすぎるな。もう絶対に現実では喧嘩を売らないようにしよう。
「……みんなには悪いが、ここは逃げるぞ。俺だけならまだしも、お前らまで無駄に死ぬ必要はねえ」
残ったのは自分達だけ、適切と言える状況判断をする盗賊。ほかの二人もさすがに反論はなかった。
不死身の男に、崖っぷちで自らの命を惜しまない格闘馬鹿を目の当たりにした奴らの慄然とする心中を察しよう。
「逃げるんだろ? ならさっさと行けよ」
近くにいる俺を警戒してなかなか足を動かさない盗賊に逃亡を促した。戦わずに済むというのなら、それに越したことはない。
「後ろから攻撃しねえだろうな……?」
「心配しなくてもしねえから、気が変わる前に早く行けって」
疑う盗賊に改めてそう伝えると、ゆっくりと外へ向かって歩き出した。
花村と目が合うと、逃げる盗賊達を逃がすべきなのか否かを示唆するように指を差していたので、俺は見逃すようにと首を横に振る。
……。
「ギャァァァア!!」
「なっ!?」
突然、洞窟の入り口から勢いよく渦巻く炎が走り、逃げようとしていた盗賊達はそれに呑まれた。
あまりにも唐突な出来事に困惑する俺と花村──漂う煙が晴れてきたその先に、目の前で起きた疑問の答えを発見する。
「ジャッジャーン! 魔法少女クリスタルバー・サン──を改め、貴方達をぶち殺す為に世界の裏側から舞い戻ってきた電脳少女ミコリィィィィーヌなんだぞ!」
最悪だ。




