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「お頭、泣かないで下さい!」
俺は盗賊の頭のそばに歩み寄り、その汚れた分厚い手を両手で挟むように掴んだ。
「お頭、感動する気持ちは察しますが、そろそろ俺の友達を離してやってくれませんか?」
「えっ!? ああ、そうだな。おい!」
お頭の声で、花村を人質にしていた盗賊がナイフを下ろした。花村はすぐに距離を取り、警戒するように身構える。
「おいおい、俺達はもう仲間なんだ。そんな警戒するこたねえよ。ほらお前もよろしくな」
表情を和らげて、握手を求めるように花村へと歩み寄るお頭。俺はそんな背を向けた盗賊のお頭を、「隙あり!」背後から刀でぶった切った。
「おがぁぁっ!?」
咄嗟の判断で思わず切ってしまったところ、お頭は奇声を上げたのち、煙となって消え去った。
思いのほか呆気なくお頭が死亡してしまった為、結果的に殺人を犯してしまったことは正直後悔だが、手に不快な感触はそこまでなく、攻撃する度にストレスが溜まるということは無さそうだ。
ただ、もはや問題はそこにはないって感じだがな。
「お頭ぁあああああ!!」
まさかの裏切りに一同騒然とする。分かりきっていた展開なので動揺はないけど、やはり湧き出る罪悪感だけはどうしようもないな。
「くそぉぉ! てめぇ、騙しやがったのか! なんて卑怯な奴だ!」
号泣しながら怒声を飛ばす迫力満点の盗賊の姿に、「うう……っ」俺は耳も心も痛い。
だけど、このまま罪悪感に押しつぶされては駄目だ。結果的に倒すべき相手なんだから、その過程まで真っ白でいる必要はない!
そもそも俺は勇者ではなく、単なる被害者なんだ。これは仕方の無いことなんだ!
俺は悪くない!
なんていう犯罪者特有の自己正当化を脳みそに擦り込みながら、悪人に成りきることの抵抗を少しずつ減らしていく。
その結果。
「盗賊相手に卑怯もクソもあるかよ。どのみちお前らもすぐにお頭の所に連れて行ってやるんだから、ギャーギャーと喚くんじゃねえ!」
悪人ぽく、どこかで見聞きしたような台詞を吐いてみた感想は、正直とても気分爽快だった。演じることって結構面白いかもしれない。
「お頭のとこへ逝くのはてめえだ! ありとあらゆる苦痛を与えてぶっ殺してやるからなあ!」
「皮を剥ぎ取って喰ってやろうかゴラァ!!」
盗賊共は大変お怒りのご様子。仮にもしも生け捕りにされたら、それこそ生き地獄だな。ライフポイントが無限ってのは必ずしも良いことでは無さそうだ。
「花村、お前は小石をぶつけられたら死ねそうだから、大人しく岩陰にでも隠れてろよ」
そう気遣って言う俺を、花村は据わった目で睨みつけてきた。
「金也……お前がそんな卑怯な手を使う人間だったとはな、ガッカリだよ」
「ひっで! 俺はお前を助ける為に仕方なくやったんだからな!」
「な、そうだったのか!? 俺はてっきり性根が腐っているのかと……」
残念ながら否定はできねえよ。
「ごちゃごちゃと余裕ぶっこいてんじゃねえぞオラぁあ!」
花村と言い合っていると、盗賊の一人がナイフを持ち構えたまま勢いよく俺に向かって来た。
頭では色々と戦いのシミュレーションはしていたものの、いざとなればビビってしまい、俺は慌てるように盗賊を避けた。
「あっぶね! 花村、戦わねえなら早く逃げ……」
ナイフを持った盗賊数人を相手にしながら花村をかばうことは出来ないと判断し、そう伝えようと振り向いた──しかし、俺の心配など無用だったみたいだ。
「さっきは油断して背後からやられたが、本気を出せばこんなもんさ。ははは!」
哄笑するスターの足元には、苦しみ悶える盗賊が二人倒れていた。格闘技経験は伊達じゃないようだな。
「お、お前瀕死のくせに無理すんじゃねえよ!」
「え……ああ、でも最大の防御は攻撃って言うだろ?」
漫画でしか聞いたことねえよ。
「ウラア!」
花村との会話を待ってくれるわけもない盗賊は、すごい剣幕で再度俺に襲いかかってきた。
瀕死かつ素手の花村が二人も倒しているっていうのに、武器持ちの俺が何もしないわけにはいかない。
「う、うりぁああ!」
迫り来る盗賊は、俺を切りつけようとナイフを振りかざした。その瞬間、反射的に盗賊の胴体めがけて刀を横に振り切る。
「どぉぉぉぉぉ!」と剣道の癖で思わずそう口にした。しかし、切られた盗賊の姿を見て、俺は沈黙してしまう。
視線の先には、ものの見事に胴体が真っ二つになった盗賊が地面に転がっていた。
流血をしていないだけマシだが、それでも十分にショッキングな光景だ。
そして、真っ二つになった盗賊は、しばらくも経たずに呆気なく煙となって消滅した。




