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只今、監禁中です。  作者: やと
第四章 仮想世界

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14


「……」


 だが、いざ盗賊の目の前で刀を振りかざした瞬間、俺は躊躇する。当たり前のように盗賊を倒そうとしていたが、これは殺人でもある。

 いや、ゲームなんだから割り切るべきだと分かってはいるのだけど、刀で肉体を切り刻むような、生々しい感触を得ることに躊躇してしまっているわけだ。

 普通の感情と言えばそうだろう。ためらいなく刀を振り下ろす方が精神科へ直行すべきである。


「ぐぬぬ……」


 俺はしばらく迷った末に、「シャアアッ!」と気合いの声を発しながら、刀の柄の部分を思いっきり盗賊の頭に強打してやった。


「ぐふっ!」


 盗賊は目を覚ますことなく、気絶するようにその場へ倒れた。

 昼に婆さんを倒した経験上、死亡=消滅だと思うので、おそらく死んではいないだろう。

 俺は草陰に隠れている花村を手招きし、こちらへ来るように促す。花村はこれといった警戒をする素振りも見せず、軽快なステップで駆け寄ってきた。

 そして倒れた盗賊を見るなり、俺に向かって賛辞の言葉をかける。


「さすが金也。よ、無職ゲーマー!」

「喧嘩売ってんのかお前」


「冗談だよ。ちょっと緊張をほぐそうと思っただけさ」

「お前との関係性がもつれそうなんですけど」


「まあそうピリピリするなよ。さ、早く中に入ろう。なんか興奮してきちまった。格闘家としての闘争心が駆り立てられちゃうって感じ? ははは」


 花村は笑いながら腕の筋を伸ばし、臆することなく暗闇の洞窟へ入って行く。単なる馬鹿なのか、それとも強靭な心の持ち主なのかの判断がしづらい男だ。

 まさかライフポイントが1だということを忘れてんじゃねえだろうな。


 ……。


「うわぁぁ! 金也たすけてぇぇ!」

「!?」


 洞窟内から花村の叫び声が轟く。俺は急いで洞窟の中へ向かった。


「おわわわ!」


 中に入り、広い空間に出ると俺は自分の足に急ブレーキをかける。

 宿屋の主人の話では、盗賊達は酔いつぶれて眠っているはず。

 だがしかし、今俺の目に映っている光景は、朝まで飲む気満々だったろう元気な盗賊達の姿である。

 ただし今はもう違う。焚き火を囲って宴を楽しんでいたようだが、俺達の侵入で完全に戦闘モードに入っていた。

 肝心の花村だが、盗賊の一人にナイフを突き付けられて人質になっていた。血の気の引いた顔を見るに、闘争心は殺がれてしまっているようだ。

 雑魚キャラにもほどがある。


「誰だオメエらは、一体何の目的だ? まさか迷い込んだなんて言い訳は通用しねえぞぉ」


 入り口にいた盗賊と同じ格好をした、盗賊の頭っぽい、趣味は人殺しと言わんばかりに厳つい顔をした男が俺を睨んできた。

 だが、蛇に睨まれたカエル状態である俺はすぐに返事はせず、花村をどう救おうか、そればかりを考えている。

 ライフポイントが1だから、ナイフが首を掠っただけでも死んでしまいそうな上に、盗賊の数も十人くらいはいる為、安易に行動できない。

 こうなったら……。


「突然すいませんお頭。実は僕達、この盗賊団に昔から憧れていまして──どうにか仲間にしてもらえないかぁと、思い切って訪ねてみたんです」


 手の皮が剥げるんじゃないのかと思うくらいに両手を擦り合わせ、腰を低くしながらゴマをする。


「なな、何だって……お、俺達に憧れているだって?」


 盗賊の頭は頬赤らめ、あからさまに口調が柔らかくなった。こりゃあまんざらでもなさそうだ。


「はいそれはもう! 王国からの物資を襲撃したり、村人を脅したり、到底同じ人間とは思えないような非道で糞みたいな人生を送っている皆さんを心から尊敬してます!」


 精一杯の演技力で媚びてみた。


「そ、そうか。どことなく馬鹿にされているような気もするが、尊敬してるなんて言われると照れちゃうよなぁ!」


 周りの盗賊仲間に言うように声のボリュームを上げて言う。大半はお頭に同調するように首を縦に振っていた。


「お頭! いくら何でも怪しすぎじゃあねえですか? 俺たちゃあ嫌われることはあっても好かれるこたあねえ」


 馬鹿ばかりかと思ったけど、中には冷静な奴がいたようだ。俺の額から冷や汗が流れる。


「馬鹿やろう! せっかく若いもんが俺達に憧れてくれてんだぞ! その純粋な気持ちを疑うんじゃねえ!」


 仲間の冷静さを無駄にするほど、盗賊の頭が馬鹿だったというのは嬉しい誤算だ。ただ、お頭の言葉に心が痛んだのも事実だった。


「すまなかったな。だが俺達はあいつの言う通り、人に好かれるような価値も、生き方もしてきてねえ。でもお前達はそんな俺達の生き様に憧れ、尊敬までしてくれた。……おれあ……おれあ……」


 やべえ……。お頭涙流しちゃってんぞ。

 見た目は懲役百年オーバーなのに、純粋な心を持っているってギャップあり過ぎだろ。少年の心を持ったまま大人になったってやつですか?

 まあ何にしても、実は嘘なんですなんて言ったら確実に目の色を変えて俺を襲ってくるだろう。

 油断した隙に攻撃をしてやろうと企んではみたが、こういう流れになってしまった以上はどうやっても俺が悪者だな。

 自分で蒔いた種だし、罪悪感に苛まれる展開は致し方ない。もうこうなりゃ割り切って、クズになってみるか。


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