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「モンスターって出ないのかな。またあの女の子とか」
さっき暗殺しに来ましたよなんて言えないので、「さあ、どうだろうな」俺は口を濁した。
「ていうかさ、あの魔法少女って昔あったアニメのキャラクターだよな。確か日曜日の朝にやってたのを見たことある気がするんだ」
花村の口から出た思いがけない言葉に、俺は過去の記憶を辿って考える。
「ああ! そうだそうだ、『レッドスリー』に出てたんだよ!」
思い出してテンションが上がった俺に呼応して、花村のテンションも上がる。
「そう、それそれ! レッドスリーの同級生で、よくヒステリックを起こした魔法少女クリスタルバー・サン」
「そうそう、他にも美人科学者とかいたよな。懐かしいな。でも、あれって俺が小学生くらいの時のだから、花村は……?」
「ああっと、俺は十七歳くらいだったかな。ちょうど引きこもってた時期だから、暇つぶしに見てたのかも」
空を仰視しながら黒の歴史を思い出す。
「……」
何か訊いてはいけないようなことを訊いてしまった感は否めないけど、このまま流れに沿ってみる。
「……話せたらでいいんだけどさ、どうして引きこもりになったんだ?」
「ああ、これといった理由はないよ。勝手に堕落して、勝手に人生に絶望したんだ。いわゆる中二病ってやつだな。社会の常識に抗うことがカッコイイと思ってたわけさ。馬鹿なガキだったよ」
淡々と答えてくれた内容は、馬鹿らしく思えながらも、なかなか共感できる部分があった。
俺にも、逆らうということがカッコイイと思っていた時期がある。
ようはただの反抗期で、その延長にあるのが中二病や犯罪なんだろう。まさにガキってわけだ。
「でも、今となっては良い経験だったんじゃないのか? 結果的にスターになってるわけだし」
「それは結果論だな。あの時真面目に勉強して高校に行っていれば、もっと選択肢は広がってたし、精神的な余裕もあっただろうから、より良い役者になれたかもしれない」
意外にも高校行ってないのか。大学に行ってないだけで劣等感抱いて後悔してた自分がアホみたいだな。
「いやいや、選択肢が狭まったことで、余計なことを考えず役者に集中できたんだよきっと。花村は役者になるべくしてなったに違いないよ」
「……何だよ気持ち悪いな。褒めても貴恵のサインは貰ってやらないぞ」
一歩俺との距離を広げ、眉を曲げた。
「勘違いするなって、褒めてねえよ。役者しか出来る職業が無いって言ってんだよバーカ」
頬を熱くして、あまのじゃくになる。
「はは、まあその通りであるな。役者は俺の天職だと思ってるし。金也は、何かやりたい仕事なんてないのか?」
「そうだなー。印税生活が理想だな」
「あったあった! 俺もそう考えて小説家を目指していた──引きこもってた時期がな! なははは!」
花村は腹を抱えて笑う。
「てことは俺の思考って引きこもりと一緒なのかよ……」
肩を落としてうなだれる。
「同じ思考でいいじゃないか。どんな馬鹿でも夢を見るし、叶えることだって出来るんだ。俺みたいにさ。よく言うだろ? 年齢や過去なんて関係ないんだ。傷付くことを恐れず、一歩を踏み出す勇気が大切なんだよ」
「……」
カッコ良すぎてムカつく。
「おっ、もしかして洞窟ってあれのことじゃないのか?」
花村は突然体勢をかがめて、前方の大きな岩場に指を差す。
よく見ると洞窟の入り口のようなものがあり──見張りなのか、その横に人らしき姿もある。
村から北に向けて歩いてきたつもりだし、ここが盗賊のアジトで間違いない。
「で、どうするんだ?」
「もう少し近付いてみようぜ」
ほふくでじりじりと、草原の茂みに身を隠しながら前へと進む。そして洞窟の入り口にいる盗賊の姿がそれなりに見えたところで止まり、花村との会話を再開した。
「寝てるっぽいな」
見張り役の盗賊は岩に寄りかかるように座り眠っていた。弓のような武器があれば、リスクを最小限に攻撃出来たけど、仕方ない。
「よし、とりあえずあの見張りは俺が行って倒してくる」と、刀を強く握って体を起こす。
「おー。勇気あるな金也」などと音の無い拍手をする。
「まあな」
ライフポイント無限だし。
今度はほふくではなく、腰を低くした体勢でゆっくりと見張り役の盗賊へ近寄る。
「グゴー……」
目鼻がハッキリと見えるほどの距離まで近寄ると、盗賊のいびきが聞こえてきた。盗賊は獣の毛皮で作ったような腰巻きと、獣の骨で作っただろう首飾りやピアスをしている。
人のことをとやかく言えるような格好をしているわけじゃないが、それでも汚い格好と思わざるを得ない。
……そんなことよりもだ。
盗賊は爆睡している今こそ、一撃で葬れる大チャンスである。俺は刀を両手で握り締め、息をも忍んで歩み寄った。




