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「すいませーん!」
……。
返事はない。やはりここも入れない家なのか――ったく、テストプレイだとしても酷すぎるな。もう少し作り込んでからプレイさせればいいのに。
「花村、そっちはどうだ?」
声を張り、少し離れた場所にいる花村に訊いた。
「こっちも全部ダメだー!」
両腕をクロスして返答する。
五戸しかない家には人の気配はなく、やはりこの村の生物はニワトリ一匹しか確認出来ない。
まさかミコリーヌに騙されたのかな……だとしたら最低だなあいつ。
「はぁ……」
深い溜め息、そして俺は頭を抱えた。
そんな時、「キッラーン! どうやら困っているようね貴方達!」
殺伐とした村の景観に場違いなモンスターが再び現れた。
「またお前か……」
凍てつく視線を魔法少女に突き刺した。
「はうっ!? また人を蔑むような目で見てるわね。せっかく助けてあげようと思ったのに、一生進行不能状態にでもなればいいわ!」
腕を組み、フグの顔真似をする。
「あれ、俺達を追って来たのか……」
脇腹を掻きながら花村が歩み寄る。
「どうした金也、不機嫌そうな顔をして?」
「いや……ちょっと」
魔法少女に凍てつく視線を送り続けていた俺は考えていた。
実はこいつはただのモンスターではなく、ゲームの進行に欠かせない存在なのではないのかと。
わざわざ俺達を追って来たというのは、多分選択を間違えた場合の保険だろう。
つまりは結局のところ、この魔法少女を仲間にしなければストーリーが進まない可能性が非常に高い。
「おい魔法少女。助けるってのは、一体何をしてくれるんだ?」
「魔法少女て……まあいいわ。ようやく私に興味を持ってくれたみたいだから、教えてあげる」
余程寂しかったんだな。
「実は、この村の住人は極度の人見知りなの。初対面の人間はまともに会話もしれくれないんだぞ!」と、無駄にウィンクした。
「マジか。てことは鍵が閉まってても中に人はいるのか?」
「その通り、きっと今も窓の隙間から私達を覗き見してると思う」
魔法少女の話を聞き、改めて周囲の家に目をやった。どことなく、視線を感じるようになったのは気のせいかな。
「君の話通りだとして、俺達はどうすれば村人と会話が出来るようになるんだ?」
「簡単よ。私が貴方達の代わりに話をしてあげる」
花村の質問に答え、両手を腰に当てて胸を張る。
「代わりって……何でお前は村人と会話が出来るんだよ?」
俺は素朴な疑問を投げかけた。
「実は私、この村の宿屋主人の一人娘なの! だから村人とも難なく話す事が出来るわ」
「嘘つけ。お前モンスターだろ」
即疑った。
「ちょ、今はもう違うの! 今は超絶可愛い魔法少女クリスタルバー・サンなんだから!」
左目にピースした手を当て、舌を出してウィンクする。
「いちいち変なポーズ取るなよ……まあいいや。もう何だっていい。お前がそこまで言うなら仲間にしてやる」
「ホントに!」
瞳の中にスターダストが煌めく。
どうして村の住人である魔法少女が人見知りでは無いんだ、というような小さな疑問が山ほどあるが、他にゲームを進行させる手段などないので仕方ない。
「よーし、サンは頑張るんだぞ!」
魔法少女は両手を上げてガッツポーズする。
「いいからさっさと宿屋に案内してくれよ。俺達は一刻でも早くゲームをクリアしたいんだからよ」
「案内なんてするまでもない。私の家はここだし」と、魔法少女が指したのは目の前の家だった。
「んーと……」
そして、F字の形をした安っぽい鍵をどこからか取り出し、その鍵で扉を開錠する。
「さあどうぞ、入った入った」
魔法少女は扉を開けて俺達を家の中に手招きする。俺と花村は警戒しつつ中へと足を踏み入れた。家の中は思いのほか綺麗で、木の香りが心地良い。
外観から想像できた通りの木造りの家だな。
「パパ、ただいま!」
玄関から入ってすぐ右隣りにカウンターがあり、その中には明らかに手抜きで作られただろう二次元のおじさんがいた。
少し角度を変えて見れば紙のようにペラペラで、表情も動きも全くない。単なる人型のパネルである。
「おいふざんなよ。どこがパパだコラ。ただの絵じゃないか」
魔法少女がからかっているのかと思い、眉間を寄せて文句を言う。
「ふざけてないもん! 本当に私のパパなんだから!」
反論する魔法少女だったが……、
「イラッシャイマセ。オ泊マリニナラレマスカ?」
何かのセンサーが反応したかのように、カタコトの音声がパネル辺りから流れた。
「……」
しばらく沈黙したのち、魔法少女は何事も無かったかのように笑顔で振り向いた。
「パパが泊まるか、だって」
「いや、スルーされると思ったら大間違いだからな」
今の違和感を看過するわけにはいかなかった。
「ちょ、何を疑ってるのよさっきから、これは本当に私のパパなのよ!」
彼女は断固としてパネルをパパと言い張るようだ。
「こんな平面的な父親がいてたまるかっての。じゃあなんだ、お前母親は四次元だってのかよ?」
「は? 意味が分からないんですけど」
魔法少女は俺の冗談に真顔で言い返してきた。火に油を注ぐのが上手なようだ。
「花村、行こうぜ。やっぱりこいつ信用できねえ」
玄関横の壁に寄りかかっていた花村の肩を叩き、共に外へ出ることを促す。しかし、花村は逆に俺の足を止めるように言う。
「まあそうカリカリするなよ。サンちゃんの言うことが嘘だと断定は出来ないだろ」
何がサンちゃんだ。
「ぅぅ……花村さんは優しいんですね。もしマジックポイントが回復したら、花村さんだけは殺さない事にします」
目を潤ませる魔法少女。
また一人花村のファンが増えた――って、今の言葉に魔法少女の狡猾な思惑全てが秘められていた気がするんですけど!
「おい待て魔法少女。お前もしかして、俺達の仲間になり、宿屋で休んでマジックポイントを回復し、その後俺達をぶち殺すという算段を立てているんじゃないだろうな!」
名探偵のごとく、カッコ良く人差し指を突き出しでキメてみた。
「べべ、べべ、べべ、べつつ、べつつに、べ別にそんな事は考えてない!」
そうかよく分かった。
「ほらな、やっぱり俺の思った通りだ。こいつは俺達を殺すことしか頭にねえ」
「ぐぬぬ……」
歯を食いしばり、汗の量が尋常じゃない魔法少女サンちゃん。
「ちっくしょう! バレちまったら仕方がないわ。貴方の言う通り、こんなペラペラ野郎は私のパパなんかじゃないわよ!」
どうあがいても疑いが晴れないと悟り、態度を一変させて開き直る。
そして、「覚えてなさいよ、絶対にぶっ殺してやるんだからね!」などと定番の捨て台詞を吐き、一人足早に宿屋を飛び出して行った。
「二度と現れませんように」
俺は心から願う。
「……いやあまさか、金也の言う通りだったか。なんかショックだなぁ」
頭を指でポリポリと掻きながら花村は話を続ける。
「にしても金也って意外と賢いよな。何と言うか、頭の回転が早いよな」
絶対に『意外と』は要らなかったが、頭の回転が早いというほめ言葉は素直に嬉しかった。
「別にそんなことねえよ。花村がお人好し過ぎるんだ。そんな性格でよく芸能人やってられるな」
芸能界は弱肉強食という偏見から出た言葉である。
「で、これからどうしようか。結果的に宿屋へ入れた事は良かったが、こんなパネル野郎が重要な情報を持ってるとは思えないよな」
なんて疑心を持ちつつも、俺は宿屋のペラペラ主人に訊いてみた。
「あのー、このゲームをクリアする条件とか知ってますか?」
「ハイ、知ッテイマス」
「マジで!?」
やった、見た目はペラペラだけど中身はちゃんとあるようだ。
「北ノ洞窟ニ、盗賊ノアジトガ……」
長くのろい宿屋の主人の話によると、北にある洞窟に盗賊のアジトがあるようだ。
その盗賊は度々この村に運ばれる王国からの物資を襲撃したり、貧しい村人を脅して金品や食料を奪ったりと、ここの村人は多大な迷惑を被っているとのこと。
ま、早い話、その盗賊を倒せってことだ。




