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只今、監禁中です  作者: やと
第一章 女神か死神か
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 信号が青に変わり、再び歩き始めながら巫女について考えた。

 普通に考えて、俺みたいにこれといった長所の無いような男を、彼女のような才色兼備が出会って間もなく自宅へ誘うなんてことがあり得るのだろうか?


 まさか……詐欺?


 人気の無い雑居ビルに連れて行かれて高額な壷や絵画を買わされるのではないか?


 もしくは……変人?


 高学歴ほど変わった人が多いという噂を耳にしたことがある。すでに天然っぽい一面が垣間見えているし、彼女もその類かもしれない。


 ……そうだな。


 きっと巫女は変人なんだ。

 ひん曲がっているのは感性であって、性格ではないはずだ。

 世界は広いし、俺みたいなモブ男がタイプという女の子がいても不思議ではない。


 自分に自信を持とうぜ、俺。

 これほどまでに透明感のある女性が詐欺師であるわけがない。

 俺の直感も巫女は安全だと言っている。

 可愛いは正義だ。

 正義なんだ!


「──ここが私の家よ」


 カラオケ店から歩いて十五分ほど街中を歩き、閑静な住宅街にそびえ建つ高級マンションの前で足を止めた。十二階建ての白い外壁のマンションで、地上は広い駐車場になっている。

 特段変わったデザインでもなくシルエットは長方形なのだが、シンプルイズベストというのか、平均年収が一千万以上の人々が住んでいそうな雰囲気がある。

 駐車場に停まっている車も高級車ばかり見て取れるし、ボンネットに寝そべる野良猫も何だか品があるように見える。


「本当にここに住んでるの? 家賃高そうだね」

「家賃なんて払っていないわ。買ってるからね」

「え!?」

「さ、美味しいワインがあるから、早速上がって乾杯でもしましょ」


 巫女に手を引かれてマンションの入り口に向かう最中、俺はとある文字が頭を過ぎった。


 逆玉の輿。


 大抵良い大学に行くのは経済的に安定した家庭に生まれた人間だ。

 もしかすると巫女は社長令嬢だとか、医者や政治家の娘なのかもしれない。

 少なくとも、金持ちの娘というのは間違いないだろう。品もちゃんとあるし、何気ない所作からも何不自由ない環境で育ってきたのだろう印象を受ける。

 華麗なる一族の一員であっても違和感ない。こんな高級マンションを娘に買い与えて一人で住ませるほどの経済力。

 巫女は現在何もしていないと言っていたが、このマンションを見れば納得だ。きっと何もしなくても毎月通帳に百万円くらい振り込まれるだろう。

 これはひょっとすると、ひょっとするかもしれない。

 専業主夫になる心構えは、もう完了致しました。


「ただいま。開けて」


 エントランスに入ると、巫女は誰かに声をかけるように言葉を発した。するとエレベーターのある奥の通路へと続く自動ドアが開いたのである。

 空間の中央には四角柱の機械があるのだが、てっきりそこの操作パネルでドアを開けるのかと思ってた。


「何今の?」

「音声認証。最新セキュリティのマンションだから、物理的な鍵はないの」

「すげ……テレビでは見てたけど、もうそんな時代なんだな。俺の住むアパートなんてオートロックすらないのにさ」

「んふ」


 巫女の後を付いて歩き、奥のエレベーターの前まで移動する。

 エレベーターはすでに一階にあり、中に乗り込んだ。四畳ほどはある広い空間で、壁一面に貼られた鏡に目が留まる。

 体は火照って熱いのだが、顔は血の気が引いて白くなっていた。どうやら俺は自分で思っている以上に緊張しているらしい。


 そりゃそうだ。


 今から俺は生まれて始めて一人暮らしの女性の部屋に招かれるわけだ。

 ここまで来るとやらしいことすらも考えられない。ただただ緊張で全身が強張り、手が震える。


「なんかエレベーターの中って変に緊張するね」

「そ、そうだね」


 沈黙を続けまいと、巫女は気を遣って言葉を発しただろう。

 動揺している俺はその言葉が聞こえてはいるものの、定型文的な返事しか出来ずに会話は終了する。


 ……。


 緊張し過ぎて、吐きそう。

 自分の神経が図太いと自負しているけど、こういうのは駄目だ。

 色々とこの先に起こるだろう展開を脳内シミュレーションしてきたけども、いざその時が来ると頭は働くことを止めてしまう。

 やはり経験値は勢いで補えるものではないってことだ。恋愛経験のない俺にはハードルが高く、飛び越える方法もよく分からない。


 無言のまま、エレベーターは最上階である十二階で停止する。

 長いようで短い時間だった。


「ここよ」


 エレベーターを出て、通路の真ん中当たりにある部屋の前で足を止める。部屋の番号は『1202』だ。

 巫女は玄関扉のドアノブを掴み、開けた。


「鍵かけてないの?」

「私が帰ったことをAIが感知して自動で開錠してくれるの」

「マジすか」


 すげー時代になったものだ。


「お邪魔します」


 部屋の中に入ると甘い香りが俺の鼻腔に漂う。男友達の家では嗅いだことのない、女子特有の香りだ。


「これを使って」

「あ、ありがとう」


 三和土たたきに脱いだ靴を揃え、用意された白いスリッパを履いた。巫女は先に廊下を歩いて行くが、俺はまず深呼吸をする。


「はー……ふう……」


 気持ちを整えたのち、気合いを入れるように両手で頬を叩き、奥へと進んだ。

 廊下を歩きながら目を右左と動かす。右側にトイレ、左側に洗面所の扉を確認する。

 そこを過ぎると廊下を抜け、だだっ広い空間が広がった。


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