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只今、監禁中です  作者: やと
第四章 仮想世界
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「根拠って、さっき自分でマジックポイントを使い切ったと言ってたろ。見た感じ魔法しか使えなそうだし。違うのか?」


「ぅぅ……正解です」と、体を折り曲げてうなだれた。


 意外に素直だな。


「だったらもう争おうとはしないで、今日のところは諦めて帰れよ」

「……うん。不本意だけど、今の私じゃ貴方達を滅殺できないわ。仕方ないね」


 魔法少女は頭を上げ、魔法のステッキを地面に突き刺した。


 すると――ズズズズ……。

 大地に溶けていくように、巨人は土へと還っていった。登場こそはインパクトのあるものだったが、最後は呆気なかったな。

 少し魔法少女の物分かりが良すぎる感じもしなくはないけど、理不尽かつ理解不能な急展開はテレビゲームではよくあることだ、気にする必要はないだろう。


「じゃあ村に急ごうぜ」

 気を取り直して花村に言った。


「いいのか? あの子を放って置いて」


 お人好しの花村の視線方向へ頭を向けると、潤んだ目でこちらをジッと見つめる魔法少女が佇んでいる。


 ……。

 このパターンはまさか……。


「貴方達、村に行くの?」


 そう訊いてきた魔法少女の言葉から、この先展開されていくだろう未来が俺には見えていた。


「行くとしたら、何なんだ?」

 脱力感たっぷりで訊き返した。


「だったら、私を仲間に入れなさいよね!」


 やはりそうきたか。


「悪いけど、信用できないからそれは無理」


 俺はハッキリと断った。


「ええ! どうしてよ!?」

「どうしても何も、言ってるだろ、信用できないんだよ」


 マジックポイントが無いならなんの役にも立たないだろうし、また不気味なババアに分離する可能性も否めないし、何より巫女が作ったゲームだけに警戒を怠りたくない。


「そんなぁ……。仲間にもなれないとか、私は一体何の為に生まれたの……ぅぅ……」


 魔法少女はまたうなだれた。疑心暗鬼の俺は冷たい視線で見つめる。


「おい、連れて行くくらいいいじゃないか。もうあの子は危険じゃないんだろ?」


 優しい花村が眉を上げて俺に迫る。


「甘いって。最近のゲームは可愛らしい容貌をしたキャラクターほど裏切るんだ。クリアする為に必要で無いなら、面倒事になりそうな事は極力避けた方がいい」

「そういうもんか?」

「そういうもんだよ。ほら、行こ行こ」


 腑に落ちないような顔を見せる花村を制し、強引に体を引っ張って歩き出す。俯いて佇む魔法少女を置いてきぼりにするのは可哀想だとは思うが、ここは心を鬼しよう。

 少し大袈裟だけど、花村が誠実で真面目で純粋で馬鹿な以上、俺がしっかりしないとこのゲームをクリアできる気がしないしな。

 とにもかくにも、一刻でも早く村へ向かおう。


「なんだか申し訳ないなぁ……」


 ちらちらと後ろを振り返りながら花村が言う。気持ちは分かるが、俺は話を切り替える。


「でもさ、凄かったなさっきの。迫力が半端なかったぜ」


 もちろん巨人の事を言っている。


「ああ、ホントにな。……正直、俺はあれを見た瞬間、このゲームが世に出て欲しくないと思ったよ」


 花村は人差し指で頭を掻いて、苦そうな顔をした。


「どうして?」

 理由を訊ねる。


「だってさ、あんな大迫力な演出を肌で感じ取れるんだぞ。映画で何億円もかけて作るCGが紙芝居みたいに思えるよ。それに、このゲームシステムを応用すれば、誰だって理想の世界を生きられる。映画やドラマに自分を重ねたり、夢を見る時代が無くなりそうな気がしてさ……」


 テンションを下げ、背後の先でうなだれている魔法少女のようにこうべを垂れる。花村の言うことはあながち間違ってはいないだろうな。

 すぐにどうこうなるとは思わないが、このゲームシステムが色んな事に応用できると思うのは同感だ。

 素人目で見ても、このゲームシステムは新しい時代の技術だ。代わりに何かが淘汰されても、何ら不思議な事ではない。

 そうか……そう考えると、なんだか寂しいな。


「――なんか、近くで見ると寂しい村だな」


 すっかり競争していたことを忘れていた俺達は、モンスターに警戒しながらしばらく歩き、何とか無事にはじまりの村へと辿り着いた。

 村には木造建築の家ばかりが点々と建っており、それ以外に目立つものは畑や井戸くらいで、日本の田舎を彷彿とさせるような雰囲気を漂わせる。

 率直に言えば殺風景で、廃村間近と言っても大袈裟ではない。というのも、まるで人気ひとけがないのだ。

 せいぜい確認できる生き物は、不規則に地面を歩く一匹のニワトリだけだった。


「何だか不気味だな。今度こそゾンビとか出るんじゃねえの?」と、俺は視線を散らして警戒する。


「ゾンビか……ゾンビ役ってのもやってみたいな」


 花村は腕を組み、明後日の方向を見ながら妄想にふける。


「何を呑気な事を言ってんだよ。まあ突っ立ててもどうしようもねえから、宿屋が無いか探してみようぜ」

「宿屋……なんだ、疲れたのか?」


「違うよ。RPGってのは大体宿屋とか酒場の主人が重要な情報を持ってたりするんだ」


 ミコリーヌは村人に訊けば色々と教えてくれるとか言ってたし、確実に人が居るかつ会話が出来そうな宿屋が無難だろう。


「へぇー。ま、金也に任せるよ」

「よし、なら宿屋を探そう」


 花村にゲーム進行の舵を任されたので、さっそく宿屋を探す事にした。

 実際探すと言っても、見た限りこの村には五戸の建物しかない。一目で宿屋と分かるような大きさの建物や看板は無いけど、苦労することなく見つけられそうだ。

 とりあえず一番近くあった家に入ろうと、俺は木製の扉のドアノブを掴んだ。


「あれ、鍵が閉まってる……」


 何度か押したり引いたりを繰り返したが、少なくとも俺の力だけでは開きそうにはない。これはもしや、もともと仕様上入れない家なのかもしれねえな。


「ここはダメだ。花村、あっち側の家を調べてくれ、俺はこっちの家を見てみる」

「え、ああ分かった」


 東側にある家を花村に調べてもらうように頼み、俺は西側の家を調べる。


「……っ、ここもダメか」


 前の家と同様に、別の家も鍵が閉まっていた。人の気配はまるで感じないが、今度は一応扉を叩いてみる。

 ドンドン!


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