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只今、監禁中です。  作者: やと
第三章 スーパースター

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10


 さて。


「短い間に色々とあったけど、ようやく着いたな」


 さっきまでの情けない面が嘘のように、イケメン俳優と呼ばれるに恥じない凛々しい表情で言う花村だが……。


 その言葉は、この目の前にある三百段の階段を上ってからにしようぜ。


 住宅街の中にある、望宝神社へと続くこの長い階段は、小学生だった俺にとっては良い遊び場だったが、今見るとエグいな。

 何度もアホみたいに上り下りしてた昔の俺って凄すぎ。子供の体力って無尽蔵なのかな。


「しかし長い階段だな。こりゃあ女の人は嫌がりそうだ」


 残念。恋愛成就で有名なこの神社の参拝者の半数以上は女性である。今はどうなのか明確ではないけど、男性よりかは多いと思う。


「金也は、この辺に住んでいたのか?」


 階段を上りながら、花村が訊く。俺はコクリと頷いた。


「へー。てことは、丘馬中か?」


 コクリ。よく知ってんな。


「丘馬中って、俺が中学生の頃は不良ばかりいるって有名な学校だったんだけど──もしかして、金也も不良だった?」


 答えづらい質問だな。不良と言えば不良だったかもしれないけど、正確には不良になりきれていない不良だった。

 俺は中途半端に、ごまかすように首を傾げて薄笑いを浮かべる。


「はは、なんだよ。別に隠す必要はないだろ。ちなみに俺は不良と真逆の引きこもりだったんだぞ」


 マジかよ。そりゃ意外過ぎるな。


「俺が自分の凄まじいポテンシャルに早く気付いていれば、今頃ガチでハリウッドスターだったかもしれないんだけどな」

「……」


 ポジティブな時は本当にポジティブな男だなと、目を細めながら花村を見ていた。


 で。


「──到着!」


 階段を上りきった俺達は対照的だった。

 花村は息切れ一つしていないのに、「ゼーハー……ゼーハー……」俺は死にかけている。

 きっと花村は定期的に身体を鍛えているんだろうな。尊敬度が多少アップだ。


「結構広いな。売店は……あれか?」


 鳥居をくぐり、神社へ入る。

 望宝神社は周囲を木々に囲まれていて、参道を八十メートルほど歩いた先に本殿がある。花村の言う売店(札所)は、参道の途中で右に曲がった場所に発見した。

 辺りを軽く見渡した感じ、参拝者は俺達だけのようだ。

 俺達も正確に言うとお守りを買いに来ただけなので、参拝者というわけでもないんだけど。


 しかし、なつかしいな。

 昔はもっと広く、色々な物がデカく見えていたんだけど──俺も成長したってことか。


「すいませーん。御守り一つ貰えますか?」


 一直線に売店へと行き、屋内にいる神子に声をかける。花村の声に反応して振り向いたのは、白衣と緋袴ひのはかまを着た清楚で綺麗な若い女の人だ。

 ただ、別の『巫女』を知っているだけに、清楚に見えるこの神子を素直な目で見れない俺がいる。


「うわっ、花村結城さんですか!?」


 さっそくバレたな。やはり若い女性には知名度があるようだ。


「そうですよ。俺が将来のハリウッドスター、花村結城です!」


 自慢の白い歯を見せてグーサインする。


「……え」


 おいおい、神子の目が点になってるぞ。


「あ、御守りでしたよね……あのー、うちは恋愛成就のお守りしかないんですけど、よろしかったですか?」


 対応に困り果てた神子は話を御守りに切り替えた。そして、怪訝そうに俺と花村を交互に見ている。

 絶対に俺達の関係を疑っているな。


「はい、それでいいです」


 少しはためらえよ。


「いくらですか?」

「555円になります」


「じゃあこれで」

 花村は千円とウィンクを渡した。


「では、445円のおつりです」


 返ってきたのはおつりと、特別ご利益がありそうには見えないごく普通の赤い御守りだけだった。


「ありがとうございました」


 そう言って頭を下げる神子だが、心なしか花村を見る目が引いているような気がする。

 もしかして、本当に俺達がガチガチのガチだと思っているのだろうか?


「ふう……。じゃあこれ持ってさっさと戻るか」


 複雑な心境ではあるが、俺は花村の言葉に頷いた。この場から早く消えたい。

 それに実を言うと、俺の中で逃げるという気持ちは完全に折られている。もちろん声を出せるようになりたいのもあるが、一番の理由は別にある。

 それは先ほど警察官から逃げている時、花村が強引に俺の体を雑貨屋へ引っ張ったことだ。

 たとえば腕相撲をする時、手を組み合った瞬間に相手の力量が分かってしまうように、花村が俺の体を引っ張った瞬間にその力の凄さに気付いてしまった。

 手錠が花村と繋がっている間は、どう足掻いても逃げられる気がしない。そんな答えに至りました。


「どうする金也、一応参拝でもする?」


 花村の言葉に、俺は首を横に振った。

 神の存在を否定しているわけじゃない。参拝したところで何かが変わるとは思えないからである。


「そっか。俺も興味ないし、じゃあ行こう。女王様が待ってるからな」


 コクリ。

 目的だけを達成して、俺達は早くも望宝神社を後にする。


「まだ十二時前かよ。もう昼過ぎてんのかと思ったのに」


 携帯電話を見ながら花村が息を吐く。

 確かに、体感的にはここまで来るのにかなりの時間を費やしたと思っていたが、実際にはそうでもなかったんだな。


「こんなに早く戻るなら、さっきのタクシーに待ってもらっておけば良かったな」


 同感だ。


 かくして、巫女に頼まれたお守りを手に入れた俺と花村は、急ぐことなくゆっくりと長い階段を下って行く。

 巫女のマンションを出てからこの望宝神社に辿り着いたまでの間に、数多くのフラグが立っていたことなど、今の俺達に知る由も──あったかもしれない。


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