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只今、監禁中です。  作者: やと
第三章 スーパースター

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「──ッ! ──ッ!」


 思い立ったらすぐ行動。俺はとにかく不審度をアップさせようと、警察官の目の前で変顔をしてみる。

 ピクピクと警察官の額に血管が浮き出た。顔も赤い。


「そういうのはいいから、名前は?」


 かなりご立腹のようだが、やはりこの程度では任意同行も求められないか。だが、対極の顔をしている二人組にさぞかし警察官も困惑しているはず。このペースでいけば、連行せざるを得なくなるだろう。


「りょうちゃん、もう面倒くさいから連れて行こうよ。署で脅せばペロッと吐くって」


 ここにきてようやく口を開いた女警察官がナイス提案をした。しかし、やけに馴れ馴れしく男警察官に話をかけている。


「おい、勤務中はその呼び方をするなって言っただろ! 誰が見てるか分からないんだぞ!」


 小声で女警察官を怒っている。

 これは間違いなくこいつら……デキてるな。


「ほんと、りょうちゃんて決断力がないよね。だからいつまで経っても奥さんと別れられないんでしょ。私、もう待つの疲れたんだよね」


 不倫かよ。


「おい冷子、もう少しだけ待ってくれよ。絶対に別れるからさ」

「いつもそればっかりじゃん。だったら期限を決めてよ」


 不審者(俺達)をよそに、警察官二人が痴話喧嘩を始め出した。


「……」


 呆れて沈黙していた俺に、ツンツンと花村が指先で肩を突付いてくる。振り向くと、花村は親指で道を差していた。どうやら今の内に逃げようと言っているようだ。


 だが断る!

 このまま粘れば確実に俺達は連行されるので、そのチャンスを逃すまいと俺は首を横に振って拒んだ。


「お前何考えてんだよ? いつまでも警察の相手なんかしてられないだろ」


 花村が囁くように耳打ちする。それでも俺は頑なに首を横に振った。


「……まさかお前、警察に助けてもらおうなんて考えてる?」と、至近距離で目を据える。


「金也? そういえばさっきから金也って……」


 地獄耳の男警察官が何かを思い出したように、痴話喧嘩を止めてこちらを振り向いた。近距離で目を据える。


 ギクッと、思わず体が反応してしまった。

 案外鋭いんだな。馬鹿なのか賢いのかハッキリとキャラ設定しといてくれよ。


「おい金也、変なこと考えるなよ。これ以上話をややこしくしないでくれ」


 いや、話をややこしくしたのはお前の責任でもあるんだが。


「金也って……もしかして君、あの時の男の子か?」


 意味深長に警察官が俺を見つめる。だけど俺は何を言っているのか、すぐには分からなかった。


「……」


 ああ……そういうことか。


「あっ、ちょっと待ちなさい!」


 俺は花村の手を引き、その場から逃げることにした。世間が狭いということを実感したからである。


「お、おい! 逃げないんじゃなかったのかよ!」


 花村の質問に答えてやるような余裕は無い。俺は花村を引っ張りながら必死に人混みを縫って走る。


「待てえ!」


 後ろから警察官が自転車で追って来てはいるが、人通りが多い街中ではあまりスピードが出せず、なかなか俺達に追い付けないでいる。


 どうにかこの人の多い環境を利用して振り切れればいいんだけどな。


 特に俺達が何かをしたわけじゃないし、一度姿を見失えば警察官も血眼になってまで追うことはしないだろう。


「おい金也、こっち!」

「!?」


 路地に入ってしばらく走っていると、突然花村が足を止めた。そしてもの凄い力で俺の体を引き寄せ、そばにある雑貨屋へ入る。


「きゃっ!」


 決して広いとは言えない店の中に客はおらず、レジの前に茶髪の女性店員が一人いるだけだった。

 その女性店員は突如駆け込んできた俺達に驚いて声を上げる。


「だ、大丈夫大丈夫。すいません、今ちょっとテレビの撮影で来てて」


 花村は大仏のマスクを取り、怯える女性店員に顔を晒した。


「は、花村結城……さん?」

「そうです。こんにちは」


 白い歯を見せる花村は手を差し出し、女性店員と握手を交わす。


「話は後で、とりあえずレジの中に隠れさせてください」

「えっ!?」


 女性店員の承諾を得る前に、俺達は強引にレジの裏に身を隠した。


「……あ、あの、一体何なんですか?」


 怪訝な表情でレジ下にしゃがんでいる俺達を見下ろす女性店員。茶髪の可愛いらしい人だ。


「いや、そのー、隠れんぼみたいな企画で、この街全体でゲームしてるんですよ」

「ゲーム……ですか」


 花村が嘘の説明をするも、当然のように女性店員は困惑の表情は変わらない。


「あのーすいません、ちょっとお聞きしたいんですが」


「!?」

「!?」


 聞き覚えの新しい男性の声──なんて勘の良い人だ。先ほどの警察官が店の中に入ってきやがった。


「は、はい?」

「あのですね、こちらの方に不審な二人組が来なかったですか?」


 あとは女性店員の判断に身を任せるように覚悟を決めて、俺と花村は息を殺していた。


 ドックン、ドックン。


 嘘みたいに、自分の鼓動がハッキリと聞こえる。捕まったら捕まったで仕方ないのだけど、この人だけには捕まりたくない理由が俺にはある。


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