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只今、監禁中です  作者: やと
第二章 監禁生活のはじまり
26/188

20


「叩いて被って……」


 巫女はバットを刀のように腰に構え、重心を低くする。この感じ、もはやジャンケンなんて前置きは無さそうだな。

 どうしようもないので俺も覚悟を決め──というか諦めて、稀代の天才と戯れてみようと思う。


「ジャンケンポン!」


 ブォン!

「おわっ!?」


 予想通りに、巫女はバットを抜刀するように横一線で振り抜いた。俺は間一髪で頭を下げて避けたのだが、立て続けに巫女はバットを振り回す。


ブォン!

ブォン!

「うおっ、ま、待てって!」


 片足に鎖を繋がれている手前、逃げ回るスペースが限られている。

 今は柱を壁にして、巫女との距離を一定に保ちながら逃げているのだが、同じ方向ばかりに逃がされて、段々と柱に鎖が巻き付いて短くなっていく。


 そして、「もらったぁあ!」


 とうとう鎖の長さが一メートル程になり、逃げ場を失った俺を巫女が仕留めようとバットを振りかざす。

 安全ヘルメットを被ってはいるものの、だからといってノーダメージが期待できるような物でもない。

 そこで俺は咄嗟にそばにいた鰻子の体を引き寄せて、盾にするように背中の後ろへ隠れる。

 勢いは止められず、巫女は鰻子の頭にバットをフルスイングした──バギッ!!


 なんと、バットは真っ二つに折れる。鰻子の頭がいかに頑丈なのかを証明する結果となった。


「ちょっとアンタ、鰻子を盾にするなんて最低ね!」


 折れたバットの先を向けて巫女が強く言う。咄嗟のことでの無意識な行動だったのだが、罪悪感が無いと言えば嘘になる。


「悪い、つい──って、お前には言われたかねえよ!」


 鰻子を壁にしながら言い返した。


「巫女、鰻子は大丈夫だよ。鰻子の取柄は頑丈なことだから、むしろ金也の役に立てて嬉しいんだよ」


 とてつもなく切ないことを、とてつもなく爽やかな笑顔で鰻子が言った。俺の罪悪感は倍増である。


「ほんとごめんな鰻──」

「隙有り!」

「ぶばはっ!?」


 まさかのタイミングで巫女の右ストレートが顔面に入ってきた。


「いってえな! 少しは空気読んで攻撃しろよ! てかパンチしてんじゃん! それ反則じゃね!?」

「私がルールなのに反則もクソもないでしょ。まだ時間は二分もあるのよ。一秒たりとも無駄にしたくないわ」

「うわぁっ!?」


 休む間もなく、バットを失った巫女は蹴りやパンチを駆使して俺を攻撃してくる。

 もはや叩いての要素も被っての要素もジャンケンポンの要素も無い。


 いじめです。


 俺は巻き付いて短くなった鎖を伸ばす為、柱を回るようにして動きつつ、必死に巫女からの攻撃に耐えていた。


「ちょっと、いいからアンタも攻撃してきなさいよ。つまらないじゃない。私は都合の悪い時だけ男女不平等を訴える馬鹿じゃないんだから、遠慮なくかかってきなさいよ」


 巫女は軽快にその場でリズミカルに跳ねながら、俺を挑発するように手招きする。

 だけど、巫女の格闘技センス抜群のキレの良い動きを見ていると、立ち向かう勇気なんて湧いてこない。


「お、俺は女には手を出さない主義なんだよ!」


 当たり障り無い言い訳をした──つもりだった。


「んふ、そんな戯言がかっこいいとでも思ってるの? それが差別の根源とも知らないで、正論ぶって抜かしてんじゃないわよ!」

「うごっ!」


 巫女は回し蹴りをして、俺のみぞおちにクリーンヒット。呼吸が出来なくなるような苦痛が襲い、俺は膝を着き、腹を両手で押さえた。


「女を殴らない主義を持つくらいなら、人を殴らない主義にしなさい。女をなめてるとすぐに足をすくわれるわよボケ」


 これまでの人生の中で、お前みたいに超人的な女に会っていたらそういう考えを持っていたことだろう。

 とどのつまり、今はそういう意識に変わったということだ。今の俺には、巫女に何も勝てる気がしない。


「──ジャスト五分。勝負は私の勝ちでいいわね。おかげで良い運動になったわ、ご苦労さん」


 巫女はキッチンの中に入り、冷蔵庫からペットボトルの飲み物を取り出した。

「ほら」と、ジュースを一本俺の布団の上に投げ飛ばしてきた。


「飲みなさい。冬だからといって、水分補給を怠るのはダメよ。ましてや、たかだか五分動き回っただけで汗だくになるような奴なんかはね」


 嫌みを込めて、巫女が微笑む。

 確かに俺は汗だくで、息を切らし、運動不足だということを確認したよ。

 一方の巫女は汗一つ垂らしてはいない。あいつ自身もロボットなんかじゃないのかと疑いたくなる。


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