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只今、監禁中です  作者: やと
第二章 監禁生活のはじまり
22/188

16


 客観的に見れば俺の自己防衛であり、これは単なる事故なんだが、巫女にとってそんな事情はただの屁理屈としか思わないだろう。


 ……よし、誤魔化そう。


「鰻子、頼む。巫女には俺が壊したことを言わないでくれ」


 腹黒い俺の頼みに、鰻子は迷うことなく「了解だよ」と笑顔で頷いた。


 さすが鰻子たん!

 アホで良かった。


 あとはバルコフが勝手に壊れたように見せかけないとな。

 バルコフをぶつけた時の痕跡が床には残っているが、バルコフ自体には目立つ傷跡は無さそうだ。

 床にあるヘコみは俺の体で隠すとして、あとは何かすることがないだろうか?


 ガチャン。

「え!?」


 毎度おなじみの玄関扉音。巫女の奴もう帰って来やがった。

 慌てる俺はすぐさまバルコフを抱きかかえ、床のヘコみを隠すようにして座る。


「お、お早いお帰りで」


 巫女は白衣を脱いでいて、白いパーカーの姿に戻っていた。見たところ手ぶらだが、こいつは布団を買いに行ったんじゃなかったのか?


「すぐに戻るって言ったじゃない。そんなことより……何か変ね」

「え゛」


 何かを察したように、眉をひそめて怪訝な顔を見せる。

 間もなく巫女はあぐらをかいた俺の足の上で眠っているように停止しているバルコフを凝視し始めた。


 こいつ、勘が良すぎる。


「じ、実は……」

「もしかして、壊したの?」

「はうあっ!?」


 バルコフが勝手に壊れたという説明をしようとしたが、巫女に的確な言葉を被されて動揺を禁じ得なかった。

 分かり易い反応を見せた直後、俺の頭を過ぎった三文字はオワタである。


 瞬く間に追い詰められた俺はパニックを引き起こし、自分でも理解不能な行動を取ってしまう。


「バルコフ! バルコフ!」と、バルコフの声真似をしながら、バルコフの体を腹話術のように動かした。


「……」

「……」


 鰻子と巫女が、嘘みたいに光のない目で俺を見つめてる。


 ……。


 氷河期が来たようです。


「すいませんでしたぁ!!」


 凍りついた空気に耐えきれず、俺は床を貫く勢いで土下座をした。


「まずは事情を話しなさい。その内容によってアンタをどうするか決めてあげる」


 巫女は腕を組み、土下座をしている俺の後頭部を踏む。

 この屈辱的な状態のまま、俺は正直にバルコフが壊れた経緯を説明した。


「突然バルコフが俺の鼻に噛みついてきたので、思わず反射的に振り払ったらその勢いで床にぶつかってしまい……壊れました」

「ほう、私が直したばかりのバルコフを床に投げて壊したのね。私が直したばかりのバルコフを」


「本当にすいませんでしたぁ!!」


 やたらと直したばかりを強調する巫女に慄き、頭を床にねじ込むようにして謝罪する。


「……ま、私は寛大だから、今回は正直に話したことを評価して許してあげるわ」


 思いのほかあっさりと俺の後頭部から巫女の足が離れた。まさかこうも簡単に許しを得られるとは思わず、拍子抜けした顔で見上げた俺の視界には………………鰻子から電流装置のリモコンを受け取る巫女がいた。


「あれ、巫女様、許してくれるんじゃ……?」

「許すわ。『バルコフを壊した』ことはね」

「ど、どういう意味だよ?」


 巫女はリモコンを持ってスイッチを押す構えを見せる。これはもう間違いなく電流不可避のパターンだろう。

 だが、せめて納得のいく説明をしていただきたい。


「バルコフを壊した謝罪は分かった。けれどアンタが尻の下に隠しているのであろう床の傷について、何か言いたいことはなかったのかしら?」


 ……。


「もしかして、透視とか出来ます?」


 ポチ。



 ──昔何かの漫画で、電気は浴び続ければいつかは慣れるもんだ、みたいな会話をしているシーンを読んだ記憶がある。

 それが真実なら、俺はあと何回電気を流されればいいのだろう。


 現時点での俺の経験から言うと、痛みや疲労は蓄積していき、耐えるという概念を超越して、俺の心身ともに容赦なくダメージを与えていく。

 慣れるどころか電気を流される恐怖感が回数を増すごとに大きくなっていくのだ。今の俺はどれだけ頭を柔軟にしても、いつか電気に慣れるという前向きな考えは持てない。


 所詮は漫画ということだ。

 現実は厳しく、残酷だということを、非現実的な体験をしている俺が悟るのだった。


「バルコフ! バ、バ、バルコフ!」


 再び修理されたバルコフ。鰻子と部屋の中を駆け回って遊んでいる。

 巫女はベッドで横になってテレビを見ていて、時折あくびをしていた。


 俺はというと、電気を流されてからずっと床の上で気絶していたようで、今ようやく目を覚ましたところである。


「あ、目が覚めたんだよ」


 倒れている俺の前でしゃがんだ鰻子が言った。今初めて鰻子を見たのなら、確実に天国に来てしまったと勘違いしていたことだろう。


「い、ててて……」


 全身が筋肉痛のようで、体を起こすだけでひと苦労だ。


「金也、大丈夫なの?」

 鰻子は首を傾げ、大きな目で見つめてくる。


「ああ、何とかな」


 気絶なんて生まれ初めての体験だ。望まぬ初体験ばかりが更新されていくぜ。


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