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只今、監禁中です。  作者: やと
第二章 監禁生活のはじまり

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「そう、なら良かったんだよ。てっきり嫌われたかと思ったから、鰻子は安心したんだよ」

「もう二度と飛び降りるなんて言うんじゃないぞ」

「分かったんだよ」


 監禁されてる男が、自殺をしようとしたアンドロイドを説教するっていう謎の状況……おそらく俺が人類初の体験だろう。


「でも遊ぶのは待てよ。とりあえず飯を食べたいんだ俺は」

「了解だよ。待ってるんだよ」


 どうにか事なきを得て、再び床に座ってクリームパンを食べ始める。

 鰻子はソファーに移動して、テレビを観賞し始めた。俺のいる位置からは画面が見えず、音声だけが聞こえる。たぶん政治家の汚職問題をニュースでやっているんだろうけど、鰻子は絶対に理解していないと思う。


 ところで、今何時なんだろ?

 ポケットから取り出した携帯電話を開き、電源を入れた。


 ……まだ十時半か。

 巫女は午後四時までには戻ると言っていたから、それまでだいぶ時間はあるな。


 ……。


「携帯?」


 って、電話あるじゃん!

 そうだよ、すっかり存在を忘れてた。手錠が外れた今、自由に両手は動かせるんだ。

 これで助けを呼べばいい!


 ……。


 おっと、圏外だ。

 仕方がない。鰻子に怪しまれないように電波の良い場所を探そう。


 俺は携帯電話を持ち、まずは柱の周辺を適当に歩いてみた──が、圏外だった。

 次にベランダの方へと近付いた。だが、しばらく待っても同じく圏外である。

 だったら外に出ればイケるかと思い、大開口の窓を開けようとした。


 すると、「金也、もしかして電話を使いたいの?」


 ソファーの上から鰻子が鋭い質問。もうバレてしまったか。さすが監視役様である。


「え、別にそういうわけじゃないぞ。外の空気を吸おうと思ってさ」


 不意な問いかけに動揺した俺は絵に描いたごまかし顔で嘘を付く。


「そうなの。まあどのみちこの部屋じゃ使えないんだよ

「え、使えないってどういうことだ?」

「特定の電波以外は妨害する装置があるんだよ。巫女は天才なんだよ」

「なんだって!? じゃあ電話使えないってことかよ!?」

「だからそう言っているんだよ」


 鰻子の話を聞き、すぐさま窓を開けて俺はベランダに出る。


「マジか!?」


 確かに、ベランダのどこへ腕を伸ばしてみても圏外だ。部屋の中に戻り、動ける範囲全てを確認したがどこも圏外、圏外、圏外、圏外!


「棒が立たねえ!?」


 どこもかしこも圏外ばかり。

 電話もメールもネットも出来ないなんて、これじゃあただの時計付きの電話帳じゃないか。

 ゲームアプリはネット認証が必要なのばかりだし、圏外の携帯電話ほど使えない物はない。

 高い買い物だったのに、電波がないだけでこれほどまでにゴミと化すのか携帯電話ってのはよ。



 ……。



 焼きそばパン、食べようかな。




 ──時刻は午後三時過ぎ。

 パンを食べ終わった後、鰻子がやりたがっていた叩いて被ってジャンケンポン風ゲームや、あっち向いてホイ、にらめっこなどのお子様向け遊びに一時間ほど費やした。

 さすがにそればかりでは飽きたので、鰻子にテレビの向きを変えてもらい、二人でテレビ観賞を始め、今に至る。


 床に長時間座っているのは楽じゃなく、鰻子の膝上を枕にして横になっていた。

 鰻子にソファーを動かすほどの力はなく、ベッドにある巫女の枕を勝手に使用する度胸が俺に無かった為、致し方なく鰻子に膝枕してもらっているわけだ。

 人肌のように温かく、程良く弾力のある太ももは寝心地抜群だ。


 本物の女の子に膝枕をしてもらってもこんな感じなんだろうと思う。


 マジで……何をやっているんだろうな、俺は。


 テレビで放送されているドラマの内容なんかまるで頭に入ってこないし、上を見上げればニコニコと笑顔を降り注ぐ鰻子の顔が見えるし、思考の着地点が見つからない。

 もはや緊張感も無いし、正直なところ眠たくてアクビが止まらない。


「ふあぁ……」


 そろそろ眠気に耐えるのが限界になった頃──ガチャン。


 ようやく部屋の主が戻ってきた。


「バルコフ! バルコフ!」


 先にリビングルームへ入ってきたのは猫のようなペットロボットだった。本当に生きているように走り回るそれは『バルコフ』と吠えている。

 全く意味は分からないが、喋っているわけではなさそうだ。確かこのロボットの名前がバルコフだったような……。


「あー! バルコフだよ!」

「いてっ」


 ロボットに反応して鰻子が立ち上がり、俺は床に頭を落とした。今日は頭部への衝撃が多い日だ。

 石頭で良かったぜ。


「ちゃんと大人しくしてたようね」


 そう言って姿を現した巫女はパーカー姿ではなく、代わりに医者の着ているような白衣を羽織っていた。そして髪の毛の一部が不自然に跳ねており、右の頬は押しつけていたように赤くなっている。


 推察するに、「お前、寝てたろ?」と、上体を起こして訊いた。


「ええ、やっぱ昨日の疲れが残っていたみたいでね。ものの見事に爆睡してたわよカス」


 不機嫌そうな顔つきで言い放ち、巫女は洗面所に向かった。


「……」


 うむ、女医っぽくて白衣姿も悪くない。知的な女性に惹かれるのは俺が馬鹿だからかな──って、また悪い癖が。

 俺はブルブルと頭を横振る。


「バルコフが元気になって良かったんだよー」


 鰻子がバルコフを抱きかかえ、俺の近くに駆け寄ってきた。


「金也、バルコフだよ」


 鰻子が俺にバルコフを紹介してくれた。

 尻尾を振って嬉しそうな態度だが、間近で見ても猫なのか犬なのか判断しづらいデザインだ。

 それに、これはこれで凄いロボットなのかもしれないが、鰻子を知った後では少しも驚けない。

 巫女にとってこの程度のロボットは、凡人がプラモデルを組み立てるような感覚で作っているのかもしれないな。


「直ってよかったな」

「うん。不慮の事故で動かなくなった時はさすがに焦ったんだよ」


 俺の記憶ではお前が破壊したはずなんだけどな。パラレルワールドの記憶なのかな。

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