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ジー……。
コホン。
よくぞ再生してくれました。
てことは、ようやく思い出してくれたのかな? 神田くん。
なんて、今さらこんな呼び方は気持ち悪いからやめておくわ。
昨日はありがとう。
素直に嬉しかったわよ。
日本に帰ってアンタの現状を知った時は正直言って残念極まりなかったけど、やっぱり本質は昔のままで安心したわ。
アンタは良い意味の馬鹿よ。
これは褒め言葉として受け取っておきなさい。
まあ、色々と話したい事はあったのよ、ずっとね。
私は今日という日の為にこれまで生きてきたと言っても過言ではないから、アンタに伝えたことは山ほどあるのよ。
私ね、両親が亡くなってから、唯一の支えがアンタとの思い出だったの。それだけが日々を生きるモチベーションになっていたってわけ。
それが無ければ、本当に私はこの世界を深く憎んでいたかもしれないし、人に優しく出来なかったと思う。
ありがとう。
だから今はその大切な思い出を忘れてしまわないように、本格的に自分の脳を調べてみようと思うわ。
……でもね、実を言うと昨日の夜は本当に頭痛は無かったの。
もしかすると、アンタの馬鹿が移って、私のデリケートな脳が低脳化してしまっていたのかもしれないわね。
なんて、多分、頭の中はアンタの事しか考えていなかったから、余計なエネルギーを消費しなくて良かったのかもね。
私も単純な頭を持っていたということ。笑っておきなさい。
……。
本当に言いたい事がありすぎて悩むわ。
とりあえず、古い考えも必要だけど、古い時代に取り残されていくのは駄目よ。だから常に新しい物や情報に触れるようにしなさい。
今は時代に流されるだけだとしても、いつかはその流れを引っ張れるような人間になりなさいよね。
アンタは何だって出来るわよ。
自分を信用出来ないのなら私の言葉を信じなさい。
いいわね?
……本当はもっとちゃんと色々と教えてあげたかったんだけど、私も不器用だったみたい。
んー……と、あっ、鰻子は私が連れて行くわ。
アンタの為に鰻子は造ったけど、やっぱり私がいないと不具合があった時にどうしようもないしね。
本人は嫌がるだろうけど、ま、どうにか説得してみるわ。
……あとは、花村や京香にはちゃんと説明してあるから、これまでのように接しても大丈夫よ。
……それで、うーん。まあこれくらいにしておくわ。
ちなみに、私がアンタを監禁した理由が知りたかったら、卒業アルバムの中にある、クラス全員が書いたアンケートを見てみなさい。
じゃあ………………と、アンタだけ言って、私が何も言わないのは不公平よね。
一度しか言わないから、よーく耳に、胸に、脳みそに刻んでおきなさいよカス。
私もアンタが好きよ。
じゃあね、ばいばい。
ジー……。
録音されていたのはここまでだった。
色々と思うところはあるけど、ひとまず卒業アルバムのページを捲り、最後の方にある、クラス全員が書いた自分の簡単なプロフィールや夢などを書いたページで手を止める。
「……」
そこに書かれてあった文章を読み、俺はカセットプレーヤーを上着のポケットに入れて部屋を飛び出した。
【神田金也】
Q 貴方の夢は何ですか?
『レッドスリーみたいになる』
Q 貴方のしてみたい事は何ですか?
『ゲームの世界に入る』
Q 貴方の欲しいものは?
『頭が良くなる薬。あと有名人の友達』
Q 貴方にとって友達とは?
『大切なもの』
Q 貴方の好きなものは何ですか?
『レッドスリー』
Q 貴方の好きなテレビ番組は?
『レッドスリー』
Q 貴方の好きな遊びは?
『かくれんぼ』
Q 貴方の宝物は何ですか?
『家族』
Q 好きな異性のタイプは何ですか?
『レッドスリーのマキ』
Q 好きな人とどこにデートへ行きたいですか?
『家で監禁されたい!(笑)』
何とも昔の俺らしい、何の意味もなく適当に書いたような文章だ。当時はそれがウケるとでも思っていたのだろう。
それを真に受けるあいつもあいつだが、この事態の全ては何もかも俺の責任だったというのは認める。
【輝川巫女】
Q 貴方の夢は何ですか?
『科学者』
Q 貴方のしてみたい事は何ですか?
『人間みたいなロボットを造る』
Q 貴方の欲しいものは?
『心の強さ』
Q 貴方にとって友達とは?
『とても大切です』
Q 貴方の好きなものは何ですか?
『家族』
Q 貴方の好きなテレビ番組は?
『レッドスリー』
Q 貴方の好きな遊びは?
『分かりません』
Q 貴方の宝物は何ですか?
『カセットプレイヤー』
Q 好きな異性のタイプは何ですか?
『私を守ってくれる人。自ら水を浴びてくれる人』
Q 好きな人とどこにデートへ行きたいですか?
『一緒にいれるならどこだっていい』
俺が巫女に腹を立てていた事に腹が立ってきた。それがたとえ巫女の自己満足であろうと、俺に尽くしてきた時間は計り知れない。
なのに俺はその間、堕落した人生を送り、たった一人、純粋に俺のことを想ってくれていた存在を忘れてしまっていたのだ。
今からどれだけ謝罪しても、全ては俺の都合良く聞こえてしまうかもしれないけど、このまま巫女をアメリカに行かせてしまっては絶対に俺は一生自分を許せなくなる。
俺はマンションを下り、タクシーを探した。