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只今、監禁中です。  作者: やと
第十一章 原石

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「まさか俺もこんな急な事になるとは思ってはいなかったからさ、正直戸惑ってはいるんだ。巫女の奴、いい加減秘密主義をやめてほしいもんだよ」

「あのさ、記憶が消えるとか話してたろ? あれって、どういう事なんだ」


「俺もさっき聞いたばかりだから詳しく話せないけど、頭痛に関してだけ言えば、昔から巫女は頭の痛みに悩まされていたんだ」

「……巫女が倒れたのはこの前のが初めてじゃないって事か?」


「倒れたのは初めてだよ。ただ、頭の痛みは常時抱えていたんだ。あいつよく寝るだろ? あれって、頭痛を抑える為に寝てるんだってさ。巫女は――……」


 巫女は万能だ。

 あらゆる事に例外なくその才能を最大限に発揮できる、誰もが羨む天才の中の天才だが、花村の話ではその才能にはリスクがあったらしい。

 巫女の脳は常時フル稼働していて、ただボーっとしているだけでもエネルギーを消費し続けてしまう。

 五感から得る情報を自らの意思とは無関係に全て記憶する為、常に脳はスーパーコンピューター並の処理を行っている。

 ゆえに体にかかる負担も大きく、無理をすれば立ってさえいられなくなるほどの頭痛に苛まれ、最終的には自分自身をコントロール出来なくなるとのこと。

 それを防止する為に、巫女はこまめに睡眠を取る必要があったようだ。

 大きな音によく腹を立てていたのも、おそらく頭痛が悪化する要因になっていたからなんだと思う。

 音楽が嫌いなのは、たまに感覚が敏感になって共感覚化し、過剰に音色と共に不規則な色が目の前にチラついて見えてイライラするようだ。色聴というらしい。

 あくまでも俺の考えだが、巫女が銃を発砲したり暴力を振るのは溜まりに溜まったストレスを発散する為だったのかもしれないな。

 やられる側としては堪ったもんじゃないが、自分のバランスを取る為に巫女には必要なことだったのかもしれない。


「巫女が頭を痛めている時は笑い方が変わるから分かるんだ。頭が痛い時に普通に口を開けて笑うと頭に響くらしくてさ、だから、頭痛がする時は自然と口を閉じて笑うんだ。んふっ、てな」


「ああ……」


 思い返せば、確かにそういう笑い方をしていたような気もする。


 それにしても、「どうしてそういう大事な事をもっと早く話してくれなかったんだよ?」

「巫女に気を遣って言わない方がいいかなと思ってさ」


「俺にも気を遣えよ」

 冗談ぽく言った。


「だからこうして来たんだろ。さすがにあんな追い出され方したら、何も話さないってわけにはいかないしな。で、他に何か訊きたい事はあるか?」

「うーん。結局どうして俺は監禁されたんだ?」


 詰まるところ、やはりあらゆる疑問の中で一番気になる事である。


「それは本当に分からないよ。でも、今そんな事が重要なのか?」

「どういう意味だよそれ? 俺にとっては重要だよ」


「まあ気持ちは分からなくもないけどさ。今は金也自身がどうしたいかって事を考えた方……」


 ピリリリリ!

 話をしている途中で花村の携帯電話が着信した。


「あ、わりい」と、俺に謝ったのち電話に出る。


「もしもし……うん、えっ? ああ……分かった、今からすぐに向かうよ。うん、うん。はい、じゃあ後で」


 花村の話す言葉を察するに、今からすぐ仕事に向かわなきゃならなくなったようだ。


「ごめん金也。撮影早まったみたいでさ」

「うん、聞いてて分かったよ」


「また明日……いや待てよ。うーん。連絡するよ、なんか書く物ない?」


 花村は急いでいるようだったので、俺も慌てて部屋の中からボールペンと適当なチラシを見付けて渡した。


 花村はチラシ裏に自分の電話番号を書くと立ち上がり、「じゃあ後で着信入れといてくれよな。それと、巫女に会いたいと思うなら深く考えずに会いに行けよ。じゃあな」


 来てまだ間もないというのに、花村は香水の甘い香りをこの小汚い部屋に残したまま足早に出て行った。最後の言葉がものすごく引っかかったけど、それを実行する事は俺には出来ない。


 何かが納得できなくて。


 何かに不安を抱いていて。


 何かに恐れていて。


 何かに遮られていて。


 何かに縛られている。


 その何かが何なのか、二十歳を超えた俺が分からない筈もないが、それを受け入れる器が、今の俺にはまだ小さ過ぎるのかもしれない。


 簡単に言えば、勇気が無いだけである。


 一歩踏み出せばもう後戻りが出来ないような気がして、今まで築き上げてきた価値観がぶっ壊れるような気がして、そんなマイナス思考のスパイラルに頭を悩まされ、俺は今日という日を無駄に過ごすのであった。


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