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只今、監禁中です。  作者: やと
第十章 極道戦記

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10

「今日はお疲れ様でした」


 声をかけてきたのは杉内さんだった。その手には缶ビールを二本持っている。


「飲みますか?」

「……いただきます」


 特別ビールが好きではないけど、厚意を無下にするわけにはいかない。俺は渡されたビールを空け、一口飲む。「くーっ!」文字通り身に沁みる味だった。


「ところで杉内さん、本当は京香が何をしようとしているのか知っていたでしょ?」

 隣に腰を下ろした杉内さんに訊く。


「すみません。お嬢にそうしろと言われていたもので」


 やっぱりな。


「てことは、巫女の父親は居たってことですか?」

「ええ。それらしき人物はいました。急用だと言って、軽トラックを走らせて行きましたよ」


 正真正銘のクソ親父であることには変わりなかったか。


「それにしても人が悪いよな、杉内さんも京香も。別にあんな遠回しな事をしなくても、ちゃんと説明をしてたら戦ったのに」

「本気でやらなければ意味が無かったから……と言うことでしょう。人は追い詰められなければ、本当の自分というものが見えてきません。金也さんの本質は根性のある、いざという時はやる男だったってことです」


 そう笑みを浮かべるが、あまり褒められた気はしない。


「いやいや、あんな風に追い込まれたら誰だって理性崩壊しますって」

「いえ、人の多くは本質という『芯』の周りにメッキを貼っているものです。地位、名誉、人間関係、家柄、それらが剥がれた瞬間にいとも簡単に人を傷つけ、プライドを捨てて地べたを這いずり命を乞うような輩は幾度となくこの目で見てきました。元日本チャンピオンのボクサーなんかも、いざという時には使えないような小心者でしたしね」


「そんな説明をされると俺が凄い人間のように思えてしかたないんですけど、実際の俺は物凄く小心者ですよ。情けないくらいに」

「それでいいのです。男はいざという時だけに本気を出せばいいんですよ。大抵の事は女性に敵うわけないのですから。粋がっていても、すぐに本質は見抜かれるものです」


「毎回いざって時に本気が出せればいいんですけどね」

「大丈夫ですよ、金也さんは」


 どこまで本気で杉内さんがそう言ってくれているのかは分からないけど、とても耳障りの良い言葉だ。さすがに自然と笑みが零れる。


「あ、そういえば、盗聴していたとかで連れて行かれた男は何だったんですか? もしかしてあれも演技だったわけですか?」

「ああ、あれはお嬢の言う通りにビルの基礎になってますよ。とは言っても、コンクリートに生き埋めするわけではないです。うちで言うビルの基礎というのは、そのままビルの基礎を作る仕事をするという事です。うちは建設業もしていますから」


 それはそれでおかしな話だ。仮にあのミイラ男がスパイだったとしたならば、生かすという方が違和感ある。


「そんな事で許されるんですか?」

「今の時代、始末する方が色々と面倒ですからね。それに追々洗脳して逆にスパイをさせる事も可能かもしれません。ゴミと一緒ですよ、リサイクルは大切に、です」


「そう……ですね」


 杉内さんの笑顔が夢に出てきそうだな。これ以上裏の世界の話を知るのはよしておこう。というか、杉内さんに馴れないようにしないとな。


「あ? おい、どこか行くのか?」


 家から太華が出てきて、こちらに気付く事なく歩いていこうしたところを杉内さんが呼び止めた。


「お? 何でこんなとこで飲んでんだよ? さみーのに馬鹿かお前ら」


「うるせえ。お前はどこに行くんだ?」

 杉内さんが訊く。


「リベンジだよリベンジ。段々とムカムカしてきてよ」

 太華は絆創膏だらけの顔を見せて答える。


「何の話ですか?」

 話が見えないので杉内さんに訊いてみる。


「今日街の不良っぽい奴と喧嘩をしていたらしいのですが、その中で強い奴がいたらしく、ボコボコされたという恥ずかしい話です」

「ああ、だから顔が傷だらけなのか」


「ふん。今度は逆に俺が顔を腫らせてやるぜ!」

 拳を突き出して宣言した。


「おいおい。お前は街の治安を守るんじゃねえのかよ。自ら進んで喧嘩するのは違うだろ」

 呆れた表情で言った。


「俺がするのは決闘だ! 喧嘩じゃねえ!」

「何が違うんだよ」


 マジで馬鹿につける薬が発明されねえかな。


「とにかく、組の顔に泥を塗るような事だけするんじゃねえぞ」

「わーってるよ。日付が変わる前には戻る」


 全然杉内さんの忠告を分かっていなさそうなまま、馬鹿な太華は街へと向かった。


「元気ですね、あいつ」

「ガキなだけですよ。でも、あれくらい元気でなければ、うちの組を背負ってはいけません。今うちに色々と経験しておくのも大事なことですからね」


「へー」


 てことはあいつも敷かれたレールの上を歩かされてるって事になるのかな。まあでも、太華の場合は天職な気がする。


「金也ー!」


 頭上から俺を呼ぶ天使の声が聞こえた。見上げると、三階の部屋の窓から鰻子が手を振っていた。


「なんだー?」

「勉強が終わったから、みんなでゲームをして遊ぶんだよ」


 鰻子からのお誘いに、「ああ、今から行くよ」残ったビールを一気に飲んで立ち上がる。


「杉内さんも一緒に遊びませんか? 最近のゲームは面白いですよ」

「いいですね、たまには。付き合いましょう」


「じゃあ、行きますか」


 京香の家に泊まる事に抵抗があり、最初は当然不安だったけど、二晩ここで過ごした感想は――まあ、どちらかと言えば楽しかったかもしれない。

 辛い事や理解しがたい事や恐怖は感じたけども、寝る前に作られる楽しい思い出が悪い記憶を曖昧にしてくれた。

 友達と遊ぶという事はもちろん楽しいことだけど、京香達や鰻子や子供達と一緒に遊ぶという事はまた違う楽しさがある。


 誰一人として血は繋がっていないけど、家族や親戚と遊んでいるような感覚だったんだ。

 だから途中物凄く家族が恋しくなった。


 空白の期間に満たされなかった当たり前の愛情や思いやり、そのありがたみを再確認して、ただただ、家族に会いたくなった。

 ヤクザとかそういうフィルターを外してみた京香の家族は、確かに思いやりがあって、愛がある。


 反面暴力もあったり、毒のような言葉を平然と吐くような人達だし、複雑な家庭環境である事に変わりはないのだけど、そんな問題や、過去に囚われずに今を生きている、未来を見据えて生きている京香を見て、俺の価値観は良い方向に軌道修正された……と願いたい。


 自ら悲観な人生を歩んでいたけど、もっと俺も頑張らないといけないような気がしてきた。

 俺もまだまだ成長できる。というか、成長しなければならない。


 二十歳過ぎた大人だからとか、そんな事じゃなくて、一人の社会に生きる人間として、立派に生きて行きたいと強く思った。

 芯を持って生きる事、ブレずに前を見て突き進む事、三歳年下の京香から俺が学んだ事を、朝目覚めた時には忘れないようにしないとな。



 ――で、翌朝。


 ドンドンドンドン!!

 ドンドンドンドン!!


 朝、部屋の扉を壊すつもりとしか思えないほどの力で誰かがノックした。その激しいノック音に目を覚ました俺は、開ききらない目のまま本能的に扉を開けに起き上がる。


「親父、呼んでる」

「……」


 扉を開くと、そこには壁のように佇む巨人スキンヘッドがいた。俺は茫然として、口を開けたまま見上げる。


「一緒に、来い」

「あのさ、何でそんなに原始人みたいな話し方なんだ?」


「個性」


 理解した。


「で、え、親父が呼んでるって? 組長さんが俺を?」


 俺の問いに巨人スキンヘッドは頷いた。


「何で?」

「分からない。でも、悪い話ではない。なんか、楽しそうだった」


「はあ……。どのみち行かないっつっても強引に連れて行くんだろ?」


 俺の問いに巨人スキンヘッドは頷いた。


「分かったよ。じゃあさっさと行こうぜ」


 何の用だかまるで検討もつかないけど、今日でこの家とはおさらばなので、ついでに挨拶くらいはしておいた方が良いと判断した。

 巨人スキンヘッドは前を歩き、俺はその後ろで寝癖を直しながら付いて行く。

 そして二階へ下りて真ん中の通路を進み、組長の部屋の前で足を止める。


 ドンドンドンドン!!


 巨人スキンヘッドは扉をノックした。力加減が出来ておらず、激しい音を立てて扉叩いてる。

 わざとうるさい音を立てようとノックしているわけではなさそうだが、組長相手にこんなうるさいノックをするなんて見た目通りの鈍感さだな。


「入れー!」

 返事がしたので、俺達は扉を開けて部屋の中に入る。


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